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【映画2007】夕凪の街 桜の国

 ユナイテッドシネマとしまえん9番スクリーンにてSRD鑑賞。

 原作を読んでいることを前提に……。

 きちんと原作漫画に敬意をはらった映画化作品だ。なによりここ数年で最高に印象深い漫画だっただけに、映画化には期待と不安がともにあったけれど、映画にする意味はあったと思う。

 ただ、気になったところはいくつもある。

 まず、監督の佐々部清という人は女性をきちんと人間として描くのが圧倒的に下手だということだ。前半の「桜の国」では、麻生久美子はすばらしいキャスティングで、彼女にいい演技をさせている。だが、原作にあったユーモアとシニカルをきちんと描いていないために、皆実と言う一人の女性が、平板に「かわいそう」な人になっている。

 最悪なのは、彼女が幸せを感じるたびに「苦しいよ」という声がオーバーラップすること。この声は(映画設定では)おぶったまま背中で死んだ妹、翠の声なのだが、毎度、毎度、良心回路を攻撃するドクターギルの笛の音のようだ。「くぅ~~~るぅ~~しぃぃ~~よぉぉ~~~」と、できそこないの怪談映画のような声だ。

 なんで、ここまであざとく、わかりやすくするのか。うんざりする。

 さらに子どもが描いたような"原爆の絵"を多数インサートするあたりは、くどすぎて辟易した。

 右腕についた火傷のあとのため、長袖は着られないものの、きちんとユーモアと知性を持って人とつながりを持っている皆実を描かなければ、そのあとに訪れる遅効性の暴力のむごさが浅いものになってしまう。

 原作の魅力であるユーモアが剥ぎとられたら、語り順を変えたメロドラマになってしまうのだ。

 さらに主人公のトラウマを「背中におぶった妹の死」に集約させていることが、悲劇を矮小化させている。原作を読めばわかるのだが、焼け野原で彼女が負った"業"はそれどころではない。そして、当たり前に生きていた人にそのような"業"を突きつけるのが、原爆なのだ。

 また、ノスタルジーCG全盛の現代において、1958年の広島の町の描写も弱い。当時の風俗などを積極的に取り込んで、原爆投下から13年という距離を適正に描いてほしかった。復興に向けて動き出す広島という場を描かなければ、悲劇の質が変わってしまう。

 もちろんCGをたくさん使えというのではない。オリジナルの春日八郎の歌う「おとみさん」を効果的にかぶせたり、小道具をきちっと使うなど、時代の演出の方法はいくつもあるはずだ。

 ただ、美点も多い。とくに銭湯のシーンは効果的だった。すべての人が裸になる銭湯という場だからこそ、背中、肩、脚……、そこにいる女性たちの肌に焼きついた原爆の跡が、日常の景色として、さらけだされる。

 また、「原爆は落ちたのではなく、落とされたのよ」という映画オリジナルのダイアログはよかったと思う。

 後半の「桜の国」で、ドラマは一気に動き出す。シナリオもこちらのほうがのっている印象だ。そわそわして時折いなくなる父を追って、娘、七波とその幼なじみが、広島を訪問するという、ほぼ原作どおりの展開。

 ただ、旅立つ前の父親の描写が少ないため、「なぜ追うのか」という映画的マクガフィンが薄いのが気になる。コメディ描写も入るのだが、部分的に成功し、部分的に空回りしている。

 田中麗奈や中越典子という魅力ある女優のロードムービー風なので、とりあえず、見ていて楽しめる。

 ただ、佐々部清という、映画的引き出しの少ない、おそろしく不器用な監督の仕事なので、複雑に入り組む回想シーンと、現代のロードムービーの連携がうまくいっているとはいいがたい。

 後半に30年以上前の回想シーンがいくつもある。父親と亡き母親の広島でのなれそめを部屋の片隅から見守っている田中麗奈……という「火垂るの墓」風シーンがあるのだけれど、現代部分との連携がいっさいないから、なぜ、彼女がそこに立っているのかという映画的意味づけがみえてこない。なんでタイムワープしてるんだよ。広島という空間のパワーってやつですか。

 50年前に亡くなった伯母の思いを田中麗奈が継ぐという流れはけっこうだが、映画館を出た後に、田中麗奈のたどったルートを省みれば、広島まで来て、彼女が知ったことは墓石に伯母たちの名前が刻まれていたことだけだ。だから、いくつもの回想シーンがあるんだけど、それを回想しているのはだれなのかさえ、わからない。回想シーンの主語がないのだ。

 もちろん、話としてはわかるようにはなっているし、泣かせの力学でしっかり泣かされもするんだけど、これがまた別の監督ならば、どれほどの作品になったかと思うと、複雑な気分だ。

 音楽は村松崇継。ハープとハーモニカをフィーチャリングしている。うーーん。曲作りがうまくいっているとは思わないし、泣かせのシーンでパブロフの犬のような条件反射的にサビをいれるという、ベタベタな使い方のおかげで、曲もシーンも相乗効果で安っぽくなっている。

 あれこれ文句は言ったけれど、声高に原爆の恐怖をがなりたてるのではなく、現代に生きる人間として、ヒロシマを静かに見つめなおした原作の美点のいくばくかはこの映画の中に継がれている。

 100点満点で原作が300点としたら、あらゆる原作の美点を四分の一程度に減じさせる佐々部清フィルターを通して、300÷4の75点になったとしても、なかなかの高得点なのは事実だ。

 たくさん文句をつけたのは原作ファンなればこそで、映画としては、水準を超えています。

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※こちらのエントリーもどうぞ。

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