【映画2007】眉山
ワーナーマイカルシネマズ板橋10番スクリーンにてSRD鑑賞。
眉山は徳島市外の西にある山。標高は277メートルでどの方向から見ても眉の形に見えるから、こう名づけられたそうだ。
映画の中でたびたび登場するこの山の姿はなだらかなところ、市街地に近いところ、頂上に電波塔が立っているところ、麓からロープウェイでアクセスできるところなど、ぼくのふるさとである北九州市の八幡にある皿倉山に似ている。

↑実家近くの皿倉山 by Google Earth

↑徳島の眉山 by Google Earth
大学に入ったときに世田谷出身の先輩に「いつも視界に山があるっていうのは不思議だよなぁ」といわれたことがある。地方出身者のこちらからすれば、山を意識しない東京というのも「不思議」な空間だったりする。山なしだとさびしくないか。夜景だって見られるんだぞ。思い立ったとき、登れるんだぞ。東京ににょきにょきと生える高層ビルは、山の代用品なのかも知れない。
主人公の松嶋菜々子は東京の旅行代理店に勤めている。故郷の徳島に住む母親、宮本信子が入院したと聞いて、久々に帰郷する。宮本信子は東京出身で「ひ」を「し」という江戸っ子。この映画のタイトルがなぜ眉山になったかは、映画の中で明かされていく。山の見えない東京から、いつも山の見える徳島に住んだということは、かなり象徴的だ。
冒頭は東京で勤める松嶋菜々子のキャリアウーマンぶりが描かれる。妥協を許さない。自他ともに厳しい。融通が利かない。その姿が病院で、若い看護師をきっぱりと江戸言葉で叱る宮本信子に重なる。
なにしろ男なので、母と娘の関係なんて、自分の母と妹を見たり、つきあっていた人と母親の関係でしかわからない。父と息子とはちがう独特な緊張感があるね。
不治の病の母を軸にして、女どうしの不器用だけれど双子のような距離感が、数々のエピソードによって描かれていく。
ひさしぶりの宮本信子がかっこいい。きりっと背筋を伸ばしてきた生き方は彼女がベッドに横たわっていてさえ、伝わってくる。文字通り物理的にも背筋の伸びた女性、松嶋菜々子。彼女はそんなに器用な女優ではないけれど、立っているその姿だけで映画の説得力になる。彼女の後姿はあいかわらず美しい。
宮本信子、松嶋菜々子、眉山、そして、阿波踊りがこの映画の主役だね。クライマックスの阿波踊りは圧倒的だ。生きている人間たちが跳ね踊る姿はそれだけで胸を打つ。
映画を構成する要素はそれほど多くない。話もきわめてオーソドックスだ。東京から一人できた女性が、排他的な地方社会の中で、どのような軋轢を生んだかといったディテールもほしかった。途中で出てきた献体のエピソードについても、もう少し書き込んでほしかった。
しかし、それは映画として瑕疵とはならないのだろう。なにしろ阿波踊りだ。その映像が大きなスクリーンに映し出されれば、それだけでいいのかもしれない。
犬童一心監督としては「ジョゼと虎と魚たち」、「メゾン・ド・ヒミコ」の到達点にはおよばず、製作の「東宝映像」カラーが強い作品だ。「タッチ」同様、女優を魅力的に映し出すことに演出の意図が傾いている。それがよいのだろうね。


