【映画2008】王妃の紋章
"オッパイに飲まれ溺れる最高権力"
ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋10番スクリーンにてSRD鑑賞。
「王妃の紋章」なんてタイトルだから、どこの少女漫画? どこのエジプト漫画? なんて一瞬思ったけれど、あれは「王家の紋章」ですか。
いずれにせよ、この邦題はまったくよろしくない。紋章って、どれのことだよ。旗のこと? 刺繍のこと?
「赤いコーリャン」、「菊豆」、「紅夢」、「初恋のきた道」ときて、「HERO」、「LOVERS」のチャン・イーモウ監督作品である。これは、チャン・イーモウの武侠系作品の中で、もっとも楽しめた。
唐末の五代十国の時代を舞台としているが、武侠世界観である。あんまり厳密に考えないほうが楽しめるだろう。ギリシア悲劇的な中華寓話くらいに考えてもいい。舞台の大部分も宮廷内部の話である。では、それが地味かといえば、そんなことはまったくない。
日本のテレビ化された「大奥」ドラマをすべてぶち込んでもまだ足りないくらいの絢爛豪華さだ。しかも出てくる女性は、もしかしたら乳輪ぜんぶCGで消してますかってくらい、ぎりぎりの上乳見せまくり状態である。
オープニングは雲霞のごとき女官たちの起床シーンから始まるのだが、無数の女官が2×無数のオッパイをわらわらとゆらしながら目覚めるわけだ。そこへ騎馬の轟きがかぶさる。男の武、女のオッパイがみごとに重なるオープニングだ。
「紅いコーリャン」のころからお慕い申し上げるコン・リーも劇中ずっとオッパイを寄せてあげまくりだ。オッパイに目を奪われてはならないのだが、毎日の薬のなかにトリカブトの毒を少しずつ仕組まれている王妃である。
一方、「パイレーツ・オブ・カリビアン」3作目のころより、200倍くらいパワーアップしたチョウ・ユンファは絶対的な王である。この王が王妃に毒を仕込んでいたのだ。王妃もそのことを知りながら、毒の入った薬を飲み続ける。
王はなぜ王妃を殺そうとしているのか、王妃はなぜ、それをわかって薬を飲んでいるのか。そしてひたすらに菊の刺繍を作り続ける王妃の秘密とは……?
三人の王子が、王と王妃の狭間に立ち、愛と権力にすりつぶされていく。すべての謎は9月9日、重陽の節句に明かされるという。
映画は重陽の節句まで数日というところから始まるのだが、映画のシーンは、午前6時から深夜0時のクライマックスまで、順番に割っている。宮廷の朝昼晩とともに、最高権力を持つ家族の愛憎がからみあっていく。
主要登場人物は王家の5人とこれと薬係の蒋医師家族3人だけである。たったこれだけの中で、秘密だの不倫だの、秘められた過去だの、禁じられた愛だの、心の闇だの、愛憎のフルバリエーションが詰め込まれている。
そして、この8人のほかはすべて名もなき群集である。
群集はあるときはオッパイ……じゃなくて女官。あるときは兵士。あるときは官吏。あるときは暗殺者集団として、さまざまな形をとってあらわれる。
そんな少数の支配者家族と群集とのコントラストが、すさまじい。
中華ワイヤーアクションの巨匠、チン・シウトンの殺陣やアクションは超絶レベルだ。ああ、これで白土三平の世界でも描いてほしいと思わせる暗殺シーンや、さまざまな陰謀が交錯する後半の合戦シーンなど、男の子が見ても大喜びの映像が満載だ。
最後まで見ていると群集が自己修復機能を持つナノマシンみたいに思えてくる。集団的無意識ってやつが映像となって表現されているかのようだ。そんな群衆の中、欲望や意志を通せるはずの王家の人々でさえ、巨大な無意識の中に飲み込まれていく薄気味悪さが、切れ味も鋭く描かれている。
気持ちいい映画だったよ。
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