春の浅草
春の柔らかな日差しの東京。
午後5時、
浅草雷門前に3人の若者が立っていた。
Tくん、Kくん、Cくん、
かれらはゲーム開発にたずさわる前途ある若者だ。
人間が楽しむゲームを提供するためには、
自分が楽しむことを追求しなければならない。
ロケ弁しか食べたことがない映画人が
上流階級の社会を映像にできるであろうか。
否である!
同様に、豊かなゲームの世界を創出するためには、
完成されたエンターテインメントを体験してほしい。
かれらには21世紀の日本で、
豊かで実りあるエンターテインメントを
提供する人間になってほしいのだ。
その願いをこめて、ぼくは、あるツアーを企画した。
名づけて、
「ゲーム人のためのエンターテインメント体験ツアー」
ラスベガスのショー……。
ロンドンやニューヨークのミュージカル……。
ウィーンのコンサート……。
いくつかの候補があったが、
今回は、アサクサのバーレスクを体験してもらうことにした。
待っているかれらのもとに
ぼくはスポーツ新聞を片手に
10分ほど遅れて到着。
「じゃあ、いこうか……」
仲見世をつっきり、
アーケードをぬけ、浅草六区方面へ。
浅草ロック座。
永井荷風も愛したストリップの老舗である。
「思ったより、ずっと豪華できれいなところですね」
Cくんがつぶやくようにいう。
ここは数あるストリップ劇場の中では別格である。
心理的には、女性を連れて入ることも可能な店だ。
入場料金は6000円。
かれらには、自分の財布から払ってもらう。
おごることも可能だが、娯楽に対価を支払うことは
娯楽を提供するサイドの人間としては、忘れてほしくないためだ。
全員がロビーに入ったところで、心構えをひとこと。
「中に入ったら、完全に別行動だ。
自分の好きなところで、好きなように観てくれたまえ。
ショーがひとまわりしたら、ふたたびここで集合だ」
うなずく全員。すでに心の準備はできていると、見た。
よし!
ストリップは
ずらりと、横にならんで和気あいあいと観るものではない。
自分で払った金のぶんだけ、
自分なりに楽しむべき場所なのだ。
ひとりの人間が自分の観たいものに対して
忠実であるべき場所だ。
劇場の扉を開ける。
奔流のごとき光の洪水と、サウンドのシャワー。
今回はトリで
憂木瞳が登場する全九景の香盤。
ロック座のステージは、
とにかくすばらしい。
一億円をかけたという照明と、
ストリップ劇場としては最大級のステージ。
今回のセットも豪華で美しい。
踊り子さんたちも
ラスベガス研修があるので有名なロック座だけに
レベルの高い踊りを見せてくれる。
ぼくの意識から、
Tくん、Kくん、Cくんの存在が消える。
土曜日だけに客席はそこそこに詰まっている。
かぶりつきの席をいきなりとることはできない。
客席全体を見回し、この筋なら、
早いうちにいい席がとれそうだと、判断し、移動する。
2景後、フィナーレが終わり、
ばらばらとお客さんが帰っていく。
すかさず、持参したスポーツ新聞で、
かなりいい席をGET。
これなら、8000円くらいの価値の席だ。
ストリップ鑑賞において、新聞は必携アイテムである。
ふと、あたりを見ると、
Tくんが最高のかぶりつき席に、
まんまと座っている。
あれは、12000円くらいの価値の席だ。
壮絶なダッシュでゲットしたのだろう。
やるなぁ。
自分のやりたいことを実現するパワーは
なかなかのものである。
一方、Cくんはぼくの斜め前、7000円くらいの価値の席。
穏当な結果が、Cくんらしい。
出おくれたKくんは、客席のあいだをうろうろしている。
なんか、ストリップの席のとりようで、
それぞれのキャラがわかって、妙におもしろい。
ただ、Cくんはそのあとが悪かった。
Cくんの横に座った黒シャツの若者が
彼の視界をさえぎるように、
ぐるぐると身体を動かしまくるのだ。
黒シャツは、踊り子さんが服を着ているときは、
なげやりにからだを傾けているのだが、
すべてを脱いだあたりから、がぜん動き始める。
へそから上、上半身が
不安定なだるまのように、動くのだ。
花道の先、回転舞台にのった踊り子さんのポイントが
移動するに連れ、黒シャツも
ほぼ50センチくらいの半径で動く。
あれじゃ、
Cくんはつらいだろうな……。
結果的に席の価値は3000円くらいである。
つぎの休憩時間で、
観念したCくんは、席を移動。
お気の毒でした。
ベストとは思えないが、
やはりロック座のステージはすばらしかった。
すっかり満足して、外に出ると、
感動に震えるCくんの声。
「いやあ、忘れていたなにかを思い出しましたよ」
Cくんはその前に女性の裸を見たのが、
一年前、某社の社長に連れていってもらった
六本木の飲み屋だったらしいが、
若者ならではの感動を素直に述べているのが、
ほほえましい。
アメリカなら、酒場に入るたびに
IDチェックをされそうな童顔だが、
下品さのない純粋な喜びを表現している。
その後、
肉を食いながら、「反省会(?)」。
みんな、
もっと安っぽいステージを想像していただけに
予想をくつがえす美しさに
かなり感動していた。
踊り子さんたちの美しい肌と踊りに酔い、
豪華な舞台に酔っていた。
「社員旅行でいった温泉のストリップとは、ちがうものですね」
とは、Kくん。
やはり、裸の女性を最高に美しく演出するという点で
ロック座の舞台は卓越している。
この経験は、かれらが
すばらしいゲームを作る上で、
きっと役に立つことだろう。
ぼくも適当にうんちくをたれ、
そのまま、お開き。
「財布の中にお金があったら、
どうなっちゃうか、わかりませんよ」
と、興奮していたCくん。
その後、無事に帰れたのだろうか。
一応、この道のさきに
吉原という、すてきな異世界があることは、
教えておいたが……。
季節は春。