【国内旅行】信州狂熱の伝統花火
午前10時、新宿バスセンターへ。イラストレーターの開田裕治さんと、官能小説家の開田あやさんご夫婦のお誘いで、南信州に花火を見に行くのだ。
大まかな日程はうかがっていたものの、おふたりのほかにどんな方が参加されるのか、聞いていなかった。
切符売り場の前でご挨拶したのは、立川談之助師匠と瀧川鯉朝師匠の落語家おふたりと、O内さん、たれ軍曹さんのご夫婦が、今回の同行者だ。大雑把にいえば、全員が年齢不詳である。
昼神温泉行きのバスに乗り込んだものの、連休初日とあって高速道路は大渋滞だ。八王子の料金所を抜けるまでに2時間が経過する。
中央道にでてから車の流れはよくなったが、それでも予定より大幅に遅れている。本来は乗ったまま、目的地の昼神温泉に着くはずが、飯田市の伊賀良のバスターミナルで、高速バスから、現地で手配されたバスに乗り換えることになった。配車の関係だ。仕方あるまい。
やってきたバスはバリバリの路線バス用車両だ。見知らぬ町の見知らぬバスが、見知らぬバス停の横を走るというそれだけで、旅情をかきたてる。
昼神温泉の名前は、ほとんど知らなかったが、想像以上に大きな温泉地だ。主に名古屋方面から客が来るそうだ。
温泉旅館「薬師館」にチェックインしてから、タクシーで「そばの里 末廣庵」へ。16時30分がラストオーダーだが、そこに滑り込む形。ここのざるは、通常のもりのほかに、2人前の「大盛り」と、3人前の「すえひろそば」がある。談之助師匠らは「すえひろそば」を食べていたが、とりあえず、ぼくは「大盛り」だ。つゆは甘めだが、そばそのものがしっかりうまい。
その後、旅館にもどり、ひと風呂浴びたあと、いよいよ、本日のメインイベントである「上清内路諏訪神社秋祭り」へ。
長野など、日本のいくつかの地域では伝統花火を残している。清内路村もそんな村のひとつだ。だが、ここがすごいのは、村人たちが、自分の手で木を切り、木炭を作るところから、花火を自作していることだ。村には"上"清内路煙火同志会と"下"清内路煙火有志会のふたつの保存会があり、それぞれ300年の伝統の技を継承している。
こんなところは、日本中探してもここだけだ。わずか700人強の小さな村だが、若者はこぞって、花火製造の免許をとり、秋の祭りのために、お盆過ぎから、毎日、花火作りにいそしんでいる。
しかも、これから訪れる「上」清内路は、さまざまな事情から、一般の人間の入場を制限している。つまり秘祭なのだ。この祭りを知っていても、入場券をとることは至難である。
この日、ぼくらを迎えに来てくれたヒコクさん、そして、開田さんたち、と学会の方々、落語立川流の方々の10年に及ぶ信頼関係のおかげで、そのプラチナチケットを手にできる次第だ。ちなみにヒコクさんの名前の由来は、「立川談志 飯田市」でグーグルするとわかる。
ただね。なんだかんだいっても、所詮はプロでない人たちが作った花火と、そこはかとなく侮っていたことを告白しよう。
上清内路諏訪神社の山道を上る。会場は小高い丘の上の広場といった様子だ。
ビニールシートを広げて、村人や関係者たちが、のんびりと待っている。ヒコクさんがおさえてくださった席は、砂かぶりならぬ火の粉かぶりな最前列ロケーション。目の前の空間には、いくつもの櫓や、ワイヤーなど、仕掛け花火のセットが並んでいる。まるでピタゴラスイッチか、ドミノ倒しのように、何十種類ものヤクモノ(ていうのかな)に、つぎつぎと引火する仕組みだ。
花火大会は、奉納の太鼓と神事、打ち上げ花火から始まる。もちろん、何千発も打ちあがる有名花火大会の濃密さにはくらべるべくもない。それぞれの花火は、村人の手作りというわけではなく、メーカーから購入したものである。しかし、至近距離から打ちあがる花火が視野いっぱいに広がるさまは格別だ。
百聞は一見にしかず、撮影した動画をざっと編集して、YouTubeにアップしたので、見ていただきたい。
全二部構成の前半だ。「きおってください」と、ナレーションでいっているのは「気負い」のことで、つまり、火花の中に身をさらして、シャワーのように火を浴びることだ。
独身の若者(男性中心)が互いにがっちりと肩を組み、「おいさおいさ」とかけ声をかけながら、降り注ぐ火の粉のなかに独特のステップで飛び込んでいく。この花火を作ったのも自分たちなら、作った花火の火に焼かれるのも自分たちというすさまじい祭りである。
ときどき、おれの声も入っているので、恥ずかしいのだが、まぁ、見ろ! できることなら、音も出せ。
後半のビデオは3分50秒あたりから、大トリの「大三国(だいさんごく)」が始まる。まず、若者たちが1.5メートルくらいの竹筒を担いで、会場にやってくる。中につまっているのは、黒色火薬だ。
「大三国」は日本・中国・インドという「三国一」の三国とか、武田信玄が制覇した駿河、信濃、甲斐の三国とかが、由来といわれているが、噴き上げ花火の究極系である。
竹筒の中に詰め込んだ火薬が、10メートル以上の高さまで火花を噴き上げる。そして、その火花を浴びるのは、若者たちだ。彼らは何日も神経を張り詰めて、花火を作り、そして、クライマックスでは、踊り続けている。足が緩むと、かつて、同様に火の粉を浴びた、村の男たちから、「気負え! 気負え!」と、喝がはいる。
そのすさまじい様子をYouTubeで、ぜひご覧ください。
圧倒的な興奮とともに、旅館にもどる。
昼神温泉の湯質はアルカリ系らしくやわらかくぬるっとしている。かけ流しではないようだが、わりと新しい露天は気持ちよい。
風呂のあとは酒盛りである。最初は7人で飲んだのだが、気がつくと、開田裕治さん、談之助師匠、鯉朝師匠の4人になったあげくに、ビールを山ほどと焼酎を1本空け、朝の4時まであれこれと話しまくる。なにをそんなに話したのか、あんまり覚えてないが、楽しかった。
これで終わりかと思ったら、終わらない。また、翌日がすごいのだ。
« 武蔵野線2往 | メイン | 信州狂熱の伝統花火・2 »


