【社会科見学】J-PARC ハドロン吸収体搬入
この見学は開田さんご夫妻が企画してくださったものであるが、開田裕治さんがお忙しいとのことで、参加を断念。いままでの加速器見学の中でも屈指の妖しい部分を見学させていただけただけにとても残念。しかもこの見学部分というのは、施設が稼動すれば、人間が直接見ることはなくなってしまうすさまじいエリアだ。
10月18日は、早朝につくば駅で集合後バスに乗って、東海村のJ-PARCへ。このブログで以前も紹介したが、J-PARCは日本が誇る大強度陽子加速器施設だ。総建設費は1800億円になるという。完成後は、毎秒100兆個の陽子を打ち出す加速器となる。とりあえず、750KWのパワーを誇るが、将来的には4MWをめざすという。
加速器から射出される陽子ビームを物質生命科学、ハドロン実験、ニュートリノ実験の三つの施設で利用するのだが、今回はニュートリノ実験施設建設の大きなイベントがあるのだ。

施設内ではノーベル賞関連で盛り上がってた。
J-PARCに到着すると、おなじみの多田将博士にお出迎えいただく。今日も砂漠仕様の迷彩服である。今回の見学も多田先生のフルアテンドであり、大勢の見学者にさまざまな便宜を図っていただいた。

最初は座学である。トロ・ステーションや見学イベントなどで科学に対する矜持と感動をわかりやすく伝える多田先生の説明には定評があるが、今回もすばらしいものだった。J-PARCの施設と多田先生が携わるT2K実験の説明、そして素粒子物理学の意義に関する40分ほどの話が終わったあと、全員がちょっと興奮気味になる。


とりあえず、ビームダンプ設置予定地を見学。
今回の目玉の一つビームダンプ(ハドロン吸収体)搬出作業の見学に向かう。ビームダンプとは、スーパーカミオカンデめがけ、射出されるさまざまな素粒子のうち、ニュートリノを通すフィルターにあたる装置だ。
グラファイトで作られ、高さ5m33cm、重さ77tの巨大な物体なのだが、すさまじい精密機器といってもいい。以前の見学でもその組立作業を見せてもらったが、巨大質量の物体が、きわめてデリケートに組み立てられていく様は感動的でもあった。
そこまで緻密に作られた物体を現場に納めるのだが、移動作業中、どんな坂があろうが、どんなカーブを曲がろうが、水平を維持しなければいけない。
そこで登場するのが、ドイツ・ゴールドホーファー社製のスーパーキャリアである。56本のタイヤは4本1組で制御され、水平を維持しながらの移動を可能としている。







出てくるまでがたいへんです。何度も水平をチェックしながら注意深く動いていく。

独立制御のタイヤ群。

10キロ前後で進んでいく。もっとショートカットできるルートもあるのだが、途中に陸橋部分があるため、遠回りして進んでいく。

このあたりは東海村の原子炉に燃料を運ぶ道であったりもする。




ワイヤーを結わえ付ける玉がけ作業をして、クレーンで地下18メートルに設置する。
地下への設置を見届けた後は、加速器部分を見学する。

ニュートリノラインに進む超伝導磁石部分。

場所によっては放射線管理区域だったりする。

陽子ビームはこの穴からターゲットステーションに射出される。
ここから、ターゲットステーション上部に移動する。今回はディケイボリューム内に入れるのだ。

建設は急ピッチで進んでいる。以前は露天だったところに、うわものができている。

全員が安全帯を装着し、ハシゴを数回降りて、ディケイボリューム内に入る。ディケイボリューム(崩壊領域)はパイ中間子が崩壊しながら進む場所だ。ビームの銃身の一部といえる。厚さ200ミリの鋼板で作られ、加速器側の上流から、カミオカンデ方向の下流に進むに連れ、高さが大きくなっていく。これはビーム発射方向を上下に振れるこの施設の特長によるものだ。下流には搬入したばかりのビームダンプが見える。ディケイボリュームが銃身なら、ビームダンプはサイレンサーみたいなものか。

純粋な鉄の現場である。

100%の鉄で作られた空間。上下左右にあるパイプで冷却するシステム。すべてのデザインは理論によって生み出され、無駄がない。94メートルもこんな通路があるというのは、一種、鉄酔いするような空間でもある。

下流に設置されたビームダンプはまるでご神体のようだ。

なんだか、ここから帰りたくなくなっちゃうんですけど……。
いやはや、すごい見学だった。最後に見たディケイボリューム部分は運転開始後、強い放射線にさらされるので、人間が入ることはできなくなる。肉眼で見られる機会はほとんどなくなるのだ。


