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【読書】「凍」

おお、沢木耕太郎の長編ノンフィクションは久しぶりだ。ふーん。今度は山の本なの……と、気楽に読み始めたんだけど、これはやられた! 軽く読むつもりが、そのまま、最後まで読みきっちゃったよ!

「深夜特急」、「壇」の沢木耕太郎の最新作が「凍」だ。世界的なアルパインクライマー山野井泰史・妙子夫妻が挑んだギャチュンカン北壁の壮絶な登攀に精緻なフォーカスを当てたノンフィクションだ。山野井夫妻について、ぼくはまったく知らなかったのだが、読書を通して、この濁らない生命に触れられたことは、えがたい体験だ。

新田次郎、佐瀬稔、夢枕獏、村上もとか、谷口ジロー、石塚真一……、小説、マンガを問わず、クライマーものは傑作の宝庫だが、その中でもこの一冊は燦然と輝いている。

陳腐な感想を許さない、凍てつく美しさがある。淡々とした文章に見えて、千年の建築を支えるかのような精度があるし、感情的なことばをいっさい廃しつつ、すさまじい感動をあたえてくれる。

アルパインクライマーは、最小限のチームと装備で、短期決戦で山に登る。その最小限の装備の中には、酸素ボンベもないし、山野井の場合はトランシーバーさえ、持つことを拒む。

読後、山野井泰史で検索したら、本人のページがあった。

ギャチュンカン登山についての一部を引用する。
(以下、いっさいのネタバレがいやなら、お読みにならないほうがいいけど、本書の描写はこれを読んでもゆるぐことはない)

10月5日 BC出発 スロベニア・ルート取り付き付近(コックがABCと表現している)。

6日 50~60度の雪壁に時々岩壁が混じるルートで、1ピッチ以外はノーザイルで登る。7000mでビバーク。

7日 昨日同様のルートをノーザイルで登る。7500mでビバーク。

8日 雪時々晴れ 妙子不調のため、約7600m地点でこれ以上の登行を断念(この先さらに傾斜が増す)泰史単独登頂後妙子と合流、ビバーク。

9日 雪。前向きで下降出来ない傾斜をノーザイルでクライム・ダウン。7200mでビバーク。

10日 雪。スタカットで下降を続ける。泰史が先に下降し、妙子を確保、後5mで泰史のいる地点で妙子が雪崩に飛ばされ、頭部が下になった状態で、50mロープ一杯で止まる。左手の手袋は雪崩で失い、左手は瞬時に白色になった。この墜落で頭部右側と右肩、右ひじなどを強打、頭部は約8cm切れる。

この墜落後、左眼が見えなくなる。もがいて体制を立て直し上部を見ると、ハング気味の岩にロープがこすれて外皮がとれ、芯も幾筋か切れている。泰史が妙子を引き上げようとロープを引くが、ロープは今にも切れそうで、大声で引くな!と叫ぶが聞こえない様子。妙子はロープをはずし、少し右手の雪壁(氷壁?)にアックスとバイルを打ち込み、次の雪崩にそなえた。

ロープの加重が無くなり、妙子がロープをはずしたことを知った泰史は、妙子と合流しようとピトンを打ってシングルロープで妙子の所に下降し、無事を確認して泰史が登り返している時、二度雪崩が発生、眼を傷つけられたらしい。ロープの始点に辿り着き、そこから懸垂下降をしようとしたが目が見えず、手袋をはずして手探りでリスを探し、リスに合うピトンを打ちながら、妙子の声のする方向へ3ピッチ降り妙子と合流。その近くの腰掛けられる程度の狭いスペースでビバーク。

11日 泰史の左眼は回復したが妙子が両眼とも見えなくなり、かなりの時間をかけて取り付き付近(ABC)まで下降。

 これ以降は読んでもらうしかないのだが、純粋にひとつの目的のために生きる夫婦の姿は、格がちがうとしか、いいようがない。

「このまま眠ったら死んじゃうかな」  妙子がつぶやくように言った。こんなに寒くて、何も食べていない状態では、ひょっとして死ぬこともあるのかなというくらいの軽い気持ちだった。だから、続けた。 「そんなに簡単には死なないよね」  死ぬ人は諦めて死ぬのだ。おれたちは決して諦めない。だから、絶対に死なない。 「うん、死なない」
凍沢木 耕太郎

新潮社 2005-09-29
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