【イベント】高瀬さんの重大発表
現在ではmixiのコミュニティ活動として縮小したとはいえ、小説家、高瀬美恵さんの主催するホームページ「Water Garden」は、インターネット初期の1997年にスタートした。少女小説の楽園として、プロアマ入り乱れて楽しげな会話に花が咲く掲示板など、たいへんににぎわっていた。
そんなWater Garden(通称・水庭)のひさしぶりのオフ会である。今回、参加するかどうか迷っていたら、高瀬さん本人が、「ここだけの話ですが、じつはすごいイベントを企画しているので、ぜひ参加してください」と、伝えてきた。おれが参加しなきゃいけないすごいイベントってなんだ? まぁ、そういうことなら、参加するよ。
会場は丸の内の「かこいや」だ。総勢17名が参加。高瀬さんが乾杯のあとに重大発表があるという。
長く伸びたテーブル席の真ん中あたりで立つ高瀬さん。
「みなさん、きょうは重大発表があります。このWater Gardenも開設以来、10年以上が経ち、いろいろなことがありました。そんな中、今日は………。きょ、今日は………。きょ、きょ、今日は…………」
なんだ? なんだ? なんなのだ? 顔を赤らめ、緊張とともに絶句する高瀬さん。気を取りなおして、また、スピーチを続けようとするが、言葉が詰まって、うまくいえない。
この緊張は……、つまり……、もしかしたら……。
高瀬さんがなにかの小説の賞でももらったのか、高瀬さんが水庭のだれかとでも結婚するのか。
声に詰まる高瀬さんの緊張は、全員に同じことを考えさせたようだ。半個室の席全体が、緊張に包まれる。今日来ている男は、おれを含めて4人。記憶にある限り、おれは高瀬さんと結婚の約束をした覚えはない。でも、もしかしたら、高瀬さんがいまさらのようにおれに告白をするのか。困った。心の準備はできてない。
そこからしばらく、しどろもどろの高瀬さんは、次の言葉をなかなかいえない。
「水庭の……。水庭の中から……。水庭の中からこん……。水庭の中から婚約した……。水庭の中から婚約した人がいます」
おおお! やっぱり、そういうことか。やっといえたか。つぎは、「じつは私です」とかいうんじゃないだろうな。
「そそそそそそそそそ……。そ、そ、その人は……。その人はですね。その人は……。その人は甲男(仮称)さんと乙女(仮称)さんです」
げげげげげ! ていうか、甲男さんも乙女さんもふたりともマイミクではないですか。ただ、本来は驚きとともにふたりの婚約が発表されるはずが、高瀬さんの卓抜したパフォーマンスのせいで、驚きというより、当惑の中で、この発表はなされた。
ずっと前から、この場でどのように重大発表するか、考えに考え、シナリオも練り上げてきたそうだが、緊張のあまり、言葉につまってしまったのだ。
ふたりは、水庭最盛期にほとんど接点はない。話を聞くと、ぼくが日記でも書いた2006年3月の水庭オフ会で、はじめて会ったそうだ。
しかも、会場で乙女さんと話していたのはぼくと高瀬さんで、甲男さんは、ほとんどその会話に参加していないとのこと。すぐ近くに座っていたものの、あいだにひとり、丙男さんという男性がいて、1次会から眠っており、その存在が壁となって、会話に参加できなかった模様。丙男さんはいつもこのオフ会に参加しては、眠って帰るという変わった人だ。しかもこのオフ会に参加していた男性は、ぼくと、甲男さん、丙男さんの3人だけ。
その数日後、甲男さんから乙女さんにマイミクリクエスト。ほとんど会話をしたことともない乙女さんは怪訝に思ったそうだが、甲男さんには100人以上のマイミクがいる。そんなワン・オブ・マイミクならまぁ、いいかとリクエストを受けたとのこと。
オフ会では、ぼくや乙女さんたちと「ナルニア国物語」の話をしており、甲男さんはそれに参加したかったようだが、睡眠モノリス、丙男さんに阻まれてうまくいかなかったとのこと。
しかし、行動が早い甲男さんは、「こんど映画「ナルニア国物語」を見に行きませんか」と乙女さんにお誘いのメール。一対一で行くのか、水庭グループで行くのか、それさえもはっきりしていなかったから、乙女さんは返事をしなかった。そして、映画の公開も終わりかけたころ、せっかくだからとふたりで「ナルニア国物語」を見に行くことになる。
丙男さんという睡眠モノリスの壁があったからこそ、思いはナルニアに届いたのだろう。
そんな付き合いから、ほぼ2年。ふたりは結婚することになったのだが……。2年間で月に2~3回のペースでデートをしていたものの、この期間にそれぞれが出したメールは50通程度。かけた電話は2回だけ(ちなみにうち1回は、甲男さんが乙女さんの実家にあいさつにいったあと)。乙女さんが甲男さんの部屋を訪ねたことは1回もなく、乙女さんが甲男さんに料理を作ったこともなく、神奈川の彼方から、都心まで2時間かけて乙女さんがやってきても甲男さんは趣味のスポーツ観戦のため、1時間くらいしか会わなかったり……。
そういう愛を育んできたそうです。
ふたりの出会いは、「ルクソール」というエジプト居酒屋だ。せっかくだから、子供が生まれたとき、高瀬さんを筆頭にこの会で名付け親になろうという話で、盛り上がる。
「王」と書いて「ファラオ」と読もう。「呪」と書いて「ツタンカーメン」はどうだ。「三角」で「ピラミッド」だ。それはちがうよ「四角錘」だとか、雑に盛り上がる。
で、新婚旅行はリアル・エジプトでしょう……とかね。
まぁ、そんな中、はにかみながら、経緯を教えてくれる乙女さんはとてもかわいく美しく、甲男さんがちょっぴりうらやましかったりするおれであった。
おめでとうございます。おしあわせに。
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