【国内旅行】道は違えど富士は動かず
リベンジである。リベンジの富士登山である。午前11時、友人1号が近所のSATYまで、迎えに来てくれた。
「首都高の山手トンネルを通って、中央道経由でいきましょうよ」ということなので、ナビをしながら、中台に行ってみたら、志村から両国まで17キロの渋滞だそうで、それはあまりにもきびしい。
じつは前日、山小屋の予約など、気になって聞いてみた。河口湖口の山小屋ウェブサイトなどではすでに満室の案内が出ている。予約をまるっきりやっていないということで、不安になって「こちらでやる?」と提案したら、「ぼくがやりますよ」とのこと。
その後、連絡が入り、午前11時のピックアップになったわけだが、話を聞いてみると夕食を食べたいのなら、午後8時に山小屋到着。最悪は午後9時の消灯前に到着といわれたそうだ。五合目の登山口から本八合目の山小屋まで5~6時間かかるから、ほとんど余裕がないスケジュールである。
そういうことなら、もっと早めに出発してもよかったんじゃないか。
都心部に向かう道はどこも混雑している。結局、大きく引き返して、練馬から関越に乗り圏央道経由で中央道に進むという大回りコースをとることにした。途中、何度か、曲がり角を間違えるといううっかりを繰り返していた友人1号だが、最大のうっかりは大月ジャンクションを通り過ぎてしまったことだ。
1.2キロ前でカーナビの指示に従い、車線も変更していたのに、軽くスルーして勝沼ICまでいってしまった。
「あれ、大月ジャンクションって、まだですかね」
メールチェックなどして、景色を見ていなかったおれも悪かったよ。このロスで30分以上、空費してしまった。
トイレ休憩もせず、昼食もとらずに須走登山口に到着したのだが、時間はすでに午後3時過ぎだ。
五合目あたりで、とりあえず食事などとって、高地に身体を慣らすというのは鉄則である。
東富士山荘で、友人1号は富士山カレー、ぼくはきのこカレーをいただく。きのこカレーはカレー全体がきのこで埋め尽くされていた。カレーが800円できのこカレーが900円という100円の差ながら、その差は歴然であった。

登り始めたのが午後3時30分である。食事がとれる期限の8時までは4時間30分、消灯の9時までは5時間30分しか余裕がない。前回の経験からいけるとは思うけど、不安も残る。それでも登っていきましたよ。
前回とは違って、スタートが日中なので、印象が違う。到着した山小屋の雰囲気もまるで違うし、標高があがるたびに色彩と表情をかえる富士山の姿は魅力的だ。東側の登山ルートなので、午後の日差しも富士山にさえぎられ、じりじりと焼けるようなこともない。
食後すぐに登り始めたので、大量のきのこが胃の中で存在感を主張するが、山小屋の晩飯もきちんととりたいので、着々とがんばる。
最近、若い女性の富士登山が増えているということだが、ほんとに多い。ナンパする余裕のある人はいかがでしょうか。おれにはそんな余裕はないけど……。
本六合目の瀬戸館に到着したのが、午後4時50分。七合目の大陽館に着いたのが午後5時50分。八合目には午後7時20分ごろに到着だ。八合目は前回の到達点である。風雨にあおられつつ、ここまでは5時間30分かかったのが前回だが、今回は3時間50分で到達。気象条件が違うとまったく違うね。
ここから、30分ほどで本八合目胸突江戸屋へ。休憩込みで4時間20分はそれなりのハイピッチだったが、二回目だけあって、余裕もあった。
夕食はカレーライスと水がコップ一杯だった。ここでカレーが出るんなら、五合目でカレー以外にしとけばよかったね。キリンビール缶が600円というのはリーズナブルだと思い、二缶飲んだよ。高度3370メートルのビールは最高!

宿泊は寝袋である。まるで蚕棚のようなスペースに、ぎっしりとシュラフが並んでいる。男も女も関係なく、雑魚寝である。
シュラフ内で足をのばぞうと、もごもごしていると、いままでつったことがないところが、つりそうになった。いびきを響かせては悪いと思い、ブリーズライトも装着。
最初は寒いかなと思っていたシュラフ内だが、ものすごく暖かくなる。しっかり寝たという感じはなかったが、午後8時40分くらいにシュラフにもぐりこんで、午前1時に起床。朝食は和風のお弁当か、パンのセット。持ってもいけるが、宿の中で食べた。
「今回はお鉢巡りとかするの」と友人1号にきいてみたところ、「頂上までいって御来光をみるだけでいいでしょう」とのこと。
お鉢巡りをしないのなら、頂上の滞在時間はそんなに長くならないだろう。必要最小限の装備を整え、荷物は宿屋に預ける。預け賃は300円だ。リュックなしで、山頂にいけるのなら、安いものだ。
ここから、頂上まで1時間くらいの距離だといっていた。そんなに遠くはない。午前5時前後の御来光を見るために午前1時に起きろというのが、宿の人のオススメだ。どうしてそんな時間に行くのか不思議だったが、宿から10メートルくらい歩いてはっきりわかった。
登山客で大渋滞なのだ。河口湖口、吉田口から登ってきた登山客がこのあたりで合流する。河口湖口は富士登山の中でもいちばんの人気だ。登山客の量も半端ではない。団体客も大量にいる。ガイドさんの声が響く。まるっきり印象が変わってしまう。
登山道で延々立ち止まることもある。暗闇の中、頂上に向けて、ヘッドライトや懐中電灯を持った人々がジグザグの道を作っているのが、興味深い。
いちど中途半端なところで、列が流れなくなったと思ったら、団体客のなかの初老の男性が頭から血を流していた。いわばで転倒して怪我をしたのだろう。「名前はいえますか」などという問答にもしっかり答えていたので、よかったが、闇の中ライトに照らされる鮮血はインパクトがあった。
山頂までは2時間30分くらいかかった。鳥居が見えてそれをくぐったとき、あれ、もう到着したの?って感じだった。
歩いているあいだはよかったが、御来光まで待っているうちに冷えてきた。じつは鼻風邪気味で、登山中は鼻がつまって苦しかったし、待っているうちに水ばなが止まらなくなってしまった。
気がつくと防水スプレーをたっぷりかけたジャケットの上にゆるい鼻水がたれて滴り落ちている。かっこわるい。
そうやって待ったかいがあって、御来光の織り成す色彩は美しかった。これを見るだけで、苦労が吹っ飛ぶ。






御来光のあとは山小屋でうどんでも食べて、温まりたかったが、山頂付近はすさまじい人の数だ。御来光が終わってもぞくぞくと人が増えてくる。結局、ホットココア缶を飲むだけで終わってしまったよ。
「火口の周りを歩いたりしないんですか」と、友人1号。
「えええっ。お鉢巡りしないって言ったじゃないか」と、おれ。
「火口を歩くことをお鉢巡りっていうんですね」
「富士登山のサイトとかあんまり見てないでしょ」
「見てませんねえ」
前回や今回のあわただしいスケジュール、無理な装備など、理由がわかったよ。冷え切った身体で、1時間半はかかるお鉢巡りをする余裕はなく、そのまま、下山することになった。

下りは早い。20分くらいで、荷物を預けていた胸突江戸屋にもどり、装備をかえるついでに、どん兵衛天ぷらそばを食べる。うまい。なんか、全身にしみまくる。いままで食べたどん兵衛で一番うまい。

下山ルートを降りていくと七合目付近で、なにか相談している人がいる。日本語のイントネーションから韓国からの人らしいのだが、どうやら河口湖口から上がってきたのに、8合目で分岐する下山ルートを間違えて、ここまで降りてきたらしい。とにかく歩いて上にあがるように指示をする。
名物の砂走りでは赤いデザインジャケットが転がっていた。誰かがリュックにくくりつけていたのを落としてしまったのだろう。砂走りを降りきったところで、カップルがほかの登山客にジャケットのことを聞いていた。
「かなり上のほうに落ちていましたよ」
コツさえつかめば10分くらいで降りられるところだが、足場は圧倒的に悪い。自分の足で登ってあれを拾いにいくのは2時間近くかかるのではないか。しばらく観察していたが、女はイラついた顔でタバコをすい、男は果敢にも登ろうとしていた。

雨が降っていない砂走りは楽しくてらくちんだ。ものすごい勢いで、下のほうに降りて待っていたのだが、友人1号がたどり着くまで30分近くかかった。はぐれようがないし、滑落するような場所もなかったのだが、それでも気を揉んだ。
なんとか、たどり着いた友人1号。靴の中に小石が入ったりしてたいへんだったそうだ。「前回も同じルートできたから、どんな靴がいいかわかるだろう?」と、聞いたら。
「前はブーツを履いていたんですが、それでも小石が入ったから」などといっていたが、だからといって、ローカットの靴を履くとは……。
それにしても降りるのは、しんどい。いろいろ対策をしていたのだが、靴擦れがひどくなったり、下山道の傾斜で両足の中指が、突き指のように痛くなったり、つらいものがある。最後の300メートルくらいで、よろよろと歩く感じになってしまった。
五合目の山小屋「菊屋」で、お茶を飲んだあと、レジにいってみると、白人女性ひとりと、ティーンの男の子3人が、ご主人にいろいろ言っている。
話を聞いてみると、彼らもルートを間違えて、河口湖口ではなく、こちらの須走口降りてきてしまったようだ。緊急時の携帯番号にかけたいので、電話を貸してくれといっているのだが、「カード式の公衆電話しかないよ」と、大騒ぎ。
かわいそうなので、ぼくの携帯電話を貸してあげた。電話をかけた後、悲しそうな顔をしているので、電話を耳に当てると、「この番号は現在使われておりません」とのこと。「wrong numberだよ」と教えてあげる。バスも出ているが、御殿場経由では河口湖口まで行くのはたいへんだ。タクシーもあるが、有料道路を使って、56キロくらいある。
その後、白人女性がめんどうなことをいろいろ言い始め、子供たちとバトルになったので、そのままにしたが、いまごろ、どうなったであろうか。どっちにしても、ルート表示はもうちょっとわかりやすく書いてあげたほうがいいとは思う。
そのあとは、富士急ハイランドの横にある「ふじやま温泉」でのんびりする。循環だけれどいい感じの施設だった。ご当地B級グルメとしても有名な「肉玉吉田うどん」がおいしかったよ。靴ずれはけっこうすごいことになっていた。まいったなぁ。
なにはともあれ、天気によって、難度が大いに違うのが富士登山だ。今回は1ヶ月前とはまるっきり違う印象だった。へとへとになったけど、達成感は大きかったよ。
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