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【読書】恐怖の存在(上下)

地球が温暖化しているという確実な証拠はない。

もし、地球が温暖化されているとしても二酸化炭素の増加との因果関係は未だに証明されていない。

え? ほんとなの? 本書は環境に関して"常識"とされているものを軽やかに打ち砕く、エンターテインメント作品である。

マイクル・クライトンとの付き合いは長い。「アンドロメダ病原体」から読み始め、「スフィア」、「ジュラシックパーク」、「ディスクロージャー」、「タイムライン」……など、ほぼすべての作品を読んでいるだろう。

好きな作家かといえば、ちょっと微妙だったりする。クライトンの作品を"小説"というには、抵抗があるのだ。

「ER」に通じる医療ネタと、アンドロメダに通じる研究所封鎖ネタと、「ウェストワールド」に通じるテーマパークの恐怖ネタ。この三種類のバリエーションを、入れ替わり使っている印象が強く、ステレオタイプなキャラクターづくりとあいまって、おれの中の"文系"の部分が、NOというのだ。

最新のテクノロジーに対する着眼点は感心するし、ジュラシックパークのようにそれを映画化したときの効果も熟知していると思うのだが、映画のためのプロットを読まされているような気もする。

なんかね。小説として読むには浅いんだよ。

恐怖の存在」もそんなクライトンらしさがあふれた作品ではある。あるんだけど、これが抜群におもしろかった。

プロットの主軸は環境テロリストとMIT危機分析センター所長との戦いになる。

動物の権利を主張するため、アリゾナ州でマクドナルドを焼き討ち、コロラド州では建設中のホテルに放火、ミシガン州では森の木々を釘だらけにしたり、環境問題を叫んで、テロ活動を行う団体は実在するそうだ。

「恐怖の存在」の環境テロリストはさらにスケールが大きい、南極では、断面が数キロに及ぶ巨大な氷山を分離させようとしたり、アリゾナに集中豪雨を起こしたりと、地球温暖化を印象づけるために、さまざまな手を使っていく。

その凶行を防ぐため、主人公たちは世界中を飛び回るのだが、ほとんど007映画のノリである。

クライトン節ともいうべきご都合主義が横溢しているし、最終的な敵の存在にはちょっと疑問が残る。読み方によってはカタルシスのないエンディングともいえるのだが、それでもおもしろいのだ。過去のクライトン作品すべてとくらべてもトップクラスといえるだろう。

そのおもしろさの多くは、小説の形を通して、語りかけるクライトンの主張から生まれる。地球温暖化、南極の氷が減っている、海面の水位の上昇しているなど、既定の事実だと思っていたことが、疑うべき仮説に過ぎないと思う脳内パラダイムシフトは、快感なのだ。

ぼくらの世代は、五島勉イデオロギーに支配されている。1999年7の月に恐怖の大王がやってくることを前提に生きてきたし、環境は未来に向けて悪化していき、地球は危機に陥っていると、考えるようになっている。どちらかといえば、怖い未来を想像するように、脳髄に溝が刻まれている。

「ハリケーンの被害は京都議定書を批准しないアメリカにとって皮肉な結果だよね」とか、いってきたし、「福岡に地震が多いのは、新しい地下鉄の路線が活断層を刺激したからだ」とか、聞いてきた。

未来を悲観することから生まれるものは、不安や恐怖だ。そして、その不安や恐怖から生まれるものは浪費と疲弊だ。

「地球環境を救え」というデマゴーグに容易に乗ってはいけない。その思いこみこそが、地球環境の悪化を加速させるかもしれないのだ。美辞麗句でも大義でも盲信に未来はない。

リテラシー(読解力)のありようこそが、この作品のテーマであり、60歳を過ぎたクライトンが次世代に託すメッセージなのだろう。

「地球環境を守ることは絶対的な正しいことだし、そのために行動すべき」というのは、"絶対的"にという思い込みによる思考停止をともなっているからこそ、あやしいのだ。

そのクライトンの主張は本書のクライマックスでだれが殺されるのかを見れば、明確になる。

いやほんとにおもしろかったよ。

読んでて思ったんだけど、クライトンの小説って、よくできた「学習まんが」なんだね。「マンガ人間のからだ」とか「マンガ天気のすべて」とか、お勉強させたいことが最初にあって、そこにストーリーをつけたような作品ばかり。さしずめ本書は「マンガ環境問題を疑え」でしょうか。

破格の小説だけど、知的な興奮が横溢している。とてもよく学習できました。だから、いいんだろうね。

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