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【映画2008】ミスト

 ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋3番スクリーンにてSRD鑑賞。

 原作のノヴェラ「霧」を収録したアンソロジー「闇の展覧会」が邦訳されてから26年ですか。その間、おれも<霧>のでてくるゲームのシナリオを書いたりもしたけれど、ついに映画館のスクリーンで「霧」を見られるのか。それだけでも感慨深い。

 開巻から終幕まで途切れずに緊張感が続く作品だ。制作費は1800万ドルだから、アメリカ映画としては低予算といってもいいだろう。しかし、低予算を言い訳としないクオリティを維持しているのは、たいしたものだ。閉鎖された世界の中に登場するすべてのキャラクターがきちんと描かれているから、その世界のリアルが、スクリーンを越え、自分の周囲を取り巻いている。

 劇場であるにもかかわらず、途中、何度も声が出そうになってしまう。おれは霧に閉じ込められた田舎町のスーパーマーケットの中におり、密閉状態が生み出す恐怖に身をさらしていた。スティーブン・キングの作品をはじめて読んだときの濃密な時間を思い出す。

 自分だったら、どうする? どう判断し、どう行動する? 登場人物のひとりになったようにそんなことを考えながら見ていた。

 冒頭シーン。湖畔の家の嵐の翌朝から、画面には異常な緊張感がみなぎっていた。隣家の男との薄氷を踏むような緊張関係が描かれている。固定電話、携帯電話などが通じない孤立感がひしひしと伝わってくる。にぎわっているはずのスーパーから垣間見える人間の姿もどこかあやうい。

 そこから霧がやってきて、スーパーの中が恐怖で満たされていくプロセスはじつに丹念に描かれている。

 ちなみに主人公は映画ポスターのアーティストという設定だが、冒頭でスティーブン・キングの「ダークタワー」シリーズの「ガンスリンガー」を描いているのがおもしろい。これを実際に描いているのは、ドリュー・ストラザンだ。

 「ブレードランナー」、「インディ・ジョーンズ」、「ハリー・ポッター」など、ストラザンの作品は多い。実際に見てみると、ああ、あの絵描きと納得いくだろう。今回はストラザンの過去の作品「ザ・フォッグ」や「優勢からの物体X」のポスターもアトリエに飾られており、にやりとさせられる。

「110番に電話をかけられるときなら、ヒューマニティも信じられるが、文明がなくなって、暗闇に投げ込まれたら、ヒューマニティなんてなくなるんだ」

 霧という外の脅威だけではない。スーパーの内側に閉じ込められた人々のあいだで、カルトともいうべき狂信が蔓延していく。このあたりの構成がじつにうまく。自分でさえ、狂信の側についてしまいそうだと思える。説明のできない恐怖に身をさらしたとき、どういった形でも自信を持って説明してくれる存在に近寄ってしまうのは、自然なことなのだと思う。

 そんな中で描かれるヒロイズム……。アメリカの劇場だったら、快哉が上がるところだ。ダラボン監督って人は、とことん人が悪い。そのヒロイズムの行く先を最悪な形で裁いている。

 映画史上、最高にあと味の悪いエンディングと聞いていたけど、これほど胸糞が悪くなるような終わり方をよく思いついたものだと、感心するやら、吐き気がするやら。

 低予算ホラーでよく見られるのは「?」マークエンディングだ。ほんとうに終わりかなというくらいのニュアンスだけれど、「霧」のエンディングは、観客の心の中にとんでもなく巨大な疑問符を植えつけるようなものだった。

 その疑問符は単純に「そういう終わり方ってどうよ?」という監督に対するものであり、「じゃあ、結局、自分たちは何をしたらいいの?」という出口のない戸惑いでもある。

   

 判断を放棄し狂信に身をゆだねるか、判断をして冥府魔道に堕ちるか。植えつけられた解決不能な疑問符こそ、観客が帰路に持ち帰る「霧」である。

 911以降のアメリカにおけるとマスヒステリーやカルト、イラク戦争という視点で解題してもいいのだけれど、このニヒリズムには心底まいってしまった。

 これはB級ホラーのフォーマットを借りた、A級の人間ドラマであり、みごとにスティーブン・キングの世界観を再現している。作中の「My life for you,」なんて、ダークタワーマニアはにやりとするフレーズだろう。

 ☆5つ満点で☆☆☆☆☆をさしあげよう。映画の尺の98パーセントを占めるすさまじい映画的体験にはスタンディングオベーションだ! しかし、最後の2パーセントの理不尽で人に勧めることを躊躇してしまう作品だ。ダラボンってば、どういうルサンチマンがもとでこんな結末を選んだのやら。ばかやろー。

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