【社会科見学】東海村J-PARC
茨城県東海村といえば、原子力のイメージ。いま、そこに2009年春の利用開始を目指し、世界最強の加速器が組み立てられているという。その名はJ-PARC! 大強度陽子加速器施設だ。
全長450mの「常伝導・超伝導線型加速器(Linac)」、全周300メートルの「3GeV 陽子シンクロトロン(RCS)」、全集1500メートルの「50GeV 陽子シンクロトロン(Main Ring:MR)」がならび、その付帯施設としては、MLF(物質生命科学実験施設)、原子核素粒子実験施設(ハドロン実験施設)、次期ニュートリノ振動実験装置、ADS(核変換実験施設)がある。
総建設費は1,800億円! 運転が始まれば、年間の電気代だけで100億円にならんとするすさまじい施設だ。
何度か見学させていただいたつくばのKEK B-FACTORYは円形加速器をつかい、電子を8GeV、陽電子を3.5GeVに加速している。J-PARCで加速させるのは陽子で、その強度は50GeVとなる。毎秒100兆個の陽子を打ち出し、とりあえず、750KWのパワーを誇るが、将来的には4MWをめざすという。
この施設には、昨年の8月上旬に訪れている。時間がなくて、見学レポートをまとめないまま、今日まで来てしまったが、最新にして最強の加速器が建設されている様子はエキサイティングである。今回の穂紋ではさらに建設が進んでいく加速器の多くを見ることができた。
また、楽しみのひとつは多田将博士がフルアテンドしてくれること。多田将博士は京都大学出身の理学博士で、このJ-PARCのさまざまな設備の設計をされている人なのだが、前回の見学で、その図抜けたコスチュームで、見学者の度肝を抜いた。

「この服は実際にイラク戦争で使われたやつなんですよ!」と、ここでは語っていないが、多田先生だ。「ぼくはもともとDQNですからね」と語る多田さんは、人生の90パーセント以上をアイドル、竹中里奈の追っかけに捧げており、副業として物理学者をしているらしい。

50GeVシンクロトロンの円周部分。数々の電磁石がならぶが、ほぼすべてが、方向を変え、線形をそろえるためのもので、加速させるものではない。

これが高周波加速空洞。陽子はこの部分で加速される。3GeVから50GeVに流し込まれた陽子ビームはここで、2秒間加速(エネルギーをあたえられる)される。

ニュートリノ実験施設への分岐部分。多田先生が説明しているのは鉄道で言えば、ポイントにあたる部分。

電磁石の多くは400キロある。それを運ぶためにこのような装置を使う、一種のホバークラフトである。


3GeVから50GeVへのビームライン。

キッカータンク周辺。もうやみにかっこいい。

常伝導電磁石は純水で冷却する。その冷却水パイプ。

ニュートリノ実験施設に向かうアーク部。超伝導電磁石がずらりとならぶ。

高精度の位置計測はライカ製のレーザートラッカーで!

「これ、かっこいいでしょ? ポルシェがデザインしたLindeのフォークリフトなんですよ」

つぎの地点に向かう。

遮蔽体として使われるコンクリートブロック。上の部分では鉄筋がむき出しだ。なぜでしょう? じつは未完成で運んでいるんです。この状態で30t。陸送できる限界なのだ。ここで、あらたにコンクリートを加え、総重量は37tになる。


物質生命科学実験施設の実験ホール。ここはほとんど半分だが、建物全体で見ると、ジャンボジェット機二機分の大きさだそうだ。
3GeVシンクロトロンから打ち出された陽子が炭素ターゲット、水銀ターゲット、減速材、反射体と経ていき、23本の中性子ビームに分かれていく。こちらのホールではそのうち12本が取り出せる。ビームごとにちがう研究が行われる。中にはTOYOTAの非破壊検査に利用されるものや構造生物学、さらに農業や考古学にも利用される。
周囲にある大量のコンクリートブロックは立体ジグソーパズルのように組み合わせ、遮蔽体となる。

中性子取り出し口付近。

うおおおお! なんだこりゃ!

マジックハンドだっ! いや正確に言うとマニピュレータなんだよね。この奥にあるのは、ターゲットや減速材など、放射能で汚染されている装置を操作するための器具なのだ。

ディテールを見ているだけで、ご飯何杯でもいけちゃうよ。かっこよすぎ!

ああ、あの指先につままれたい。

え! こんなところに入っていいんですか。

ナトリウム光に照らされた中では金属祭りが!

うおお! 中性子ビームさん、減速材経由で反射材へいっちょあがり!

マニピュレータが何対も見えるよ!
そしてここからわれわれは地上へと向かった。ここで作っている作業員の人たちは自分たちが作っているものが何かを理解しているのかと、多田さんに聞くと、「ぼく、監督の人たちへの説明会を何度かやりましたよ。やっぱり作っているものがわからないとモラルが下がりますから」

なんでしょう? このコンクリートの神殿は? 東海村のJ-PARCから、岐阜県飛騨市のスーパーカミオカンデまで295km、毎秒1000兆個のニュートリノを打ち出し、その性質を調べる実験施設のひとつ、ターゲットステーションと呼ばれる部分だ。この中には陽子ビームを打ち込むターゲット。陽子からパイ中間子に変わったビームを収束させる電磁ホーン。そして全体を覆うヘリウム容器から構成される。


え、ヘリウム容器の上まで歩かせてもらえるんですか。両脇は切り立った崖になっており、けっこうおっかないのである。

土手の上からあちらを望めばミューオンピットが見える。さきほどのターゲットステーションから打ち出されたパイ中間子はディケイボリュームと呼ばれる崩壊トンネルをくぐっていくうちに、ミュー粒子とミューミュートリノに崩壊する。必要なミューニュートリノだけをフィルタリングするため、ミュー粒子や反応し切れなかった陽子をとる必要がある。そのためにここに設置されるのがビームダンプといわれる装置だ。

ミューオンピットの下を覗き込む。一番下まで16メートル。「ザク1台分ですわ。降りますか?」と多田博士。ええ、降りますとも。

普通の見学ではみせてくれないレベルのむき出し鉄筋群。

これがディケイボリューム出口。設置したときは鉄のふたで覆っていたために、いまはそれを切り開いていく作業。内部は真っ暗だ。

切り取られた鉄の蓋。まだ、熱い!
さらに移動して向かったのは「前置検出器」

いよいよこの先はカミオカンデである。カミオカンデに向かうニュートリノの性質を調べるためにここで検出作業を行うのだ。

縦穴を掘るに際して、まず最初に壁面となるコンクリートを24メートル底まで流し込み、そのあとに中の土を掘っていくのだという。

ザク1.5台分の深さ。

ニュートリノモニターはここに設置される。オンアクシスモニターとオフアクシスモニターの二本立て、

こんどはハドロン実験施設へ移動。

ハドロン実験施設では、K中間子、反陽子などを利用して、物質の成り立ちを探る。

現時点で中にあるのは、遮蔽体となるコンクリートブロックばかりだ。なかには、つくばのKEKから運び込まれたものもある。

積み上げられた鉄のブロックはアメリカの原子力発電所の廃材。日本の規定でも核廃棄物扱いにならない程度の放射線しか出していないが、これを使ういちばんのメリットは安いこと。なんと1ブロック1ドルで使えるという。

ビームダクト付近では、入念な計測作業中。
最後にニュートリノ実験用に現在製作中のビームダンプ(ハドロン吸収体)を見学にいく。

なにをしているのかといえば、アルミ冷却板とグラファイト素材を締結しているのである。

ビームダンプ自体はグラファイト(炭素鉱物)製。このモジュールを14個組み合わせて作られる。最終的には5メートルの高さになる。ビームを当てられると一気に温度が上がるのだが、全体の膨張は5ミリ以下におさえられるという。

「一度設置したら、30年間ネジが緩まないようにしないといけませんから、慎重にやっているんですよ」
見学は10時30分に始まり、途中でいったん昼食をはさみつつ、午後5時30分まで行われた。ほんとにおなかいっぱいになるまでJ-PARCを堪能したよ。
なにより、多田先生がすごいところに軽々と連れて行ってくれる。歩き、昇り、降り、覗き込み、感嘆……。充実の時間であった。同じ日にマスコミ各社を引き連れた見学会が行われていたのだが、彼らをわき目にディープゾーンへと潜入。世界的プロジェクトの内部を全身で堪能できた。東海村、すごすぎです。
多田先生は3月に放映されるNHKの「サイエンス・ゼロ」にも出演されるとのこと。その日がくるまではリニアコライダーpodcastで小気味よい、しゃべり方をご覧ください。
(追記)半年後に、J-PARCを再訪しました。【社会科見学】J-PARC ハドロン吸収体搬入


