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【映画2009】ミルク

 ワーナーマイカルシネマズ板橋12番スクリーンにてSRD鑑賞。

 主人公のハーヴェイ・ミルクは「ゲイであることを公表した人として初めて合衆国の大都市の公職に選ばれた」人である。ぼくもストリームのポッドキャストの町山智浩の回で聴くまで、知らなかった。それまで漠然とサンフランシスコやキーウェストみたいにゲイにやさしい町は、旅人にもうれしい町であると思っていたが、その背後にはこういう歴史があったのだ。

 映画はロサンゼルスでのゲイ弾圧のニュースフィルムに始まり、「もし自分が暗殺されたときに」というラベルがついたテープに声を吹きこむハーヴェイ・ミルクの姿から語られていく。自身の暗殺の可能性を知り、半生をふりかえるハーヴェイのことばのあとに報道番組が登場し、彼が殺されたことを伝える。

 ミルクを知らない人でも、彼が不慮の死を遂げたことは明示されるわけで、彼の死へのプロセスを描くと明確に宣言しているのだ。

 アカデミー主演男優賞を獲っただけあって、ハーヴェイ・ミルクを演じたショーン・ペンの演技はすばらしい。冒頭から男とのキスシーンやベッドシーンがあるし、出演作品ではいつも複雑な顔をしていたショーン・ペンが、いつもにこやかな笑顔を浮かべ、男とキスしまくるというのは、それだけでショッキングだったりする。

 ミルクがニューヨークからサンフランシスコのカストロ通りでカメラ屋をはじめ、暗殺されるまでを順番に描いていく政治的な力を持たなければ、ゲイが差別されたままだという危機感から、何度も立候補しつつ、政治的地盤を固めていくミルクは、たしかに黒人におけるキング牧師を思わせるものがある。

 高感度フィルムで撮った映像は当時の空気を伝えているし、事実を追った展開もきわめてていねいである。

 ただ、映画としてみた場合、物足りないところも多い。

 ハーヴェイ・ミルクはゲイに対して職場や家庭でカミングアウトせよと煽動し、そのことが、ゲイの社会的立場を強化すると唱えた人だ。冒頭のテープでも「もし一発の銃弾が私の脳に達するようなことがあれば、その銃弾はすべてのクローゼットの扉を破壊するだろう」と、殉教者のように自身の死が、カミングアウトへの道となると"予言"している。

 だが、彼自身のカミングアウトへの葛藤や、カミングアウトした市民のディテールを描いていないために、どこか空疎なスローガンのように思えてしまう。もともとミルクが政治への志向を強めていく心理の描き方も足りない。

 ミルクを射殺した男も描いているのだが、なぜ彼が暗殺にいたったかについて、映画としての解釈をきちんと見せていないので、作品としてのバランスが狂う。

  

 いくつかのデモやパレードは描かれているが、差別されていたゲイが立ち上がるアグレッシブな部分が意外と薄いのも気になった。また、ゲイでもないが、アンチ・ゲイでもない選挙民のミルクに対するリアクションも描かれていないから、この手の闘争になじみがない、極東の人間には、腑に落ちないことが多い。

 「My name is Harvey Milk and I'm here to recruit you」という有名な彼のセリフの「recruit」を字幕では「募集します」程度に訳していたけれど、もうちょっと戦いを意識させる強いニュアンスで訳してもよかったのではないか。

 もちろん、ショーン・ペンの熱演、ハーヴェイ・ミルクの業績については高く評価するが、映画として人間をきちんと描けなかったことが、残念である。殺された人やゲイ・コミュニティへの配慮などいろいろあったとは思うけれど、もうちょっと掘り下げて描いて欲しかった。

 彼を描いてアカデミー賞をとったドキュメンタリーもあるということで、そちらを見てみようかな。

監督:ガス・ヴァン・サント 脚本:ダスティン・ランス・ブラック 製作:ダン・ジンクス/ブルース・コーエン 撮影:ハリス・サヴィデス 美術:ビル・グルーム 編集:エリオット・グラハム 衣装:ダニー・グリッカー 音楽:ダニー・エルフマン 
キャスト ショーン・ペン エミール・ハーシュ ジョシュ・ブローリン ディエゴ・ルナ ジェームズ・フランコ アリソン・ピル ヴィクター・ガーバー デニス・オヘア 他
※こちらのエントリーもどうぞ。

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コメント

貴方の高校の後輩でもあります。どの映画のコメントをみても、中途半端でありませんか?確かに「おっぱいバレー」にしても、戸畑ではなく、門司から楠橋や遠賀川の上流迄、違和感のある所が多いのは否めませんが、では「無法末の一生」も違和感だらけな所は多々あります。
アメリカで暮らし、勉強していた時、指を指され「イエロー」と平気でいうのです。アジア人などみんなとは言いませんが、そんな感覚。差別者会も甚だしい。ネイティブアメリカンのナバホ族やホピ続の長老達と話をさせて頂いたときも、不思議な感覚と苦悩を感じたものです。
ゲイについて、全てご存じないマイノリティ社会の現実(アファーマティブアクションもあれば矛盾のある政策もありますが)。先輩として、多くの映画鑑賞、多くの執筆やゲーム制作をなさり、成功なさっておられる方であるからこそ、責任を持った映画へのシンプルなコメントを期待したいです。素晴しい感動が薄れている現代だからこそ、期待したいのです。

 はじめまして。

>「無法末の一生」も違和感だらけな所は多々あります。

「無法末」は「無法松」ですね。最近、映画化されましたっけ? ぼくは1958年版しかみていませんが、よろしかったら、どのバージョンのどこにミスさんが違和感を感じたのかを教えていただけますか。

 ちなみに「おっぱいバレー」のロケーション的な違和感については「いろいろおかしいのだけれど、まあ、映画であるから、それはどうでもいい。」と、書いているように、わりとどうでもいいことです。

 きちんとお読みいただければ、わかると思うのですが、「作劇上に大きな難点がある。それは少年たちをきちんと名前で呼んでいないことである。」が問題の一例であり、「ちょっとエッチな子供をだしにして、綾瀬はるかが自分探しをしているだけの残念すぎる作品だった。」というのが、この作品に対する私の評価です。

>アメリカで暮らし、勉強していた時、指を指され「イエロー」と平気でいうのです。

 アメリカはたしかに差別がたくさん残っていますね。ぼくもそんなに長くアメリカにいたことはありませんが、それでも英語が分かるようになるにつれ、日本の感覚では、びっくりするような差別的なことばを直接聞くこともあります。

>差別者会も甚だしい。

 「差別者会」は差別をする人たちの会ではなくて、「差別社会」のことでしょうか。合衆国のようにさまざまな人種、民族が暮らす社会では、そこから生じる軋轢は、日本の比ではありません。ただ、異質な人が相手を異質であると顕在的な形で衝突する多民族国家と、生地、出身、所得、血液型など、些細な差異で陰湿な差別をする「単一民族国家」日本とで、どちらの差別がひどいとは、いいがたいものはあります。(ちなみに自分は日本を「単一民族国家」とは思っていません)

>ゲイについて、全てご存じないマイノリティ社会の現実(アファーマティブアクションもあれば矛盾のある政策もありますが)。

 もちろん、自分はゲイとして差別される側でも、相手をゲイといって差別している側でもありませんので、「マイノリティ社会」の現実を当事者として理解できているわけではありません。(以前、ゲイをカミングアウトしている男性に言い寄られたことはありますが、残念ながらその気にはなれませんでした)

「アファーマティブアクションもあれば矛盾のある政策もありますが」と、お書きですが、対比してお書きということは、アファーマティブアクションには矛盾がないと思っておられるのでしょうか。

 「ミルク」については、ゲイとして差別され、歴史的事実としてのハーヴェイ・ミルクを知っていた人なら、理解できる部分があるかもしれませんが、映画としてはミルクの業績を編年的になぞったにすぎないものたりないものでした。映画を作ったこと、それ自体は評価しますが、作った以上は、ゲイ以外の人や、歴史的事情に詳しくない人に対しても、普遍的なテーマを刻むようなものにしてほしかったと思います。

 差別との戦いを扱ったものとしては、「アラバマ物語」、「ミシシッピバーニング」、「タイタンズを忘れない」、「白いカラス」、「評決のとき」、「ドゥ・ザ・ライト・シング」、「ジャングル・フィーバー」、「パッチギ」、「橋のない川」、「キューポラのある街」など、脳裏に深く刻まれる作品は多いのですが、「ミルク」は、その域にはおよばないというのが、私の評価です。

>素晴しい感動が薄れている現代だからこそ、期待したいのです。

 レビューはだれのレビューでも、あくまでもレビューにすぎません。映画館であなたが観た作品が唯一無二のものであり、だれかがなんといおうと、あなたが感動したのなら、それが唯一の感動です。

 私にとって「ミルク」は努力賞作品ではありますが、あなたにとって生涯の一本なら、それがすべてだと思います。

 あなたが「ミルク」をどの程度、評価しているのか、わかりません。今後の理解のために、よかったら「ミルク」のよいところを教えていただけますか。

お返事がいただけないので、アクセス解析をしてみると、書き込んできたミスさんって方は、その後、アクセスされていないようですね。

ちなみに「どの映画のコメントをみても」とか、お書きでしたが、アクセス解析によれば、今回のコメントを書く前には「おっぱいバレー」と「ミルク」と、ぼくのプロフィールをご覧になっているだけです。その後、レッドクリフPart II -未来への最終決戦-」と「ある公爵夫人の生涯」のレビューは読んでいますが、自分の発言をもっともらしく見せるためにウソをつくのはいけませんね。

ほとんど言いがかりの通り魔のようなものです。

同じ高校の先輩として、とても恥ずかしい後輩としか思えません。

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