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【映画2006】嫌われ松子の一生

 ワーナーマイカルシネマズ板橋7番スクリーンにてSRD鑑賞。

 す ご す ぎ で す !

 「下妻物語」の中島哲也監督作品だ。「下妻物語」はよかった。しかし、こっちはおれの好みのど真ん中だ! おれはこういう映画によわい。とことん、まいった。

 絢爛豪華に描いた悲惨な人生といえばその通りなんだけど、それだけじゃない。

 まだ、ろくに映画を知らなかった中学三年生のときに「ハウス」をみた。山口百恵の「泥だらけの純情」の併映だった。「ハウス」は、CMディレクターだった大林宣彦の劇場映画デビュー作だ。世の中には実写をこんなに厚く過剰に塗りこめるような映画があるのか! そう驚いた。

 劇中で露出された池上季実子のおっぱいとともに、その映像はおれの大脳皮質に深いしわを刻んでいる。

 その驚きに匹敵する作品だ。中谷美紀のおっぱい露出はないけれど、そんなことはかまわない。

 なんといえばいいのだろう?

 こちらが「こうなるだろう」という先読みのちょうど5秒さきを進む、映像と音楽とドラマ展開にうなりまくりだ。

 「え、そうくるの!」と驚きつつ「そうするしかないんだよな」と、展開が見ているこちらの気持ちにハマっていく。最速のテトリスプレイをさらに10倍速にしたようにかちりかちりと……。

 心地よいサプライズとともに、感情が大きくうねってくる。

 原作は未読だ。ミュージシャンになるために福岡から東京に出たものの、夢は破れ、彼女にも見放され、無為な日々をすごす川尻笙のもとに父親が訪ねてくる。

 父親の手にした骨壷の中に入っているのは、存在さえ知らなかった伯母、松子のお骨。荒川の河原で殺されたのだという。父親に松子の部屋をかたづけることをたのまれたことから、笙は松子の生涯をたどることになる。

 福岡県大川市大野島で生まれた松子は小学校の音楽教師だ。持ち前の不器用で浅はかで唐突な行動力により、その職を追われることになる。太宰にあこがれる作家志望の男と雑餉隈で同棲するも、男の自殺を機に中洲のトルコ風呂(当時の呼称)で働くことに……。

 転落する女性の一生をこんちくしょうなくらい"バロック"に描いている。濃密なミュージカルでもある。

 映画の冒頭、きわめて現代的なライブ感あふれる映像から「風と共に去りぬ」へのオマージュテーストあふれる装飾文字で「MEMORIES OF MATSUKO」とタイトルがでてくる。

 「風と共に去りぬ」はつねに心がタラにあった行動的な女性スカーレット・オハラの半生記だ。こいういう形のタイトルを持ってきたあたりが、きっちりした決意宣言だ。

 つねに故郷を心に残しながら、ドラマチックに生きる女性を描くということなのだな。

 スカーレットにくらべたら、松子の人生は、はるかに痛々しく悲惨なんだけど……。

 そのあとにつづく濃密な映画的空間は圧倒的だ。たとえば、天神の岩田屋をモデルにしたと思われるデパートの屋上があるのだが、これがもうオズの魔法の国ですかというくらい、ゴージャスな遊びの空間になっているのだ。

 これはつまり少女の松子が見た胸躍る屋上の記憶の「絵」で、大人になったあと、弟と同じ場所で再会するときには、かなりくたびれた空間の「絵」になっているのがうまい!

 映画「ALWAYS 三丁目の夕日」では、昭和30年代初期の東京をリアルに再現していたが、自分にとっては「懐かしい」とはいいきれないものがあった。

 一方こちらは昭和30年代から平成にいたる時代を、装飾過剰に描いているのだが、がつんと「懐かしい」感覚があふれてきたのは、ビジュアル面での時代考証よりは、エモーションの時代考証がきっちりできているからだろう。

 ときとともに美化される記憶、風化する記憶がある。そういった記憶のダイナミズムを映像として表現しているところはいくつもあり、大爆笑をするところだってあるし、涙が止まらなくなるところもある。

 大阪万博やオイルショック、ユリ・ゲラーという時事ネタがブラウン管を通して語られる。それは映画の中の里程標だが、松子が生きてそこにいたという証文でもある。

 中谷美紀という女優をいいと思ったことはあまりなかったが、松子はいい。すべてに過剰な映像の中で、松子が説得力を持って存在できるのは中谷美紀の力によるものだろう。

 映画の後半はとにかく泣ける。おれはなにをこんなに泣いているんだろうと思うくらい泣ける。「ずるいなあ」と思うけど、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で「あざといなぁ」と感じたような臭気はない。

 2時間10分という長い上映時間だったのに、鑑賞中は終わらないでほしいと思っていたし、鑑賞後はもう一度見なきゃと素直に思ったよ。

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