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【映画2009】愛のむきだし

 ユーロスペース1にて鑑賞。

 園子温のファンというわけでもない。上映時間が237分……、つまり4時間もある。劇場も渋谷円山町のユーロスペースだ。移転後のユーロスペースはいったことがない。地元シネコン原理主義者としてはミニシアター系は億劫である。しかも長時間作品だから、料金は2500円だ。

 それでも映画「プライド」で、満島ひかりの怪演を見てしまった以上、彼女が出演する「愛のむきだし」は、いま見なければ後悔すると思った。また、4時間映画をDVDで見る根性はない。長時間映画はスクリーンで見るにかぎる。

 神父である父親の愛情をとりもどすため、変態として生きることを決め、盗撮魔となった高校生、ユウ。ある日、女囚サソリそっくりに女装して、町を歩いていたユウは、彼の人生を大きく変える女性と出会う。何千枚ものパンチラ写真を撮っても勃起したことのない彼が、女子高生、ヨーコのパンツを見たことで、はちきれんほど勃起してしまうのだ。彼女こそ、亡き母が見つけなさいといっていた運命のマリアに違いない。ヨーコはヨーコで、中身がユウだとは知らず、サソリに恋をする。運命のいたずらにより、ひとつ屋根に暮らすことになったユウとヨーコだったが、急速に勢力を伸ばす新興カルト、ゼロ教会の魔の手が一家に迫っていた。

 ストーリーをダイジェストしていると、むちゃくちゃぶりが際立ってしまう。だが、ユウが盗撮魔となり、ヨーコのパンツを見るまでの序盤など、現代日本のエピック(叙事詩)としてすさまじいエネルギーと、疾走感が横溢している。

 絶え間ない独白とボレロとベートーベンの交響曲7番が執拗に流れるのだが、その数奇な運命に疑問を持つというより、あふれるサービス精神に酔いしれてしまう。

 園子温は1961年生まれとのこと。なるほど、なるほど。同世代の匂いが濃密だ。なにはなくとも集団格闘や、脳内ニキビがつぶれまくる思春期のやるせなさ、そして、永井豪DNAが見え隠れするハレンチエネルギーなど、あの時代の自主制作映画の空気をとことん突き詰めていったら、2009年にはこうなるのだと、くっきりわかる仕上がりになっている。

 上映はフィルムという形になっているが、きわめて舞台的な作品だ。4時間の長尺を駆け抜けた後、良質の芝居を見たような興奮があった。それは役者の演技をきっちりと見せていることから生まれるだけではない。演出もかなり舞台的であり、出演者やスタッフと、おれたち観客とのあまやかな共犯意識があるのだ。

 ユウを組み敷き、カオリが「コリント人への手紙」13章を泣きながら叫ぶように暗誦するシーンがある。

たといわたしが、人々の言葉や御使たちの言葉を語っても、もし愛がなければ、わたしは、やかましい鐘や騒がしい鐃鉢(にょうはち=シンバル)と同じである。たといまた、わたしに預言をする力があり、あらゆる奥義とあらゆる知識とに通じていても、また、山を移すほどの強い信仰があっても、もし愛がなければ、わたしは無に等しい。
日本聖書教会サイトより引用。注釈は柴尾

 ここから始まる長い暗誦のすべては、満島ひかりの存在を特等席で鑑賞する醍醐味がある。なにより、どんなにすばらしいものを手に入れても、そこに愛がなければ、無価値になるという、聖書のもっとも美しい部分が、この映画の大きな見せ場になっているのだ。途中、満島ひかりの感情が高ぶって、なにを言っているのか、聞きとれないこともある。それでも愛なき絶望と愛を希求する叫びがびんびんに伝わってくる。

 普通の映画としてみればリアリティなど欠片もない。新興宗教の教義なんてよくわからないし、そこに惹かれる信徒たちの心なんて、まるっきり理解できない。理屈で見れば、おかしなつながりもある。それでもかまわない。あらゆるものを剥ぎ取ったあとに残る迷惑なまでの愛はたしかに描かれているし、それがわかればじゅうぶんじゃないか。

 「ゆらゆら帝国」の挿入曲が流れると、愛への渇望が暴力的なまでに高まる。家族をとりもどすために変態になった少年と、男たちをすべて変態として否定する少女のガチンコの衝突がすばらしい。

 満島ひかりは全シーンの7割くらいでパンツを見せているのではないだろうか。満島ひかりの怪演を見たければ、「プライド」に軍配を上げるが、満島ひかりのパンツを見たければ……。いやいやいや、女優として、とことんの生身をみせてくれる満島ひかりを堪能したければ、「愛のむきだし」になるのだろう。

   

 実の父親からレイプされそうになったとき、満島ひかりが見せた怒りと悔しさと無力感など、映画の演技の域を越えていた。映像ではみたことがないような"女"の怒りで、スクリーンに向かってなにもできないこちらは、人間として、女にあんな顔をさせてはいけない、あんな声を出させてはいけないと、罪悪感を感じてしまった。

 キリスト教のモチーフがいたるところにある作品だ。家族、信仰、愛、変態をすべて等しく扱っている。家族の奇跡があり、信仰の奇跡があり、愛の奇跡があり、変態の奇跡がある。それはすべてむきだしのままに生きていく人間の真ん中から生まれているのだ。

公式サイト

監督原案脚本:園子温 エグゼクティブプロデューサー:横濱豊行/河井信哉 プロデューサー:梅川治男 撮影:谷川創平 美術:松塚隆史 照明:金子康博 編集:伊藤潤一 アクションデザイン:坂口拓 音楽:原田智英 主題歌挿入歌:ゆらゆら帝国 
キャスト 西島隆弘 満島ひかり 安藤サクラ 尾上寛之 清水優 永岡佑 広澤草 玄覺悠子 中村麻美 渡辺真起子 渡部篤郎 他
※こちらのエントリーもどうぞ。

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去年、劇場で観た「沈まぬ太陽」が上映時間3時間超えってンで驚いたンですが… やはり去年の映画でキネ旬第4位になった今作 な、なんと上映時間237分 ... [詳しくはこちら]

コメント

この本もすごいです。
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=31929097
弟の病気のせいであやしげな新興宗教にはまっていく親にふりまわされた少年時代を描いています。

ちょっと値段にびびりましたが、「大発作」はBDなんですね。

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