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【映画2012】シネコン至上主義#4

今回は2012年邦画洋画のベスト10です。

「水道橋博士のメルマ旬報」で連載中の「シネコン至上主義――DVDでは遅すぎる」のバックナンバーです。

年末特別編として、今年のベストを洋画と邦画10本ずつ発表します。
今年は豊作の一年でした。
ほかの年であれば、軽々とベストテンに入るようなクオリティの高い作品を何十本も外しました。

公開初日が2011年のものと、
現時点で日本では正式公開されていない作品も外しました。
それくらいしないと、絞りきれなかったのです。
すでにDVD化されている作品も多いので、
お近くのレンタルショップなどで、ご覧いただければと思います。


★洋画第10位 『ワン・デイ 23年のラブストーリー』

その出演作が高い打率を誇るアン・ハサウェイの恋愛映画です。
大学の卒業式で出会ったエマとデクスター。彼らの23年間におよぶ愛のドラマですが、
映画らしい仕掛けとして、それぞれの年の「7月15日」を描いています。

今回、ベスト10を選ぶにあたって、鑑賞タイトルを列記した際、
彼らの23年間の軌跡を思い出すだけで胸が一杯になり、涙腺まで刺激します。
観てからすでに半年が経っているのにね。

イギリスらしいさまざまな景色の中にいるアン・ハサウェイを鑑賞するだけでも
うれしい眼福映画であるし、いちばん好きな相手とは、
なぜだかうまく付き合えない恋愛のジレンマもうまいドラマにしています。

ディテールも豊富です。
ファッションなど時代の変化から、会話に織り込まれた伏線まで、
すべてを見終わったあと、もう一度、見直したくなります。


★洋画第9位 『ミッドナイト・イン・パリ』

あまりにも幸せで、あまりにもほろ苦い、ウッディ・アレンのファンタジーです。
婚約者とともにパリを訪問したアメリカ人の脚本家が、
ふとしたことから、1920年代のパリに迷い込んでしまいます。
ヘミングウェイやフィッツジェラルド、パブロ・ピカソやダリ!
彼が愛する文化人がそこで彼を迎えてくれるのですが……。

旅人が街に愛されるというフルサービスの多幸感はたまらないものがあります。
おしゃれなデートムービーというより、童貞が自分からはなにもしてないのに、
最高の美女が向こうからやってきて、至高のエッチをしてくれちゃうような話。
そんな童貞映画だからこそ、照れくさくも嬉しくなってしまいます。

その一方で、広瀬正や小林信彦、ジャック・フィニイなど、
古き良き時代の空気を伴うタイムトラベルものの妙味もあります。
こんな幸せから、どんな決着をつけるのか。そのあたりも絶妙でした。


★洋画第8位 『サニー 永遠の仲間たち』

ツイッターによる映画ファンの中ではひとつのムーブメントとなり、
「おっサニー」と称する暑苦しいおじさんたちが、
この映画がいかにすばらしいかの布教活動につとめていました。

今年公開された韓国映画はどれも高レベルな作品ばかりです。
しかも、バリエーションが豊富です。
アクションもの、バイオレンスものなど、従来から注目されたジャンルの作品だけではなく、
レベルの高いラブストーリーやファンタジーまで、
シナリオや撮影技術まで傑出したものばかりです。
今年のベストテンからは外してしまった『神弓 KAMIYUMI』など、記憶の中でも輝く歴史アクション映画でした。

そして、「サニー」です。

たまたま訪れた病院で、高校時代の大親友に会ったとき、
彼女は余命2ヶ月の不治の病でした。
昔の仲間に会いたいという親友のリクエストから、
専業主婦・ナミの物語が始まります。
80年代と21世紀を行き来しながら、再生される友情。
真新しい要素はありませんが、胸を打つ友情の物語が丹念に描かれます。

同窓会(リユニオン)ものというべきでしょうか。
物語の大枠として新たなものはありませんが、抜群のキャラクター、
抜群のプロット、抜群のシナリオ、抜群の編集、抜群の選曲で、
冒頭から自分も転校生の一人になって、ソウルの学校に編入する体験ができます。

この映画の最大の発明は、モノクロでもセピアでもない、
現在とまったくおなじヴィヴィッドでリアルな色調で、
地続きの80年代を描いていることです。

韓国では政治の季節であった1980年代の事件はどれも、ややコミカルかつ過剰に描かれています。
韓国映画ならではの前蹴りや飛び蹴りもふんだんにあります。
ただ、そのデフォルメは、
記憶の中でくっきり蘇る高校時代のリアリティとして、
自然なものとして胸にしみてきます。
わたしたちの25年前を思い出させてくれるのです。

ティーンの出会い、友情は、そのすべてが奇跡です。
ぼくたちはみんなそういう奇跡があることを知っています。
だから、彼女たちの悩みやピンチ、痛快事、憧れ、失恋など、
すべての肌合いが暖かさとともによみがえってくるのです。

あのころ、なにはなくとも仲間といっしょにいるだけで愉快で笑顔が浮かび、
ひとりではできない気持ちの広がりを感じられました。
そんな感覚が、自然に生まれてきます。

あれだけ仲良かった少女たちですが、
なぜ、25年近くも疎遠になってしまったのでしょう?
その空白の理由に向かって、物語の翼は大きく舵を切っていきます。

これはノスタルジーの映画ではありません。
80年代に熱く、可愛らしく、激しく、けなげに、笑って、喧嘩して、歌って、踊って、
友情を育んだ7人の女子の生きた形の鮮烈さを、抱きしめる映画です。
泣くのは当たり前で、
最初から最後まで微笑みながら応援する映画といってもいいでしょう。


★洋画第7位 『ハロー!?ゴースト』

『サニー 永遠の仲間たち』につづいて、こちらも韓国映画です。
「サニー」の温かく豊かな話法とくらべたら、
なんともくどくて、下品で、雑なルックの映画です。
評判がいいので、映画館に出かけてみたものの、
途中でうんざりして席を立とうとしたくらいです。

しかし、見終わってみれば、
「サニー」を凌駕するほどの印象をあたえてくれる映画でした。

この映画を観るときは、いっさいの予備知識を入れないでください。
始まったら、早送りボタンを押してはいけません。
映画館と同じように集中して、最初から最後まできちんと観てください。
それができたときは、すごい衝撃が待っていることでしょう。


★洋画第6位 「別離」

イラン映画です。日本で公開されるイラン映画は、
アッバス・キアロスタミの諸作くらいで、縁遠いものという感じでしたが、
この映画はちょっと違いました。
中産階級に属す家族の離婚問題、老人介護問題、信仰問題などを織り込みつつ、
息を呑むような展開で、サスペンスフルに観客を刺激するミステリー映画として、
法廷劇をみせてくれるのです。

そこで描かれる司法制度や信仰の世界は日本の常識とはちがうものですが、
だからこそ、普遍的なテーマが鮮やかに見えてきます。
なによりもアカデミー賞脚本賞、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、
外国語映画賞を受賞したという結果は納得のいくものです。

信仰と罪を描いた作品ではアメリカ映画の『ダウト -あるカトリック学校で-』がとても好きなのですが、それをしのぐ周到さとサスペンスの魅力があります。

今年公開された傑作『アルゴ』は
イスラム革命の時代のイランを描いた映画でしたが、
それとあわせて、この『別離』でイランのいまを観るのも楽しいことと思います。


★洋画第5位 『孤島の王』

『パピヨン』や『暴力脱獄』といった脱走ものが映画の定番であるのは、
そこに象徴される自由への抑圧、折れない心といった普遍的なテーマが存在し、
人間の心のなかにある熾き火に風を送るからではないでしょうか。

この「脱走」映画を際だったものにさせているのは主人公たちと舞台です。
主人公たちは大人ではありません。少年です。
舞台は厳寒の地、ノルウェイのバストイ島です。
さらに大人の獄吏による少年たちへの性的虐待までもれなくついてきます。

そういった意味では、
『暴力脱獄』や『パピヨン』といった先達を遙かに純粋にさせ、
遙かにデリケートにさせ、その上で圧倒的な悲劇の場を体験させてくれるのです。

実話をもとにした映画です。
ノルウェイの法制度がかわったといういわくつきの「事件」です。
理不尽に対してふつふつと煮え立つ感情のスタンピードを見せてくれます。
クライマックスでは呼吸が苦しくなるくらいです。

生きることに純粋な少年たちと、生きることが業になっている大人たち。
少年をまぶしく思うと同時に、大人には同情してしまうのです。
そそり立つ絶望感を見てほしいです。
大人による圧倒的な暴力を全身で受けてください。
先述の映画のほかにも、
『蝿の王』や『シャッター アイランド』という諸作も脳裏をよぎります。

明かりを暗くして、暖房を消して、毛布にくるまりながら、ご覧になってください。


★洋画第4位 『ファミリー・ツリー』

これはすばらしい作品でした。
なにより見終わったあと、こみあげてくる人恋しさ。
そのときを告げる時計のように、衰えていく妻の容貌。
植物状態となって、死へのカウントダウンが進む妻の不倫を
娘の口から聞くという苦しさ。
ハワイの王朝から継いだ広大な土地をどう処理するかという決断。
そして、育ちゆく子供たち。

穏やかだけれど心を揺らす様々な事件が打ち寄せてきます。
ほんとにいい映画でした。

もっとも身近な人の夭逝を受け入れるプロセスを描いた作品に
「The Descendant(原題・子孫の意)」と名づけ、
ハワイという舞台を選んだ巧みさに胸が震えました。
映画を見終わって、映画の時間を反芻すると、目頭が熱くなります。
ジョージ・クルーニーはたしかにみっともないところもある役ですが、
その隅々まで感情移入ができました。

この手のタイプの映画では思いがけないカタルシスもあります。

人によって、この映画に対する感想は変わってくると思うが、
これほどの状況の中から、生まれる家族の姿というのは、本当に感動的です。


★洋画第3位 『ヒューゴの不思議な発明』

今年公開された3D映画で重要な3本のうち、ひとつです。
ちなみにほかのふたつは『タイタニック 3D』と『ホビット 思いがけない冒険』だったのですが、
どれも、闇の中でスクリーンから浮かび上がる3D映像でしか
体験できないものを見せてくれます。

とりわけ『ヒューゴの不思議な発明』は、
暗がりで映画を観るという体験を再発見させてくれます。
前半の展開は、作中にもちらりと名前が出てくるディケンズ的世界観なのですが、
そんなことは忘れてしまったかのように展開がどんどん進んでいきます。
スコセッシとは思えないほどの破格の構成です。
バランスを崩してしまったといってもいいでしょう。
そんな強引なドラマさえ、3Dの幻想とともに愛おしいものとなっていきます。
理屈とか、ドラマツルギーとか、小賢しいものはどうでもよくなり、
あふれる映画愛で胸がいっぱいになってしまうのです。

今年は映画のデジタル化が興行の面でもほぼ完成された一年となりましたが、その年に、このような映画が公開され、アメリカでアカデミー賞を競い合うというのは象徴的です。なにより、映画は科学技術の精華です。その技術はさらに進んでいき、私たちに新しい体験をもたらしてくれるでしょう。それがこのような古典的なドラマと、歴史的サプライズの中で、満ち足りた存在になるとは……。

こればかりは家庭ではなく、劇場で観てほしいと思います。
どこかで、再上映の機会があったら、映画館にかけつけてください。


★洋画第2位 『裏切りのサーカス』

ジョン・ル・カレ原作の映画といえば印象的なものが多かったのですが、
原作の濃度を思えば、決定打といえる作品にはなかなか出会えません。
近年では、ル・カレ本人が脚本を監修した『ナイロビの蜂』が
すばらしかったのですが、
スクリーンでル・カレの中核ともいえる「スマイリー」を観たいという希望は
なかなかかないませんでした。

それがこんな形で観られたとは幸せすぎます。

「裏切りのサーカス」は
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を
すさまじいレベルで映画化した傑作です。

東西冷戦の時代、MI6(サーカス)内部に潜んだ二重スパイ(もぐら)を
探し出すエスピオナージュです。
情報戦の中で命も奪われ、心も踏みにじられ、
それでも生き残るために張り巡らされるトラップにつぐトラップ。

非情といえば、これほど非情なドラマはありません。
映像、セリフ、設定。情報戦を描くために凝縮された情報密度!
ほどよく枯れたゲイリー・オールドマンが醸し出す味わい。
『ダークナイト ライジング』でも苦悩する男の存在感を見せてくれた
ゲイリー・オールドマンですが、こちらもたまりません。

さらにコリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハートといった
役者陣も最高です。
スヴェトラーナ・コドチェンコワという気になるロシア系女優も出てきます。

なによりすばらしいのは、ル・カレらしさともいえる
緻密な複雑さからしか生まれない豊かな感動があることです。
単純に泣ける、笑えるというレベルではなく、
奥歯で噛み締めるような複雑な味わいが堪能できるのです。

これからの一生、何度も何度も観るにふさわしい映画でした。


★洋画第1位 『007 スカイフォール』

この映画については、前号の「シネコン至上主義」でご紹介しているので、
ことばを重ねません。
ぜひ上映中にお近くのシネコンでご覧ください。

なにより、2012年に一番期待していた『ダークナイト ライジング』で
物足りなかった要素がここにありました。
それは自身の相似形のような敵と対決して、
自分の愛する土地を守るという決然たる意志から生まれるカタルシスです。


■洋画総評

今年は充実の一年でした。
ここにあげた10本以外にも『アルゴ』、「神弓 KAMIYUMI」、『ザ・レイド』、『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』、
『アイアン・スカイ』、『アメイジング・スパイダーマン』、『ホビット 思いがけない冒険』など、
例年であれば、ベストに入れたい作品がたくさんありました。
雑誌やネットでベストを選ぶ方の呻吟が聞こえてくるようです。

また、今回は映画祭で観たものや、
公開初日が2011年のものを選から外したのですが、その制限がなければ、
『光にふれる』、『スプリング・ブレイカーズ』、『灼熱の魂』、
『恋の紫煙2』、『ハンナ・アーレント』といった作品を
ためらうことなくベストにいれたことでしょう。

また、ひどいこともありました。
『アメイジング・スパイダーマン』では、
まるで雰囲気の違う国産ロックがエンドロールに流れたり、
『ハンガー・ゲーム』では、ドラマが終わり、エンドロールが流れる直前に
「パート2、日本公開決定」みたいな、
余韻をぶち壊しにする字幕が表示されたりしました。

これだけ粒ぞろいの作品が揃った2012年の洋画だったのですから、
映画に対する敬意を忘れない本編上映を心がけていただきたいものです。


つづいて、日本映画のベスト10です。


★邦画第10位 『鍵泥棒のメソッド』

これはいい香川照之出演映画です。とにかく出演作が釣瓶撃ちの香川照之です。
往時の竹中直人出演作みたいになってますが、
『あしたのジョー』の丹下段平とか、『カイジ』の利根川みたいな
オーバーアクトなキャラではなく、
抑えたキャラクターで出演しているときは、すばらしいですね。

なにより、仕事がたしかな内田けんじ作品です。

ゆるそうにみえてタイト。すさみそうにみえてハートウォーム。怖そうにみえて……。
殺し屋が記憶喪失になったことで、売れない役者と立場を入れ替えることから
人間性の深層と表面を絶妙に描く、豊かなる国産エンターテインメントです。
なんとも幸せな2時間強でした。

伏線と伏線がさまざまに飛び交い、
予想外の展開を呼ぶサスペンス感あふれるような従来の内田けんじ作品とはちがい、
キャラクターをじっくり見せる緩さがツボでした。
主要登場人物三人の現世との関わりの薄さが、
事件を通して変化していくのもいいですね。

★邦画第9位 『わが母の記』

原田眞人監督の会心作です。
監督の癖と演出スタイルで、こういう映画が観られることも驚きでしたが、
日本と海外の映画について、監督がいままで語ってきたことが
こういう形で結実したのかと、納得させられました

なによりも映像とスクリプトの中に張り巡らされた言葉やしかけについて、
終映後にだれかと語りたくて仕方がなくなりました。

また、船上での謎解きシーンからの流れなど、
最近の日本映画に欠けていた要素がふんだんにありました。
なによりも映画と個人的な体験のシンクロが、高い次元の感動を呼び起こします。

映画の前半で語られる「愛は奉仕、奉仕は愛」というフレーズですが、
映画の後半になると、その意味を変えて、思い出されてきます。

樹木希林と役所広司の母子関係がすばらしいです。
老人性痴呆症になった樹木希林が
ドラマの進行とともに小さくなっていく姿を目にするのは、
人の息子として、たまらないものがありました。

DVDでもかまいませんから、ぜひご覧ください。


★邦画第8位 『苦役列車』

なにより、しみる映画でした。
時代設定としては、ぼくが過ごした時代から、5年ほど後になりますが、
当時のサブカル、ニューアカあたりの長口舌は懐かしくも愛おしいものです。

劇中で使われる過剰な音楽には抵抗はありますが、
原作からのアレンジも含めて、極限における福音の映画として
大いに肯定したいと思います。

森山未來も高良健吾も19歳というにはちょっと老けた体つきだったと思いましたが、
「あるあるボタン」をしみじみと押したくなる空気感がありました。
なによりもセリフにあふれる時代感が最高でした。
これは脚本のいまおかしんじが1965年生まれだということもありますね。

なにより冴え渡る瞬間は、若さゆえ、小心ゆえの凶暴さが発揮されるときです。
『モテキ』の補集合としての凶暴さがエネルギーを増し、
逃げ場を失い、たぎってきます。
ドラマはある時点から、昇華されたファンタジーと化しますが、
それさえも心地よいのです。

得体のしれない閉塞感のあるいまとくらべて、
あの時代には、最悪の中からもほのかににじみでる「夢」があっただけ、
よかったのかもしれませんね。
それを感じたのがこの映画の美点かもしれません。

ちなみにこの映画の中の前田敦子はいいですよ。
原作にないシーンもありますが、前田敦子なら納得できます。


★邦画第7位 『闇金ウシジマくん』

『悪の教典』以上に苦手という人も多い映画ですが、
今年を代表する一本といってもいい作品でしょう。

高密度にして高濃度としかいえません!
キャラクターとプロットと詩情を隙間なく詰め込み、
数々のサプライズとうならせるツイストがふんだんに散りばめられた、
国産エンターテインメントの至芸です。
生死と金のトワイライトゾーンをしっかり楽しみました。

食い合せが悪かったのか、原作漫画は1巻か2巻しか読んでいません。
テレビドラマも映画のあとでチェックしましたが、
観なくても構わないと思いました。
片瀬那奈が出てきたのはドラマからのサービスですが、
それとは関係なく、ドラマを楽しめます。

山田孝之のウシジマくんはほんとにすばらしかったですよ。
山田孝之のバラエティあふれる出演作は、
香川照之の出演ぶりとはちがう意味で、楽しみになります。

大島優子のヒロインにはやられました。
女優としての彼女の印象はほとんどありませんでしたが、
作中、ふたつあった、移動撮影のシーンでは、
生々しさと存在感があふれでてきて、胸が苦しくなるほどでした。

この映画ですばらしいのは、裸がきちんと出るところです。
きれいな裸も、汚い裸も出てきますが、
冒頭近くで母親役の黒沢あすかが見せる年増腹!
あの説得力ったらありませんよ。肉体が状況を語っています。
インディーズではない日本の映画で、
こういう説得力を見せつけられたら、たまりません。

これほど、キャラクターのブレがない日本のドラマはめったにありません
。そして、主題の展開が絶妙なドラマもめったにありません。
生々しいけれど、下品ではないのです。
テーマのリフレインが心地よくもあります。
相手がどんな人間かによって、
その形が変わるウシジマという鏡面のようなキャラクターは
なによりすばらしいと思いました。


★邦画第6位 『ヒミズ』

大林宣彦、相米慎二、今関あきよしと並び、
少女を弾けさせる園子温の少女映画の良さを友人が滔々と語っていましたが、
たしかにおっしゃるとおりです。

『ヒミズ』は『愛のむきだし』以来の少女映画の傑作として堪能しました。
叫んでいる少女がいるだけで、映画の魅力がぐんとあがる。

ここで描かれるさまざまにこじれた孤独。
それは歪んだ親子関係など、人間関係から生まれる孤独ではありません。
震災という暴力によって生まれる土地から引き剥がされる孤独も含まれています。
孤独がさらに呼び込む孤独、暴力がさらに呼び込む暴力を濃密な筆致で描きつつ、
一途さのみが風穴を開ける救いも描いています。

すばらしい作品でした。しみる作品でした。


★邦画第5位 『桐島、部活やめるってよ』

吉田大八監督作品はひととおり見てきましたが、これは別格の完成度です。
なんてことを書いていたら、
2012年後半、ちょっとしたムーブメントを作ったこの映画を軽んじることになります。

「桐島」の登場が
「日本の学園映画の流れを変えることになる」といった人もいましたが、
「桐島」の一方で「今日、恋をはじめます」みたいな、
十年一日のティーン映画がしぶとく作られているのが、
映画業界でもありますから、
映画ファンの希望と現実にはかなりのタイムラグが存在します。
とはいえ、この映画が受け入れられているのを見ると、
未来の日本映画にも希望が見えます。
映画は映画作家と映画会社だけのものでなく、観客とともに育っていくものです。

放課後の濃密さ。秘めたる思いと現実との距離。
いく層ものレイヤーにわかれたクラスメートとのコミュニケーション。
残酷と不安。すさまじいクライマックス。
追憶の学生時代を起動させる激烈な触媒としての映画を堪能しました。

冒頭、進路調査票の配布から始まるあたりが、象徴的です。
映画部担任の教師の机には「プレミア」、
映画部の生徒たちは「映画秘宝」の回し読み。
映画部エピソードへの愛情の深さに、笑みが絶えなくなります。

地方の学校でのデリケートな群像劇は、
ロバート・アルトマン作品を思い出させつつも、
舞台が舞台だけに、他人ごととは思えません。
すでに解体され、ドラマのような有機的な学園生活がなくなった時代に、
「ゴドーを待ちながら」さながらの
不在によって、意味を問いかける手法があり、
それが受け入れられるというのは、すばらしいです。


★邦画第4位 『ふがいない僕は空を見た』

「桐島」と同様に衝撃的な作品でした。
2012年を思い出すとき、欠かせない一本になりました。
詳細については「メルマ旬報」第2号の「シネコン至上主義」で
書かせていただきましたので、そちらをお読みください。
なにより、映画そのものをご覧ください。


★邦画第3位 『夢売るふたり』

鑑賞後、しばらく経ってから、
「あああ。わかった! 『夢売るふたり』は底意地が悪い現代的な「芝浜」なんだ! 向かってる方向は全然違うけど。」なんてことをツイートしたら、
【密着!!「藝人春秋」】でおなじみの目崎さんが、ほめてくださいました。

初見の印象はえぐさです。
望まずして持った夫の才能と妻の才能がケミストリーを起こした結果、
目的と気持ちと生理と愛、そのすべてが地すべりをしていきます。
この地すべりを描くのは、ぞっとするセリフとぎょっとするカメラワークです。
そして浮かび上がるのは、さまざまな女たちのさまざまな孤独なのです。

罪を犯す。道を踏み外す。堕ちる。
人間の状態はそんな上下を意識することばではあらわされることが多いのですが、
上下だけが、人間の状態ではありません。
能力とタイミング、そしてえもいわれぬ人間関係によって、
上下、縦横、斜めにずれてしまうものなのです。
そういう西川美和監督ならではのゆらぎの罪が、今回も丹念に描かれていました。

ナタリー・ポートマンは
『ブラック・スワン』のオナニーシーンでぼくらを驚かせましたが、
それはまだ、男性監督が描く女の姿でした。
生理がきたとき、ずりさげたパンツにナプキンを貼り付ける松たか子には
あっけにとられるしかありません。
そんな描写はそれだけではありません。
そのすべてが女を描く女監督の容赦のなさなのでしょうか。
松たか子なのでナプキンを貼っていても生臭くならないという奇跡もあるのですが。

『告白』といい、『夢売るふたり』といい、
松たか子のダークサイド芝居は最高です。
映画館で観る発言小町といってもいいでしょう。

さて、興味深かったのが、この映画に対する反応でした。
結婚経験者とそうでない人で、かなりちがう。
そんな中、「夢売るふたり」は「芝浜」なのだということに気づいたわけです。
どこがそうなのかは、作品をご覧になって、感じてください。


★邦画第2位 「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」

タマフル映画祭で一作目を観たとき、そのインディーズ的叙述に衝撃を受けながら、
立ちのぼる切なさに心を打たれました。
二作目は川越の映画館で観たのですが、映画館の残響がひどく、
ほとんどのライムが聞き取れなかったものの、
女ラッパーたちの健気さに胸を締めつけられました。
そして、三作目がこれほどの傑作映画になろうとは、想像もつきませんでしたよ。

抱いていた夢が時間とともに削られていく、人生のデフレスパイラル。
出口が見えない胎内巡り。
立ち上がりたくても、自分の足のありかを忘れてしまうほどの不遇。

そういったものすべてが、すさまじいテンションの撮影、怒号、
そして、ラップの中から叫びとして全身に響いてきます。

シリーズの中で一番短く感じられました。きわめてシンプルです。
きわめて力強いのです。きわめて北関東です。
そして、なによりきわめて映画でした。
クライマックスシーンなんて、息をすることも忘れそうになりましたよ。

★邦画第1位 「この空の花―長岡花火物語」

「理由」では顕著でしたが、
大林宣彦監督作品には大林饒舌体とでもいうべき手法があると思います。
特徴的なのは、全編セリフで覆い尽くされていることです。
単に多弁というだけではありません。
本来であればト書きで書くべき要素まで、セリフとして口で語っていくのです。
そんなことばの洪水で観客にめまいを感じさせつつ、
時系列を錯綜させ、フィクションと現実、死と生、虚実の彼方から見える
映画的真実を浮かび上がらせるスタイルです。

少女めいた文体とあいまって、大林饒舌体は映画を統べる全体魔法のように、
作品を特徴づけてきました。
それにしても、ここまで進化するとは思いませんでした。
饒舌なのは、セリフだけではありません。
サウンドトラックにはかぎりがあるといわんばかりに、
フィルムの上にも文字が現れ、踊るのです。
確認するように、リズムをとるように。

そして、全編を埋め尽くす土地と歴史と人に関する蘊蓄の数々がすごいのです。
普通の映画とは情報量が二桁、三桁くらいは違います。
米百俵、山本五十六、中越地震、フェニックス、長岡空襲、模擬原爆、
長岡を中心にしたさまざまなエピソードが絶え間なく語られ、
うんちくというにはとどまらない有機的なものになっていくのです。

ほかには比較できようがない、へんてこな映画です。
そして、大林監督はそのへんてこな映画を確信を持って作っているのです。
メタとしか言いようがないセリフや描写もあるのですが、
幻想やゆらぎさえも真実の描出に不可欠と心得た人ならではの、次元の高さなのでしょう。

「この空の花」上映時間は2時間40分ですが、
絶え間ないことばと、現実に魔法を加味したような映像、
さりげなく顔をのぞかせる戦争の凄絶描写に身を委ねていると、
その長ささえも魅力となります。

花火の夜に上演される長岡空襲をテーマにした芝居を
クライマックスに持ってきていることから、
饒舌なことばがシュプレヒコールと化すなど、
演劇的な演出も多いわけですが、それが自然に感じられます。
きっぱりとした意志を語る監督のぬくもりを堪能しました。

この映画を観たのは半年前ですが、
いまだにぼくの頭の中には、あの印象的な一輪車が走り回っています。

2011年の夏を追ったものですから、
徹頭徹尾、東日本大震災への意識はありますが、直接的に描かれていません。
その距離感がとてもよいとしかいいようがありません。
被災地とは地続きでありながら、
作品が提供する目線はさらにさきを追っています。

今年の日本映画のベストは、まぎれもなくこれです。

■日本映画総評
あえて外したわけではありませんが、
2012年はアニメもすばらしいものがありました。
現在、第三章まで公開されている『宇宙戦艦ヤマト2199』は
原典へのロイヤリティと、新たな解釈、意欲的な新展開が見事にブレンドされて、
楽しみなものになっています。

『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』。
これは前後編をまとめて見ることがためらわれるほどの高密度な内容です。
テレビの総集編のレベルではなく、壮絶な映像体験となっています。

『おおかみこどもの雨と雪』や『ももへの手紙』は
絶対に見逃せない2012年のアニメ作品でした。

そして、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』です。
これも見るべきアニメの一本ですね。


■近況
仕事の密度と忘年会の頻度で映画を見る本数が減っています。年末が忙しいのはいいことですが、うっすらと禁断症状が発生しています。映画の原稿を書くのも楽しいのですが、とにかく映画が観たいのです。

最新映画については、「水道橋博士のメルマ旬報」で、ご紹介!

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