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【読書(漫画)】失踪日記

ネットでオーダーしていた吾妻ひでおの「失踪日記」が、やっと到着。以前の日記にも書いたのだが、さまざまな書店で在庫切れの中、なんとか読みたいとネット注文した翌日に、銀座の本屋で平積みになっていたのを発見したという、おれ的因縁の作品。うれしいことに初版だった。

失踪日記_2.jpg

近ごろは世代間で常識の差があり油断できない。一応、書いておくが、吾妻ひでおはとても有名な漫画家である。その絵を見れば、なんとなく覚えがあるかもしれないけれど、おたく第一世代のデファクトスタンダードともいうべき存在で、いたずらにかわいい女の子と"シュール(うあああ、このフレーズは書くのが恥ずかしいぞ)"なシチュエーション、マニアックなSFのパロディで、時代を作った作家さんである。

本書は1989年、締め切りから逃げ、失踪した作者が自殺未遂をし、ホームレスになり、配管工になり、アル中病棟に入った経緯を「人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています」として、描いている作品だ。

「リアリズムの排除」ってそんなことはない。

山の中に入り、自殺に失敗し、浮浪者の食べ物を盗む浮浪者になり、捨てられた天ぷら油で飢えをしのぎ、発酵しかかったリンゴの熱で暖をとるといったすさまじいネタが、1ページにふたつくらい投げこまれ、それでいて、作家独自の温度をともなうニヒリズムのおかげで、悲惨にならないといった奇跡のような作品だ。生々しさこそ排除しているが、ベタベタのリアリズムをしのぐ、有無をいわさないリアリズムがある。うかつにおもしろいといえない迫力がある。「うああああ」という声を上げさせる凄みがある。

浮浪者編など、読んでいて、一瞬、こういう生活もありかな……と、思えないでもなかったりする。ないんだけどね、いや、でも、ちょっとありかも。

後半のアル中病棟のあたりなど、フィリップ・ド・ブロカの映画「まぼろしの市街戦」を彷彿とさせるものがあり、狂気とユーモアと幻想、そして死の影が見えてくる。作家が作家である視力、観察力と、表現力に唖然とする。

すごいんだけど……、とにかくすごいんだけど……、ほんとにすごいんだけど……、この体験をこういった形で、結実させた表現のそそりたつ迫力に圧倒され、人として感想が形にならない一冊だ。

最後に話はそれるが、作中、漫画家編にでてくる秋田書店の編集者、阿久津(邦彦)さんはぼくもちょっと縁があった。むかし仕事をしていた「ファミコンチャンピオン」という雑誌の編集長だったのだ。二十代のころ、何日も徹夜でやった入稿を終え、事務所の隅で寝ていたおれをいきなり蹴飛ばして「起きろ! 飲むぞ!」とかいわれ、それからひどい酒を飲んだりした。「百億の昼と千億の夜」のころ、阿久津さんが萩尾望都の担当をしていた話は聞いていたが、そうか、吾妻さんの担当もしていたのか。しかも勝手にネームを書いていたのか。ちょっと懐かしくなって、ググってみたが、阿久津さんの名前はほとんど出てこなかった。お元気なのだろうか。

※こちらのエントリーもどうぞ。

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コメント

 TBありがとうございました。
 吾妻さんにはゆっくりとしたペースでいいんで、これからもコンスタントに作品を発表していってもらいたいものであります。

■K-JOEさん
ほんとにそう思います。これからの生活をきちんと支えられるように、「失踪日記」はきちんと売れてほしいと思いますね。

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