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【映画2012】シネコン至上主義#1

「水道橋博士のメルマ旬報」で連載中の「シネコン至上主義――DVDでは遅すぎる」のバックナンバーです。

この回では、「黄金を抱いて翔べ」、「ザ・レイド」、「のぼうの城」、「終の信託」、「アルゴ」をご紹介。

最近公開の映画を映画館でお金を払ってみたレビューです。
映画を映画館で見る理由となる3つの理由について五点満点で採点しています。

「スクリーン必然性」
3D効果や臨場感、サウンドなど、家庭の液晶画面でなく、
映画館で見る必然性を示します。

「インストール強度」
人生の一部として、その映画が自分の中にどの程度インストールされるかの目安です。

「おっぱい指数」
映画に必要な裸の女優の割合を物理的なものだけでなく、色気も含めて評価します。


「黄金を抱いて翔べ」

スクリーン必然性 ★★★★ インストール強度 ★★ おっぱい指数   ★★

70年代から80年代の空気をその熱さのままに推進力にした、
井筒監督にしか撮れない濃密な21世紀ピカレスクサスペンス。
イベントにつぐイベントの中から、浮かび上がる男たちの原風景が愛おしい。
こういう日本映画を観たかった。

原作イメージからすると、浅野忠信がちょっと老けている感じがして、
原作では大学の同期という妻夫木聡とは見た目の年齢差がありすぎるが、
浅野忠信ならでは存在感を考えると、満足するしかない。
高村薫原作映画でベストといっていい。ほかがひどかったというのもあるけれど。

とはいえ、劇中は首をひねる部分も多い。
銀行地下倉庫から黄金を奪うというクライマックスシーンでは、
サスペンス要素が薄れ、もたついた印象もある。
ニューシネマ的な個の昇華を持ち出すのがちょっと早すぎる。
なによりも最後の爆弾の連続あたりは、いびつすぎるコメディであり、
あれだけ細かったキャラクター設定にくらべ、
カタルシス設計に関しては、甘さが目立つ。
もともと行き当たりばったりの計画を立案したとしか思えない。

丹念に作りこんだ群像劇が情緒の勢いに流されてしまった。
このタイトルで観客の観たかったものと、監督の作りたかったものが
乖離してしまった。

計画について事前に明かされる情報と、
実行時にわかるもののバランスが悪いので、ハラハラするというより、
果てしない後だしジャンケンを見せられているような気がする。

現代において携帯電話の利用を極力とどめた演出意図は一面で正しいのだが、
完璧な計画のためなら、もっと積極的に使おうよ。

それでも、実行にいたるまでの人間模様は井筒節にあふれ、
役者たちの可能性を広げる演出はひたすら楽しい。
それだけでも映画館にいって観る意味はある。

■採点理由
濃密な演出と政治的ダイアログ、過剰なバイオレンスで
「スクリーン必然性」は★★★★。
あの時代の熱さを思い出させてくれるので「インストール強度」は★★。
おっぱいは出てこないけれど、中村ゆりの尻を出してつかれているので
「おっぱい指数」は★★。

■以下ネタバレ
「捨てたはずの過去が完璧な計画を狂わせる」というフレーズが予告編にはあるが、
この計画が完璧なものとは思えない。
なにより変電所爆破から共同溝爆破そのものが有効に働いてはいない。
あれって、びっくりさせるためのもの?
知性と蓋然性、丹念な計画と事故といったもののバランスが悪いのが、
致命的にもなりかねない。

浅野忠信の存在に説得力が弱い。
なぜ、彼が金塊やダイナマイトの情報を知りえたのか。
あの交通事故のあとも、なぜ、計画を実行できるのか。
病気の話が後半で出てくるが、夫婦関係の終焉を意図していたのか。
そういったキーポイントのロジックが見えにくい。

ただ、あの写真のインパクトは強かった。



「ザ・レイド」


スクリーン必然性 ★★★★★
インストール強度 ★★★★★
おっぱい指数   ★

あまりにも鮮烈すぎる現代アクション映画の最適解。
興奮、絶望、怒り、没入。そのすべてがみなぎる血なまぐさいアート。
いま生きている男なら、これを劇場でみなければ、
21世紀の語り草をひとつ見逃すことになるぞ。
男テーマパークの主力アトラクションだ。

世界が理解できる、堂々たる無国籍アクションというのがすばらしい。
この映画がインドネシア製であるということはかけらも意識しなくていい。
あのスラムビルは世界中の男たちの胸に挑むべき魔窟として存在している。

自分にとって、無国籍アクションといえば、
漫画「ワイルド7」がインストールされているのだが、
羽住英一郎監督の「ワイルド7」も、
過去の羽住監督作品にくらべたらマシな方じゃないかと
ゆるく認めていた不明をお許しください。
「ザ・レイド」の主人公ラマ(イコ・ウワイス)こそが、飛葉大陸そのもの。
過剰かつ全身全霊のエンターテインメントで、
生々しい痛みを抱えつつ仲間を守るものだ。

スラムビルの中を、ラスボスに向かって進撃するSWAT隊員という設定は、
一人称視点のアクションゲーム、FPSの構造によく似ているが、
この映画には、ゲームでは補足しきれない要素として、シラットがある。

シラットという格闘技については、鑑賞後に知ったが、
なんという肉体コミュニケーション言語だと驚嘆した。
膨大なる量のコミュニケーションを大スクリーンで浴びる快感。
サウンドトラックとのシンクロ度合い。生の肉体が奏でる音楽。
もうこれ以上、ほしいものはない。

この映画がヒットしなければ、日本中のスクリーンに
男の居場所がなくなってしまうのではないだろうか。とにかく、いくしかない。

■採点理由
R15のバイオレンスアクション
そして、壁に頭を打ちつける音と音楽がシンクロするサウンド。
テレビで見ている場合じゃないので、「スクリーン必然性」は★★★★★。
ブルース・リーの歴史的登場に匹敵する事件であり、
男の基本OSが更新される喜びがあるので、「インストール強度」は★★★★★。
この映画におっぱいを求めるほど無粋ではないので、「おっぱい指数」は★。

■以下ネタバレ
このドラマに対して、どれほどの贅言を費やしても、
本編の肉体言語にはかなわないので、ネタバレしてまで語ることはない。
とにかく見るだけ、とにかくあのビルに入るだけ。



「のぼうの城」


スクリーン必然性 ★★★
インストール強度 ★★
おっぱい指数   ★

城攻めの話であるから、「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」の光景を
思い出すこともあった。

従来の時代劇とは、見得のありかが違う時代劇の新風として楽しんだ。
キャラクターを立てたドラマは興味深いが、構成上の要請で
史実には実在した水攻め終了後の合戦の多くが省略されているため、
コクに欠けるところもある。

金打や、戦を告げるや刀の位置を右から左に変えるなど(なんと言うんだっけ?)、
ディテールの多くが楽しいし、セリフのない描写によって
状況を語っているシーンも多く、画面から目が離せない。同録中心の音声設計。
歴史的用語が多いセリフに、意味がわからないという人もいる。
しかし、それは好ましいこと。
わかりやすさのため、迫真のリアリティを犠牲にする必要はない。

大震災により公開が1年遅れたが、それも納得できるほどの水攻めシーンだ。
オープンセットの見事さも含めて、現代日本の大作として成立している。
家族鑑賞映画、デートムービーとしても好適。

きちんと楽しい映画だったけれど、野村萬斎の“のぼう”をどう思えばいいのか、
最後まで、おれとのぼうの距離感がつかめなかった。
役者の魅力で話の説得力を持たせることは重要だけど、
野村萬斎という存在に頼りすぎではないか。

応援すべき映画プロジェクトではあるが、カタルシスが足りない。
粘りがないためミクロでもマクロでも「二つの塔」には遠く及ばない。

■採点理由
特撮テーストを濃厚に生かした水攻めと決壊の迫力を見る意味でも「スクリーン必然性」は★★★。
時代劇の可能性を考える上で「インストール強度」は★★。
榮倉奈々はおっぱいを守りすぎ。
太閤入浴シーンが混浴だけれど、おっぱいを守りすぎてて、
サービスしてるのか、してないのかわからないので、「おっぱい指数」は★。

■以下ネタバレ
野村萬斎の「のぼう」は「でくのぼう」というよりお調子者だ。
どうして、彼が農民に慕われるわけが出てくるかは、
劇中で語られない事例と、土足入城を許したことのみ。
勝手に開戦を決め、田畑を荒らされ、好戦派の武士を路頭に迷わせ、
敗れないものの守れたのはメンツのみ。
尻だして踊ったとき、石田三成の軍がそれで盛り上がる理由は納得しきれない。

明るいトーンを組み込もうとしているのはいいけれど、
暗い部分を避けすぎていて、痛みを感じない
榮倉奈々のキャラクターはいいのだけれど、有名な甲斐姫の活躍シーンがないのは、
娯楽映画としていかがなものか。



「終の信託」


スクリーン必然性 ★★★
インストール強度 ★★★★
おっぱい指数   ★★★★

検事役の大沢たかおのルールを弄した取り調べ、
不倫相手の浅野忠信の不実の鮮烈さには心底、腹が立つ。
最近の映画の中で、大沢たかおの検事ほど、
気持ちを逆なでし、腹を立たせる役はなかった。
PC遠隔操作で誤認逮捕で、誤認逮捕されたあと、自白強要された明大生の例もある。
他人事ではない、取り調べの悪意を見るだけでも、この映画に足を運ぶ価値はある。

植物状態を演じた役所広司の顔を見ていると、
意識がなくなった父や祖父の顔に重なってしまう。
そういった丹念な演出から、予想もしないエモーションを引き出されたことに、
自分がいちばん驚いた。この映画に対する個人的な評価は、
近しい人の病院での死をどれだけ見送ったかによるのかもしれない。

女性医師である草刈民代と病身の役所広司、
命をそっと握りしめるラブストーリーとしてじっくり展開するのかなと思ったら、
あまりにも衝撃的なシーンに驚いてしまう。
そこからは、ざわざわとした気持ちがおさまらなかった。

この映画の世界は、喘息を持病とする役所広司を
大気汚染でゆるやかに殺そうとする工場が取り囲んでいる。
さりげない情景や道具の使い方に気づきさえすれば、
すべてが悶絶するほどすばらしい。
ちょっと感じた空気で、もしかしたらと思っていたら、
やはり北九州でロケをしていた。

ちなみに草刈民代のベッドシーンは、なかなかいけてました。
病室であるとか、白衣であるとか、パンツであるとか、
そういうあれこれがうまうまでした。

感動したのはフィルムにこだわった撮影。
近所シネコンでひさしぶりに、フィルムの映画を見た充足感があった。

検事役の大沢たかおをヒールとして際立たせる演出には、
観客の意思を強引にねじまげるほどの政治性があるのではないか
という指摘も読んだ。
世間知に外れた行動をした医師と世間知の代表とも言える検事。
たしかにその対立を鮮明にする意図がはっきりした演出だ。
ただ、人間としての検事の苦悩と、現実の取り調べとのレイヤーのずれが
救いになっていた。

生死に関わる人の判断を人が裁く。
そのことに対する問題提起としては、十分すぎる作品だったのではないか。

■採点理由
リビングのテレビではなく、映画館の闇の中で集中できる内容だから
「スクリーン必然性」は★★★。
この国の死と司法に顔を向けさせるインパクトの強さは圧倒的なので、
「インストール強度」は★★★★。
本邦最高の美魔女、草刈民代を夫である監督が撮る。
それもかなり濃密なので、「おっぱい指数」は★★★★。

■以下ネタバレ
こういうのを断末魔というのか。それほどに役所広司の臨終シーンはすごかった。
安楽死問題で「きれいに死ねたらそれでいいのではないか」という思いを、
軽く吹っ飛ばすものがある。あの死にざまがあったから、
大沢たかおの強い演技の意味もあったのだろう。



「アルゴ」


スクリーン必然性 ★★★★
インストール強度 ★★
おっぱい指数   ★

カナディアン・ケーパーとも言われるイランの人質脱出作戦を描いたと聞いて、
もっとポリティカルな要素が強いかと思っていたが、
最後までサスペンスを堪能できる密度ある娯楽作品として一級品だった。

アメリカが非暴力的かつ、成功した人質救出作戦として、
もともとサスペンス要素が多い実話を映画的に再構成し、
ハリウッド映画産業というテキスチャーをかぶせた仕組みは、
国際情勢に外挿する仕組みとして絶妙だ。

政治的要素のからんだ救出映画としては、
「ブラックホーク・ダウン」などが思い出される。
果てしない戦闘の泥沼と、血が流れることがない、
虚実みだれる人質救出劇とでは爽快感に圧倒的な差がある。

最近、中国での反日暴動を見せつけられた日本人にとっては、
他人ごとではない迫力があった。歴史が大きく揺りもどすとき、
常識とデリケートさのすべてを踏みつけにされながら、
津波のように押し流していく集団の怖さを再認識できた。
その集団的暴力に、非暴力で一矢を報いるのだから、おもしろくないわけがない。

自分のような世代にとっては、そんなに遠くない時代の話でもある。
思い返せば、「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」を
待ちわびていたころの事件なんだな。
フィルム感をぎっちり残した映像やあの時代の髪型やファッションが
そのままで懐かしかったよ。

ハリウッドの映画も変わりつつある時代。
登場するふたりの映画人もどちらかといえば、過去に属する人として、扱われている。
そんなふたりがこの計画に粋を感じて参加するあたりもこの映画の醍醐味なんだね。


■採点理由
映画をテーマにしたフィルム感の濃い作品を見る場は、
映画館にかぎるということで「スクリーン必然性」は★★★★
この痛快さこそ、映画なのだという認識を新たにできるから
「インストール強度」は、★★。
舞台の多くがイスラム圏では、「おっぱい指数」は★。


■以下ネタバレ
この作戦に使われた架空の映画の原作は、
SFファンにはよく知られたロジャー・ゼラズニーの「光の王」。
現実に進んでいた映画化のためのストーリーボードはこのあたりに紹介されている。
http://www.lordoflight.com/art.html


最新映画については、「水道橋博士のメルマ旬報」で、ご紹介!

※こちらのエントリーもどうぞ。

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