« スピード・レーサー | メイン | ハプニング »

【映画2008】クライマーズ・ハイ

 ワーナーマイカルシネマズ板橋11番スクリーンにて鑑賞。

 やばいやばいやばい! これはおもしろすぎです。

 前後して観た「ダークナイト」とそっくりな構造にも驚いてしまった。どちらも圧倒的に腐った構造の中で、不器用だけれど、もたらされた力を精一杯使う男のドラマである。

 主人公が常に波紋の中心にいることも同じだ。つまり、映画に登場する世界のすべての要素が主人公の存在と相関し、一挙手一投足に影響されているのだ。

 周知のように、1985年、日本航空123便墜落事故に直面した地方新聞の編集部を描いた作品だ。 現実の事故の現場については、過剰に描かれることはない。だが、記者雑感の朗読と逆光気味の映像の中、木の上にあるものだけで、すべてが的確に迫ってくる。

 新聞社を舞台にした映画といえば、アラン・J・パクラ監督、ゴードン・ウィリス撮影、ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォードの「大統領の陰謀」がある。舞台がほぼ同じだけにカメラワークや照明など共通点もあるのだが、敵はホワイトハウスという権力ではない、身内ともいえいる新聞社という組織内の世代、職位、部署の人間たちなのだ。

 堤真一演じる悠木和雅は遊軍記者だったが、事故に際し、社長の一存で編集部の日航全権を務めることになる。日光事件報道の最高責任者である。事故第一報が入ってから、現場に送った社会部記者、佐山達哉の記者雑感が入るまでの緊迫感に興奮してしまった。この緊迫感、この興奮こそ、クライマーズハイなのだろうか。

 日航全権・悠木は編集部の上司、販売部などと対立しつつ、さまざまに指示を飛ばす。その指示によって部下の生死をも決めてしまう。社長、部長、局長、そして、セクハラによって会社を辞めた元社長秘書まで、悠木の影響がおよんでいるのだ。

 うまいのはヒールの作り方である。新聞社社長を演じる山崎努がすごい。地方新聞社の社長ともなれば、その地方の国王ともいえる権力者のひとりであったりもする。だが、一筋縄では収まらない不自由な肉体と性的、人間的支配のコントラストがすさまじい。

 社会部部長の等々力庸兵を演じる遠藤憲一がうまい。連合赤軍事件のころは悠木とともに行動した男だが、現在はさまざまな確執から悠木を阻む存在になっている。さらに連合赤軍事件の功績を握りしめる局次長役の螢雪次朗や、販売局局長の中村育二といった手ごわい障害が悠木の行く手を阻む。

 凡庸なドラマではない。彼らは挑む相手であっても、倒す相手ではない。さまざまな状況の中で、組織の力学を使い、紙面を作っていく。比較するのも薄気味悪いが「海猿LIMIT OF LOVE」のように、愛の告白で自分の仕事を曇らせる人間は一人もいない。生きていろいろな形で仕事をしていく人々のドラマなのだ。

 地方新聞というサイズがまたうまい。全員が全員の顔を知る組織であり、まるで拡大された家族の戦いのように見えるのだ。悠木の母親は社長の妾だったという設定が、その家族的意味性を強めている。地方新聞社が拡大された家族という意味を持つから、息子との別離、山仲間の喪失から始まるドラマの結末で描かれるシーンが効果的なのだ。

 登場する一人ひとりの描きわけも絶妙でさる、特ダネをぬくかぬかれるかがサスペンスフルに描かれるクライマックスでは、すべての人物が有機的かつダイナミックに動いていく。

 「金融腐食列島」といい、「突入せよ! あさま山荘事件」といい、今作といい、現実の事件を下敷きにしたドキュメンタリータッチの作品での原田眞人演出はほんとうにブレがない。

 うすら恋愛に染まらず組織の中で仕事をする人々を描いた日本映画はほんとうにひさしぶりだ。

 説明過多にならずに現場の動きをダイナミックに追った姿も望ましい。そういう意味では「ユナイテッド93」のような迫真がある。最近はテレビに毒されたのか、場所が変わるたびにテロップで説明しろと要求する人が多いけれど、そういうのは最小限にしたほうがいい。

 テロップなんて、表示されていると、分かった気になるだけなのだ。この映画では時間経過以外に「群馬県警」というテロップがわずかに表示されたが、それさえも不要だ。画面を見れば、パトカーが何台か止まっている上に県警の看板もある。

 また、mixiレビューをみると、局長とか、局次長とか、整理部とか人物ごとに表示してほしいというものもあったが、それだってどうでもいいことだ。演技とセリフと座席位置で大まかな偉さの順はわかる。逆にテロップがあると、映像から内容を読み解くことが阻害されるだけだ。

  

 劇中に登場するアンザイレンなんてことばは知らなかったが、だからこそ、頭の中に刻み込まれたし、家に帰って検索してみてその意味がわかったとき、作品理解がさらに進んだ。 友軍として、孤軍奮闘してきた主人公が大家族的組織の中のひとりとしての日々を通して、ふたたび家族の中に還っていくことのメタファーであり、一人きりだから感じられると思った「クライマーズハイ」が、アンザイレンという他者との関係の中から、生まれるものだと悟るあたりで、深い感動が生まれる。

 若いときに観たら、人生でめざす方向を変えたくなるような力を持った作品であり、見終わったあと、反芻するのが楽しい作品でもあった。

※こちらのエントリーもどうぞ。

« スピード・レーサー | メイン | ハプニング »

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

コメントを投稿

ネットでラクラクチケット予約購入、e席リザーブでシックスワンダフリー

最近のエントリー

カウンターetc

人気ブログランキング - ゲームの王道 atom rss2.0
total カウンタ:today カウンタ:yesterday カウンタ

Pagerank/ページランク

人気記事ランキング

Google Adsense