【映画2006】007カジノ・ロワイヤル
ワーナーマイカルシネマズ板橋9番スクリーンにて、Pure4k鑑賞。
映画の日の午後7時過ぎの回にいくのは、失敗だったかな。
となりの席ではミスタードーナツを食べて、そのあと、紙袋を手遊びでかさかさ言わせている若い男。前の席には携帯電話で時間確認を何度もするサラリーマン。後ろの席では、ゴニョゴニョしゃべっている外人。
とどめは5席ほど右の若い女。がさがさがさがさ、ずっとうるさいなと思っていたら、コンビニおにぎりを食べはじめた。なんで、それがコンビニおにぎりかとわかったかといえば、あの匂いだ。モンテネグロの高級カジノをデジタル上映している美しいシーンで、海苔と具と保存剤入りの飯がかもしだす、すさまじく日本的な匂いが5席離れたここまで漂ってくる。最初のがさがさも暗い中でおにぎり本体に海苔をつけようとする苦闘から生まれたものだった。さっさと食べればいいのに、のんびりお食べになっている。空調による風下にいるこちらは、匂いの地獄。となりの席なら注意できたのだが、5席向こうに伝言ゲームはできない。
とてつもない環境ノイズが五感を刺激するので、冷静に映画が見られたかといえば、微妙なところ。
さあ、映画だ。少しネタバレがあるぞ。
007といえば、いくつかの決まりごとがある。アヴァンタイトルもそのひとつで、開幕していきなりのアクションシーンがお約束。ただ、「カジノ・ロワイヤル」はその決まりごとをかなり変えてきている。
タイトル前のシーンで見られるアクションは、どこかの公衆トイレで派手にやりあって、生々しく男を殺すボンドの姿。えらく地味で渋い展開だなと思っていたら、タイトルが流れたあとに、すばらしいスタントアクションが待っていた。
新ボンドのダニエル・クレイグを紹介するためなのだろうが、冒頭30分くらいはほとんどセリフがない。そのかわりに、肉体でスーパーマリオなみの大活躍をする。もうファイアーマリオになる以外はたいていのアクションをする。逃げるにことかいて、そんなところにいくのかってやつを寡黙にダイナミックに追いつめる。
しかも追い詰め方が野蛮だ。ほとんど重戦車だ。身をよじって小さな通気口を抜けて逃げるテロリスト。体当たりで壁をぶち破って、追いかけるボンド。みんなが知ってるボンドとちがいすぎ。
最後はどこのターミネーターですかという、大活躍をする。
「若いころはやんちゃをしてましたよ」というやんちゃなころのボンドだ。人間くさいというより、めったやたらにやんちゃなのが、すごい。
モンテネグロのカジノでは、最近、めったにないくらい"ゲーム"を描いている。テキサス・ホールデム式のポーカーで勝負するのだが、舞台はひたすらゴージャスなのだが、やっていることは「麻雀放浪記」と同等の鉄火場描写である。
勝負の途中で、タネ銭が尽きてジタバタするボンドがいい感じ。英国財務省から送られてきた女(エヴァ・グリーン)に、「たのむ! おれは絶対勝てるから、もう少し融通してくれよ」とダメダメで粘り、断られて、頭に血がのぼると、好きなカクテルの製法さえ、どうでもよくなり、ナイフを手に取り、自分を負かしたターゲットを直接殺そうとする。
たぶん、イギリス中の血の気がひとつに集まったかのような直情径行ぶりだ。
男が男であることを描写するのに、鉄火場ほどふさわしい場所はないのだが、若い男としてのボンドの舞台として「カジノ・ロワイヤル」は絶好だ。
最初のころは口数が少なかったボンドだが、財務省女とはもうスイッチ入りまくりのしゃべりまくり。
恋愛のプロセスはとても上手い。道具として女を使い捨てる非情のボンドが、財務省女との出会いにより、心の深奥をさらしていく。
エヴァ・グリーンはノーブルかつ、インテリジェントな空気で、クローズアップ演技も卓抜で、かなりよかった。すばらしく印象的なシーンもある。好みの女性とはちょっとちがうけれど、キャスティングとしては抜群だ。
字幕が戸田奈津子でなければ、よかったのに……と、とりあえずいっておくけど、暴力と恋愛の距離感は「ミリオンダラー・ベイビー」、「クラッシュ」のポール・ハギスだけに絶妙なバランスだ。
ボンドはよく血を流す。肉体的な血の量が心から流れる血を暗示しているように血を流す。しかも敵は感極まると目から血を流す男だ。劇中の血の多さが、痛いほどせつなく伝わってくるのが、このボンドのよさだ。
ボンド自身の成長もきちんと描かれているのがいい。上司、Mが女である意味……母を匂わせることを事件後にきちんと描写しているのもいい。
ヴェニスでのクライマックスは、しかけとしては映画史の記録に残していいくらいのものだ。愛の墓場としてあれだけのことをやるのはすごい。でも、もうちょっとベタな泣かせをいれて観客の感情をゆさぶってくれると、パーフェクトだったのに……。
そこが少し物足りないために、Mの報告があとづけっぽく感じられてしまうのだ。
あのおにぎりさえなければ、もっと楽しめた映画だったのに……。
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