「ZED」トライアウト公演
日本に住んでて、シルク・ドゥ・ソレイユのトライアウト公演なんて、いける機会は滅多にない。
日本でも「サルティンバンコ」や「キダム」、「ドラリオン」などでおなじみの国際的サーカス団シルク・ドゥ・ソレイユだが、仮設テントを使い世界中で披露されるツアーショーのほかに、一ヶ所にショー専用の恒久的な劇場を建設して、常設講演を行うレジデントショーがある。
"O"や"KÀ"、"La Nouba"といったレジデントショーは、ラスベガスか、フロリダ、そして(今年から)マカオで展開されている。
ツアーショーとレジデントショーの差は大きい。ラスベガスの"O"など、自在に深さを変えられる巨大プールを用い、高飛び込み、シンクロナイズド・スイミングを交えたすさまじいアクロバットが見られる。
日本ではいままでツアーショーしか見られなかった。だが、今年の10月1日から舞浜の東京ディズニーリゾートに建設された「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」で最新ショー「ZED」が見られることになった。
総事業費140億円、客席数2170、地上7階建ての新しい劇場が建設されたのだ。
グランド・オープニングは1ヶ月さきだが、そこに向けてトライアウト公演が行われる。一種のリハーサル公演だ。有料の観客を入れることで反応を確かめ、さらに調整していくわけだ。本公演とくらべると、料金も2~3割安い。
そういうことで、いってきましたよ。「ZED」のトライアウト公演。
劇場は舞浜駅からかなり離れている。イクスピアリから、アンバサダーホテルに入り、ホテルの中庭を抜けて、ホテル駐車場のそばにある劇場に入る。経路上にシアターの案内表示はそれなりにあるが、わからないと迷ってしまうかもしれない。
駅からの所要時間は10分強だが、はじめていくときは、早めに行動したほうがいい。
シアターは多面体で作られ、ガラスで飾られた現代的なものだが、サーカステントをイメージしたものだという。中にはショップもあった。Tシャツやお菓子、携帯ストラップなど、シルク・ドゥ・ソレイユグッズ中心で、パンフレット以外は「ZED」オリジナルの商品はなかった。グランドオープニングには、そろうとのこと。
コンセッションはカナダ産ミネラルウォーターやワインなどもそろっている。
1時間前に入場できるが、シアター内に入れるのは30分前である。10分前にはシルクのステージではおなじみのプレショーがあるので、早めに着席したほうがいい。
会場に入って、息をのんだのはステージである。明るいロビーエントランスから、シアターに足を踏み入れ、目の前の景色を見るだけど、ここが日常生活とはちがう特別な空間であることが、はっきりとわかる。
Ω型のステージを取り囲むように座席がならぶ。シルクのツアーショーや、「Mystere」のような座席構成。
今回は一般料金のレギュラー席、客席中央部PA制御卓付近に座った。このあたりはベストシートではないかと思う。全体を正面から見渡せたのは本当によかった。最前列付近で、キャストを間近に見るのもいいけれど、演目によっては見上げる形になるので、首が疲れそうだ。また、前後に関わらず、両サイドの席はすすめられない。また、後方席でもきちんとした双眼鏡があれば、かなり楽しめると思う。
高いところが見やすいように、軽く仰角がついたシートそのものの座り心地もよく、全席との間隔もたっぷりだった。
レジデントショーということで、セリや回り舞台、天井の吊り機構が効果的に使われていた。天井の装置はデススターのようでかなり凝ったものだったが、「O」や「KA」クラスの度肝をぬく仕掛けではない。レジデントショーであれば「Mystere」のイメージに近いショーで、主役は舞台ではなく、キャストであることがはっきりしていた。
なにしろ、トライアウト公演だ。演目によってばらつきもあったが、それでも十分に感動的だ。とくにオープニングとフィナーレは鳥肌が立つようなクオリティで、このふたつを見られただけでも、もとはとった気がする。
以下はネタバレの紹介だ。本公演とくらべるための覚書として書いているので、サプライズが楽しみな人は読まないほうがいいかも。
第一部
1)オープニング
プレショーで客いじりをしていた二人のクラウンが本の世界に入っていくという構成はだれもが予想できるところだが、ステージを覆っていた幕が引かれていくさまは心地よい。
2)バトン
スポーツバトンの世界選手権で11年連続優勝した稲垣正司が登場。高さのあるステージ空間を存分に生かしたもので、力強さが小気味いい。
3)バンジー
紅白の小林幸子よろしく宙吊りになったシンガーが歌う中、4人のパフォーマーが、伸縮するストラップを使って、美しく舞う。
4)ラッソ
ラッソとは投げ縄のこと。中国系のアーティストが輪になるロープを操作し、自分の身体で潜り抜けたり、連続縄跳びのように通り抜けさせたりする。連続技の一部で失敗はあったけれど、ステージ全体を大きく使った構成は気持ちがいい。
5)ポール・アンド・トランポリン
ここまではステージの上と下を交互に使う構成だったが、ここでは、上下に展開。天井からはハンモックといわれる布を使って、しなやかな体を見せてくれる。演目のメインは下のフロアで行われる。サルティンバンコでは「チャイニーズポール」といわれていた、垂直固定ポールでの演技にトランポリンを加えたもの。
かなり意欲的な演目だったが。パフォーマンスとしてのこなれ方が、いまひとつだった。本公演が楽しみ。
6)エアリアル・シルク
エアリアル・コントーションともいう。空中から吊られた布を自在に使って美しい姿を見せてくれる。今回、ソロ系の演目はどれも美しく感動的だったが、これもそのひとつ。
7)ハイワイヤー
つまり、綱渡りである。男性二人、女性一人が登場する。男性二人の正確なジャンプと一瞬の切れ味はすばらしいのだが、女性がからんだパフォーマンスが、いまひとつ物足りない。
8)ジャグリング
これは気持ちがよかった。複数人数によるジャグリング(お手玉系のパフォーマンス)。後半の炎を使ったダイナミックな演目になると観客防護用のネットや消火器まで出てきた。
9)クラウン
前半終了はクラウンの寸劇。気がついたら、休憩時間になるという流れだったが、その前のジャグリングで終わらせてもよかったのではないか。
【休憩】ここで30分の休憩。休憩の後半から、生バンドによる音楽が流れ始め、自然に第二部が始まるのはよかった。
第二部
10)バンキン
ロシアン・アクロバットチームによる壮絶組体操系肉体芸だ。直立4段のピラミッドなど、ダイナミックな演技が多く、安心してみていられる。
11)エアリアル・ストラップ
二人の女性がそれぞれ二本のロープを用いて、空を華麗に舞う。これも安心してみていられた。作劇上の主人公、ZEDとのからみも楽しい。
12)バトン
第二部の白眉のひとつ。第一部でも登場した稲垣正司が、ステージ狭しとバトンを見せてくれる。3本のバトンを使って、スピードと正確さを見せてくれる後半など、CGでも使っているかのように錯覚した。
13)ハンド・トゥ・ハンド
シルクの演目としては定番の筋肉芸。二人セットで反動を使わず、人間がさまざまな形を見せてくれる。大柄と小柄、黒人と白人など、さまざまな組み合わせがあるが、今回は男性と女性のペアだった。中央の回り舞台を使うのだが、会場中が固唾を呑んで見守っていた。
14)フライング・トラビス
つまり、空中ブランコだ。後半の連続空中ブランコなど、技術的にはすばらしいものだが、ショーとしての盛り上がるを考えると、平板な印象があった。
15)フィナーレ
これはすごかった。ほんとに鳥肌もの。終わったあと、スタンディングオベーションで、4回もカーテンコールがあったのだけれど、このフィナーレのおかげといってもいい。
キャラクターなど、ヒエロニムス・ボッシュからインスパイアされたものが随所に登場しているが、ステージの明度が高く、全体的に清潔で明るい印象がある。
主人公のZEDと二人のクラウン。狂言回してきな存在がふたついるのはちょっと気になる。このあたりの構成はもう少し練りこんでほしかった。
音響はとてもよく、その中でバイオリンソロなど、とても素敵に響いていた。好みでいえば、パーカッションがもっと響くようなつくりが好きだけれど、それでもとても豊かに気持ちになれたよ。
歌はすべて、ZED語とも言うべき異国のことば。そんな中、第一部で「ライオンがきたっ! ライオンが来たっ!」とくりかえし聞こえるところがちょっとおかしかった。
気がかりだったのは、作・演出が映画「シルク」の監督フランソワ・ジラールだったことだけれど、それは杞憂だった。
トライアウトといいながら、これほどのものを見せてくれるのはうれしい。10月には本公演にいく予定だ。そっちはそっちで本当に楽しみだよ。