DIARY:2000 NOV.1〜10


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2000年11月1日(水)

田中公平作曲家生活20周年記念
炎のオーケストラコンサート

はじめて田中公平さんとお会いしてから、
すでに9年ちかくたつ。
最初の仕事は「レナス 古代機械の記憶」である。

新しいRPGの作曲をお願いできる方を探しているとき、
アスミックで「超攻合神サーディオン」の作曲を
終えたばかりの田中公平さんが素晴らしいから……と、
推薦してくれたのが、岡本、小川の両プロデューサーだった。

正直にいえば、音楽の世界に疎いぼくは、
このときまで、田中公平という存在を知らなかった。
むしろ、「-笑ゥせぇるすまん-の人だよ」と聞いて、
「ゲームのめざす雰囲気と全然ちがうんだけど、平気かな」と、
おびえて(?)しまったというのが、正直なところだ。
どーーーん。

いくつかの曲を聞かせていただいて、
「生理的に小気味いい!」
ご本人にお会いして、
「ゲームのことをよくご存知だなぁ!」
フィールドや戦闘の曲をいただいて、
「これだよ! これがレナスの空気なんだよ!」

調子に乗って、50曲ちかくお願いしてしまった。
なにより、こんなにすごい曲を作る人が、
ぼくの作ったレナスの世界をほんとうに好きでいてくれて、
それをことばで、態度で、曲で表現してくれることの幸せ。

そんな幸せを味わえただけでも、
ゲームを作れてよかったと心から感じられる。

その後、「レナス2」では、色彩感ゆたかな数多の曲を
提供していただいたにもかかわらず、
制作の遅れと、発売本数の少なさで、
アルバムという形にさせていただくことができず、
ほんとうに頭が下がるばかりで、
おれも悔しかったぞ、こんちくしょー!

ひさしぶりにお会いしたのが、
「レナス」、「レナス2」でサウンドデータを打ち込んでもらい、
ご自身も「ミスティックアーク」の作曲など、
意欲的に仕事をされていた
森彰彦さんのお通夜だったというのが、
あまりにもせつなくて……。

森さんというすてきな人(温泉好きな飲み仲間)については、
いつかきちんと書かなきゃね。

その後、「げーむじん」という雑誌のインタビューで
音楽事務所イマジンにおじゃました際、
あれこれうかがったあと、
「柴尾さんもさぁ、こういう仕事じゃなくて、
もっとゲームを作っていかないと……」と、いってくださったのが、
あまりにも痛くて、つらくて……。

「いや、ゲームは、いまも作っているんですけど、
自分の足場を確かめるためにも、この仕事は有益なんです」と
いえたか、どうかは、記憶にない。

その半年後に「レガイア伝説」をだして、
そこそこに売れ、気分としては、
「ALIVE AND WELL」報告な感じ……。

初めてのキスは忘れられないものだけど、
自作への初めてのゲーム音楽も忘れられないもの。
ともかく柴尾英令がゲームを創るという、
その過程において、いつも意識する人の筆頭が、
田中公平という人なのだ。

そんな田中さんが20周年記念コンサート
招待してくださったとあれば、かけつけるのは、あたりまえ!
イエネコ、アンジーとともに
東京オペラシティ コンサートホール」へ。

わずか十数分で1632の席が、SOLD OUTになったという
プラチナチケットの2階バルコニー席正面最前列!
座っただけで至福なり。

開巻いきなり、
宮松重紀指揮の東京フィルハーモニー交響楽団をバックに
朗々たるテノールを披露する田中公平さん!
(「ハーメルンのバイオリン弾き」主題歌「未完成協奏曲」)
いやはや、まったく、田中さんらしい……。

第一部は「〜20周年な夜〜
田中公平自身が選んだ劇伴代表作 TOP10」と称して、
「勇者エクスカイザー」、「絶対無敵ライジンオー」、
「ゲートキーパーズ」、「ワンピース」、「笑ゥせぇるすまん」、
「機動戦士ガンダム第08MS小隊」、「機動武闘伝Gガンダム」、
「銀河鉄道999エターナルファンタジー」、
「バスタード 暗黒の破壊神」、「トップをねらえ!」、
「勇者王ガオガイガー」の順で、披露される。

折笠愛さんとのMCの中での話によれば、
過去100を越える作品の中で、
5500もの楽曲を作られたとのこと。

その中でのTOP10という無謀な企画……ではあるが、
そこは健やかな自信とサービス精神の田中さんのこと。
打者の手元でのびる直球勝負!

曲が進むにつれ、オケを小気味よく鳴らしていき、
意欲あふれる「バスタード」から、
さりげなくパイプオルガンを織り込んだ「トップをねらえ!」を経て
田中メロディ炸裂の「勇者王ガオガイガー」へと、
なだれこむあたりで、オケも聴衆も全開状態。
気持ちよく興奮させていただきました。

このライブを収録したCDは、来年1月24日、
ビクターエンターテインメントより発売予定とのこと。
きみは買うか。おれは買うぞ!

「第一部でここまでやっていいのかしら」と、思う間もなく、
第二部は、「〜サクラな夜〜」である。
帝国華撃団のみなさまが歌う「ドリーム夢の1ポンド」から、
「春風の恋歌」、「つばさ」、「シンデレラ」、「愛は永久に」と、
聞き進むにつれ……、
いやもう、
おれ、サクラな世界ってば、なんとなく、てれくさいんだよな。
やっぱり、正面きって、ああいうこと歌われちゃうと、
うひゃああ、まいっちゃったなぁって、気分で……。
あれ!? でも……、いいじゃん……、
シャイなおいらの自意識を
スパっとひっくりかえすこの心地よさって、
なによ、これ、これ、いいわぁ。
そして、「サクラ対戦BGMメドレー」
うわぁ、なんて饒舌で豊饒で華やかな……。
手拍子ですか。手拍子ですね。パンパンパン。
ぷはぁ、ずずずずずっと、溶けますね。

鳴りやまぬ拍手とスタンディング・オベーション。
そして、アンコール。
田中さん、最高の夜をありがとうございます。
20周年、おめでとうございます。

帰宅後、会場で無料配布されたパンフレットを読んで、感涙。
田中さんの音楽担当作品一覧に、
JASRAC登録作品全リストと詳細データつきで、すごすぎる。

「レナス」や「レナス2」、
(そして、さる理由で)「レガイア伝説」の曲名がそこにある。
いろんな思いもそこにある。


2000年11月2日(木)

アクセスバブル?
水無月情報ページ
からお越しのみなさま、はじめまして。
お探しの内容は、こちらです。
あまりたいしたことは書いていませんので、あしからず。

2日のアクセスが350。3日午前2時までのアクセスが259……。

旅行の準備
明日から、静岡と京都に旅行のダブルヘッダー。
その準備をあれこれとか。作業をあれこれとか。
メールをたくさんもらったり。電話をたくさんもらったり。


2000年11月3日(金・祝日)

大道芸ワールドカップへの道
昨年も静岡だったが、今年も静岡だ。
つまり、大道芸ワールドカップを観にいくのだ。

午前10時、五反田で借りたレンタカーに乗りこみ、
一路、静岡を目指すのだ。
しかし、首都高も東名高速も大渋滞なのだ。

車内で、田中康夫長野県知事について、どう思うかと、
静岡県職員で女子大生の鹿(殺)ちゃんにきいてみたところ、
期待にたがわず、官僚的な意見を開陳してくれるので、
つっこみがいがありまくり、とても楽しいのだ。

ファクトリーアウトレット大ブームで、
とてつもない大混雑をみせている御殿場インターを横目に、
そのさきの裾野インターで、高速を降り、
御殿場高原ビールを飲んだり、洞窟に入ったり……。

ちなみに洞窟はとてもせまく、
大きな人には不向きという事前情報をつかんだので、
おれといえば、クルマの中で、タヌキ寝入りなのだ。

帰ってきたイエネコ、アンジー(人間)の話によると、
狭くて、暗くて、怖くて、
生命の危険を感じたとのことなので、
やはり、いかなくてよかったのだ。

御殿場高原ビール前 御胎内洞窟
御殿場高原ビールビアレストランと富士山御胎内清宏園。
記念撮影な感じなのだ。

静岡の熱狂
鹿(殺)ちゃんの実家で、コーヒーブレイクしつつ、
大道芸にわく市内に到着したのは、午後8時ごろなのだ。

すでに一足も二足も早く、新幹線で到着したけーむらくんから、
報告が届いているのだ。
「リブラがすごい。力持ちの男と力持ちの男がくねくねですごい。
とにかくあれは観るしかない」

そうか! リブラか! リブラがすごいのか!
くねくねか。くねくねなのか。
わかったよ! かならずリブラを観るよ!

しかし、こんな時間ではリブラは観られないのだ。
仕方がないので、昨年のワールドカップグランプリチャンピオン、
サンキュー手塚の強力なパントマイムを鑑賞したのだ。

パワフルだぜ! 笑えるぜ! 圧倒されるぜ!
でも、正面から見たかったのだ。

サンキュー手塚
サンキュー手塚のナイトパフォーマンス。

駿河湾の魚
「魚が食べたい! 静岡といえば、魚だよー!」
高瀬美恵さんが魚、魚と連呼するので、「季節料理 浜作」へ。

メニューを読んだ高瀬さん、「じゃあ、コロッケ!」って、
あんた、コロッケのどこが魚介類なのだ?
「だって、コロッケが好きなんだよー」

静岡のどす黒いおでんは見かけによらず、
うまかったなぁ。


2000年11月4日(木)

リブラ・ショック!
そうだ! リブラを観にいこう!
昨夜、けーむらくんの勧めもあって、
われわれのリブラ欲はとことん、強くなっていた。

地下街のアートコーヒーで軽く朝食をとったあと、
青葉公園の20番ステージへ。

まずは、クラウンカレッジ出身で、サボテン公爵のひとりと、
パンフレットに書いてあった「クラウン ビリィ」のパフォーマンス。
おれは、クラウンカレッジもサボテン公爵も知らないが、
なるほどという丁寧な芸であった。

そして、リブラである。
アメリカとロシア出身のふたりの男性パフォーマー。
ふたりとも美しい肉体をしている。
とてつもない怪力で、相手を吊り上げるのが、
黒人のマイケル。
しなやかな肉体で、吊り上げられるのが、
ロシア人の名称不明だ。

くねくねぎゅぎゅぎゅ。くねぎゅぎゅ。
「アクロバット界で世界トップを行く男性デュオ」だそうだが、
人間の肉体とは、かくもすさまじいものか。

ひとつのポーズから、つぎのポーズへと、
じっくり、ていねい、着実にアクロバットを展開していく。
そのモーションデータを、3Dモデルに叩き込むとしたら、
とんでもないデータ量になることだろう。

鹿(殺)ちゃん、高瀬美恵さん、イエネコ・アンジーとも、
目がハート型になっている。
やばい、近所にリブラがいたら、おれの心は嫉妬の嵐。

かれらはラスベガスを中心に活躍しているそうなので、
日本から遠い。ふふふ。まぁ、許してやろう。

クラウン・ビリィ リブラ1 リブラ2
左から「クラウン ビリィ」、「リブラ」(2点)

「とほほ」な芸だってあるさ。
静岡県庁の展望台経由で、メインステージへ。
ワールドカップノミネートの
「プリミティブ」と「シャンティエ モビール」を鑑賞。

鍋をパーカッション代わりにして、リズムを刻み、
キュウリのオムレツを作る「プリミティブ」。
英米では人気のパフォーマーのようだが、
静岡では、困った笑い。

「シャンティエ モビール」は、
水着姿のおじさんとお姉さんのコメディ。
フランスのタブーを下品にくすぐるパフォーマンスなのだが、
フランスと日本ははタブーがちがう。
そりゃせつなく困るってもんだ。
あまりにもせつないので、笑いまくってしまった。
静岡のみなさんは、困って、笑わず。

屋台でビールとジャンクフードを買い込み、
食事をしたあと、「ストレンジ フルート」の空中ゆらゆら芸と、
「雪竹太郎」さんの人間美術館を鑑賞。

静岡では定番のパフォーマンスに、心洗われる次第。
詳細は昨年の日記を参照されたし。

プリミティブ シャンティエモビール
「プリミティブ」と「シャンティエ モビール」

 ストレンジ・フルート 雪竹太郎1
「ストレンジ フルート」と「雪竹太郎」さんの人間美術館-ゲルニカ-

男の手料理!
静岡市内は飲食店が豊富である。
エッチな店は見かけないが、さまざまな飲食店が軒を並べている。
清廉潔白な食道楽は静岡市を忘れないように。

今夜は「男の手料理」と銘打った「のみくいや でん」へ。
おいしいよー。いい仕事をしているよー。
趣向を凝らした料理の数々に、うまい。うまい。うまい。

たらふく食べたあとは、ナイトパフォーマンスのために、
青葉公園へ。

ジャパンカップ出場の「Mr.アパッチ」のダイナミックな
自転車パフォーマンスに目を奪われ、
「雪竹太郎」のナイトパフォーマンス「アントーニオ物語」を堪能。

ああ、「雪竹太郎」の芸は至福だなぁ。

Mr.アパッチ 雪竹太郎2
「Mr.アパッチ」の超絶自転車芸。「雪竹太郎」ナイトパフォーマンス。

雪竹太郎の芸は、昼間の「人間美術館」と、
夜の「アントーニオ物語」の2種類だ。

去年、今年と見てきたが、
観客とのコミュニケーションをとりつつ、肉体で対話をしていく
丁寧なパフォーマンスは、
大道芸の到達点のひとつとして、
観たものの「ことば」を増やしていく。
ま、一回、見てみそ。

その後、「ブラッスリー・デュ・セル」で、イタリア料理を楽しみ。
センチュリーホテルの展望ラウンジで、
「葵三代」とか「徳川」とか、そんな静岡カクテルを堪能。

いろんな意味でおいしい一日であった。


2000年11月5日(日)

大道芸ワールドカップ最終日
静岡駅ビル内の「はいから屋」で、
フォカッチャセットを朝食にとり、
われわれは、青葉公園方面に移動。

今日は大道芸ワールドカップの最終日なり。
14カ国57組のパフォーマー。
そのすべてをみることはできなくとも、
ひとりでも多くのパフォーマーを見たいのは人の情。

パンフレットをじっくり読み、選びぬいたのは、
「メン イン コーツMen in coats」。
「ネタもバレバレのマジック風パフォーマンス」
と、パンフレットにある。

リズミカルな動きと豊富なネタで、ウェルメイドに仕立てられた、
「ことば」なきコメディパフォーマンスは、日本人にもぴったり!
しっかり楽しませていただいた。

(パンフレットでは、
「ドゥ&ピアソン」というコンビ名表記だったが、
「メン イン コーツ」に変わったとのこと)

つづいて、「忘れられた今世紀最後の執事」という
ふれこみの「ネストール ザ バトラー」を
センターステージにて鑑賞。

ジャグリング(お手玉)、ディアボロ(中国ゴマ)という、
スタンダードなパフォーマンスを
英国執事の家事風味で見せてくれる。

正確な芸と、誠実な芸風が好感触。

メン・イン・コーツ1 メン・イン・コーツ2 ネストール・ザ・バトラー
「メン イン コーツ」のパフォーマンス(2点)。
「ネストール ザ バトラー」のディアボロ。

リブラふたたび
静岡にいられる時間も残り少なくなってしまった。
女性陣のたっての希望により、
センターステージで「リブラ」のパフォーマンスをもう一度。

いや、やっぱりすごいわ、これ!
ということで、女性のために6点ほど写真をアップ。

リブラ3 リブラ4

リブラ5 リブラ6

リブラ7 リブラ8
リブラのパフォーマンス(6点)。
最後の1点は子どもとの交歓パフォーマンス。

え? まだ、たりない!?
じゃあ、マイケルのとびきりのやつを一点どうぞ!

「すごい! すごい!」と、騒いでいたのは、
われわれだけではないようで、
「リブラ」はみごと、ワールドカップチャンピオンになった模様
よかった! よかった! おめでとう!!

ちなみに鹿(殺)ちゃんは、前日とあわせて、
このふたりに3000円の投げ銭を、送ったそうだ。
リブラのふたりに「とどけ、愛!」。
柴尾英令は応援します。

リブラ9
パフォーマンス終了後の「投げ銭タイム」。
観客と楽しげにことばをかわすマイケル。

そして京都へ
静岡駅ビルの「府中庵 侍月楼」で、
とろろそばを食ったあと、
東京に帰るクルマ組と別れ、「ひかり157号」で、京都へ。

京都ホテルにチェックイン後、さくまあきらさんのマンションへ。
そこに、さすらいの食いしん坊、成沢大輔
高円寺の親指魔術師こと、整体師の梅津実さんも登場。

そうなのだ!
京都麩屋町に東京の食い道楽が集まれば、
やることは、たったひとつしかない。

お・い・し・い・も・の・を・た・べ・る・た・め・に、
お・い・し・い・と・こ・ろ・へ・い・く!

「M」
みのもんたさんは、テレビでいったという。
「ぼくなんか、うまいカレーが食べたくなったら、
京都までいって、Mでシーフードカレーを食べるんだよ」

かんちがいしないでほしい。
「M」は、日本料理店である。

「そういっても、だれもわかってくれないんだなぁ」

当然である。「M」は「一見さんお断り」らしい。

糸井重里さんに、
「いま、Mでおいしい料理を食べてるんですよ」
と、メールを送れば、悔しさのあまり、
その直後に「M」に顔をお見せになったとのと……。

はじめてこの店にやってきたのは、
わずか1ヶ月前である。
その味の衝撃は舌にまだ、なまなましく残っている。

それなのに、また来るとは……。
いかがなものか、おれ。
いかがなものか、自分。
いかがなものか。いかがなものか。

ははは……。そんな逡巡は
先付けの「烏賊の雲丹のせ」を口に入れた途端、
吹っ飛んでいったさ、京の五条。

「河豚刺し」プリっと、京の六条。
その「河豚焼」いた香ばしさには、京の七条。
東京では「ひれ肉」だが、関西では「ヘレ肉」
焼くですか、焼いて食べるですか。
じゅわーーーーー! じゅわじゅわで、京の八条。
あなた、「あわび」ですよ。
「あわび」を炙ってキャビアをのせて、
特製のたれで食べるなんざぁ、バチがあたって、京の九条。
「鴨」なんて、贅沢で濃厚で、ああ、ジューシーな
バカヤロー、至福の京の十条。
「フカヒレ」は、こんなのあり? ありなの?
とろとろのスープにねっとり裂ける身のシンフォニー。
もう、あなた、こんなこと、許せる?
許せないから、洛外追放!
なんと、「カラスミ」! いやーーん。
最上に濃厚なチーズよりも、芳醇な味。
そうですか、そうやって炙るのがいいんですか。
薄く切った切った沢庵ほどの大きさのカラスミを
5ミリ食べれば、口の中、感動だけが残るわけですよ。
その感動が、付け合せの大根を食べると、淡雪のように消え、
ふたたび、5ミリのカラスミで、感動再現。
くるくるくるくる、じっくり食べてくわけですな。
ああ、そうですか。ご飯より、いくらが多い「いくら丼」ですか。
また、いくらが、ただものじゃないんですよ。
極上の鶏卵、そう烏骨鶏の濃密な黄身をしのぐ濃さなんです。
そして、仕上げの「シーフードカレー」に、ぎゃふん。
刺激的な辛さの底に、
魚貝から取れる最上の甘味があふれている。

今回、小上がりではなく、カウンターで堪能したわけだが、
ご主人のおいしそうな笑顔に、包丁さばき!
食べてるそばから、つぎの食材が準備されていくもんだから、
予告編、本編、予告編、本編、予告編、本編と魅惑のリズム。

ローマにいたシーザーって人だったら、
「来た! 見た! 食った!」としか、報告できないほどだが、
おれなら、たぶん、この中の一品でも、どこかで口にすれば、
一子相伝で、その体験を口伝するね。
ならば、今日のこの感動をすべて伝えるためには、
マシーンのように子どもを作らなければならないわけだぞ。
「長男には、鴨の感動」
「次男には、カラスミの衝撃」
「三男には、シーフードカレーの調和」
「四男には、フカヒレの真実」
(以下同)

そらたいへんだ。子どもを作るのは、やめとこう。

大満足のわれわれは、さくまさんご一家と別れた後、
京都ホテルに向かい、展望ラウンジで、
しみじみと一日を総括する。

信じられない夜……だが、
翌日、さらに信じられないものに、
われわれは遭遇することになる。


2000年11月6日(月)

悦楽の序曲
今日の日記で書かれることすべては、フィクションである。
いや、現実に起こったことのような気もするのだが、
心の本棚には、フィクションとしてしまっておくしかない。
そんな「あんびりーばぼー」な「えくすぺりあんす」である。

読者諸兄におかれては、信じようと信じまいと自由だが、
なにより、こうやって回想している自分自身にとって、
この体験が現実のものであるのか、立冬前の幻影であるのか、
わからないことだけは、理解していただきたい。

月曜日の朝、京都ホテルをあとにしたおれは、
さくまあきらさんの京都のマンションへ。
「へへへ。さくまさん、ご注進、ご注進。成沢大輔ってやつは、
月曜日の美術館が休館だってぇ、常識がねぇようでやんすよ。
うっかり美術館にいって、途方にくれてやがるようで……」

ありがちな朝。ありがちなへっぽこ。
そんなどこにでもある平和な朝のはずだった。

成沢大輔を待ち、さくま一家、梅津さんとともに、
洋食店「HAHUU」へ。

京都の恐るべきところは、さりげない町屋のなかに、
とんでもなくうまい店があるところだ。
今回の京都滞在中の「食」すべては、割り勘が基本なのだが、
そんな出費と等価かそれ以上に価値があるのは、「情報」である。

「うまいものがここにあるよ」と、教えてもらえるのは、
金銭には換えがたい、感謝の念を生む。
ここで食ったのは、「ステーキ丼」。
「たたき」に近い牛肉にゴマとわさび醤油のシンフォニー。

こんなところにこんなものがあるなんて、
教えてもらわなきゃ、わからない。
ありがとう、さくまさん! ありがとう「HAHUU」!

しかし、そんな感謝の念が、
夜、感謝以上のなにかの念になるとは、
このときの柴尾英令は、予想もしていなかった。

午後3時、さくまさんのマンションの前に、バンとハイヤーが止まる。
バンの中から現われたのは
すぎやまこういちご夫妻と、北岡尚信シェフご夫妻である。

すぎやま先生を知らないゲームファンはいないだろう。
すぎやま先生を知らないアニメファンはいないだろう。
すぎやま先生を知らないポップスファンはいないだろう。

しかし、今夜、ぼくは……、
ぼくの知らないすぎやま先生に触れることになる。

そして、南麻布「プティ・ポワン」の北岡シェフである。
ああ、あの日の豊かさは忘れないぞ!
そして、北岡シェフの参加はこの日のできごとが、
特別な意味を持つことの証左である。

京都を抜け、バンとハイヤーは高速道路をひた走る。
途中、名塩のサービスエリアで、コーヒーをとる。

その後、神戸三田さんだインターチェンジを降りたクルマは
こぎれいな住宅地、フラワータウンをぬけ、山の奥へ。
奥山の一軒家、「藤の坊 さんだ山荘」で、
われわれは、壮絶なものに遭遇する。

それは……。
めくるめく、松茸ラッシュであった。

松茸万歳1 松茸調理2 マツタケ陶酔
1)すぎやま先生とさくまさんの手に松茸。
2)真剣な表情で松茸をさばく北岡シェフ。
3)松茸に酔う柴尾英令。

ただ、ひたすらの松茸に
松茸ご飯一膳に何グラムの松茸が入っているか、考えてほしい。
松茸の土瓶蒸しひとつに含まれている松茸は……?
2グラム? それとも、3グラム。

「香りマツタケ、味シメジ」とは、聞きなれたフレーズだが、
ほんとうにそうか? そういうものか?

かつて成沢大輔は
京都の割烹「M」を食の暴力と呼んだ。
なるほど、最高級の食材を、洪水のように供する「M」は、
まさに「食の暴力」。

ならば、10人で松茸3,000グラムを口にするわれわれを
なんといえばいいのだろう。

不粋を承知で書けば、今年の松茸相場、
東京なら、100グラム、25,000円だそうだ。
京都なら、100グラム、20,000円程度……。
すべて、丹波篠山の国産高級松茸の相場である。

そして、三田の松茸は市中に出回ることさえない、
丹波篠山をしのぐ超絶高級品。
それが格安で食べられる。
それこそ、この地におとなが10人、詰めかける理由なのだ。

小細工は必要ない。
炭で炙って、柔らかくなったところを
カボス醤油で食べるだけ……。

それこそ、北岡シェフがこの地に足を運ぶ理由なのだ。

なぜ、おれは松茸の心地よい香気が充満する
この空間にいるのだろう?

なぜ、おれはこんなすごい人たちと、
松茸の感動を分かち合っているのだろう?

わからない。まったく、わからない。

火の上のマツタケ1  三田牛
1)「かさ」と「じく」をナイフで切り、そのまま炭火で炙るだけ。
2)すべての和牛肉はここから生まれる「三田牛」。

松茸は、「かさ」と「じく」を分け、網の上に乗せるだけ。
柔らかくなったら、すかさず、手にとる。
箸を使うことすら、もどかしい。
「じく」は手で、縦に裂く。
断面から、かぐわしい香りがあふれでる。
軽くカボス醤油につけ、口に運ぶ。
ぶじゅっという独特の感触とともに、
芳醇な香りが口腔を満たす。
口の中、松茸だらけ。
香りは鼻腔に回り、
内側から外に松茸の香気が通りぬける。

そして、「かさ」! すべては「かさ」! 香りの精髄!
火に炙られ、ぐじゅぐじゅと水分が出てきたところが、
「かさ」の食べごろ!
松茸のエキスが抽出された水分をこぼさぬよう
ていねいに口に運び、
口の中にあふれ出る水分を奥歯でじっくり絞りだす。
松茸と、はじめて出会ったような感動。
そうだよ。これが松茸だよ。

焼けるやいなや、口に運び、はぐはぐと食べまくる。
焼けるやいなや、口に運び、はぐはぐと食べまくる。
焼けるやいなや、口に運び、はぐはぐと食べまくる。
焼けるやいなや、口に運び、はぐはぐと食べまくる。

エンドレスな松茸の夜。

松茸が終わったあとには、知るひとぞ知る三田牛。
日本の著名な肉牛のタネはここで仕込まれるという三田の地で、
食す三田牛もまた、香ばしくジューシー。

土瓶蒸しを軽くこなし、松茸ご飯をいただいてフィニッシュ。
松茸尽くしというけれど、これはそんなレベルじゃない。
人体松茸化計画完了!

それにしても驚愕したのは、すぎやま先生ご夫妻。
松茸を食べ終えた直後に、おでん談義。
それもローソンとセブンイレブンのおでんのどっちがうまいかって、
話なんだから、食に貴賎なし!

かん違いする人がいるといやだから、書いておくけれど、
ここでの全費用は10円単位まで割り勘である。
びっくりするような値段だけれど、
六本木で、ひと晩高い店で呑むことを考えれば、はるかに安い。

まぎれもない贅沢だけれど、
みんな自分が稼いだお金で、贅沢しているわけです。
ということはつまり、来年、また
ここで秋を味わうために、しっかり稼がなきゃならないわけです。
そりゃ、がんばるでしょう。

<

松茸フィニッシュ 大人の修学旅行
大のおとなが大喜びなのねん(写真二点)。

夢のあと、松茸のあと
クルマは宝塚の「サンマルク」へ。
どうしてでしょう?
みんなあれだけ松茸を食べたのに、
どうして、ケーキが食べられるのでしょう?

とても贅沢なおしゃべりをしたあと、
ふたたびクルマは京都に。

みなさんとお別れしたあと、
ぼくと成沢大輔は京都ホテルのメインバーへ。
たらたらと酒を飲み、そこから、ラーメンを食べにいく。

ハイヤーの運転手さんから
教えてもらったラーメン屋は「博多長浜ラーメン」で、
京都のラーメンを期待していたわれわれには、
ちょっとがっかりだけれど、
獣脂ギトギトのラーメンは、
つまり、夢のような一夜の現実的な着地点。

あの夜から二晩がたったけど、
なんか、うそとしか思えない夜……では、あった。


2000年11月7日(火)

充実の旅の終わりに
静岡から京都へとめくるめくような旅も今日でおしまい。
解釈不能な不思議な感覚をもてあましつつ、
午前10時30分、さくまあきらさんの京都マンションへ。

美術館に昨日の仇を討ちに行った成沢大輔
一足先に帰京、さくまさんご一家と梅津実さんとともに、
南禅寺聴松院の湯豆腐を堪能。
ああ、京都の秋だなぁ。
ここにつれてきていただいた心配りも堪能。

その後、南禅寺三門に梅津さんと登り、京の町を一望。
最初は300円払って登ることに、気が進まなかったおれだけど、
登ってみると、梅津さんの好奇心に多謝多謝。

鉄道唱歌51番にも……、
〜琵琶湖を引きて通したる
疎水そすいの工事は南禅寺
岩切り抜きて舟をやる
智識の進歩も見られたり〜
と、歌われた疎水をのんびりと歩く。

紅葉こそ、ほとんど見えないものの、
木洩れ日と用水のせせらぎが、心地よい。
インクラインを経由して、タクシーで地下鉄丸太町駅付近の
シュークリーム専門店「クレーム デ ラ クレーム」へ。

だが……。あいにく店は休業中。
毎週火曜日は定休日である。
これはつまり、成沢大輔の呪いである。

しかし、こんなときにあわてるさくまさんではない。
「ふふふ。このすぐそばにハートビートの小林千尋くんから
教えてもらったケーキの店があるんだよ」

なるほど「BRUN BRUNブランブリュン」の
チョコレートケーキは絶品じゃあないの。
ありがとう! 小林さん!!

徒歩でさくまさんのマンションにもどったあと、
お土産をあれこれ買い、
午後4時7分の「のぞみ7号」で東京へ。

車中、みっちりとゲームの企画会議。
これがすごかった。

さくまさんとぼく、
二人の体にはいくつもの錠前がついている。

のんびりした会話の中で、
その錠前に、あれかこれかと手持ちの鍵を挿しこみあう。

錠前が開けば、
なにかすごい宝物が出てくることを信じながら……。

鍵もたくさんあるし、錠前もたくさんあるからね。

「もしかしたら、これかも、あれかも」と
鍵を交換しつつ、挿しこむうちに、
「がちゃり!」
みごとに、はまる鍵が見つかったんだよ!

その挿しこまれる感触、挿しこむ感触。
手応えがしっかり残っている。

すごい宝物が見えたんだよ!!

のぞみが熱海を過ぎたあたりだったけど、
ほんとに興奮したよ。
ふたりともことばを重ねず、静かだけど、興奮したよ。

これがあるから、ゲーム作りはやめられないんだね。
これがあるから、「わかる」人と、ものを作りたいんだね。


2000年11月8日(水)

とことん寝ちまう
日記を更新したり、旅行中のデジタル写真を
ハードディスクドライブ上で整理したり、
たまっていたメールに返信したり、
ちょっとした作業をしたり……。

そんなあれこれをやっているうちに、朝8時。
昼まで寝るつもりが、午後4時に目を覚ます。
人生の浪費!

平気で猿に餌をやる人
フジテレビ夕方のニュースを見る。
日光では、猿の群れが、人やクルマ、商店を
襲う被害が増えているらしい。

県外からの観光客がお菓子や果物など、
無思慮にあたえたことが、原因のひとつ。
野生の生きものに餌をやること自体、
そもそも問題なんだけどね。

自治体では「餌やり禁止条例」によって、
これを取り締まろうとしているが、
餌をやる人は一向に減らず、猿はますます、図に乗るばかり。

クルマの窓から車内に侵入し、お菓子を奪い、
人間を威嚇し、女性や子どもなど、弱い人間を襲い、
空家に忍びこみ、宿の温泉につかる始末。

テレビのカメラが
猿にお菓子をやる初老の男性を捕らえる。
「ここにいるのは、野生の猿なんですよ。
日光では餌やり禁止条例があることを、ご存知ですか」
「知らんかったぁ。でも、かわいいじゃないか」

正確なところは覚えていないが、
そんな会話があったあと、ばつが悪いのか、
男性はニヤニヤ笑うばかり。

旅行気分の中で、
自分だけはちょっぴり、楽しい経験をしたい。

まぁ、「いい人」なんだろうね。
「いい人」だから、野生の猿に餌をあたえる。
「いい人」だから、そのことがおよぼす影響を想像しない。

人よりも、ちょっとだけ「いい思い」をしたい、
そんな無邪気で想像力に欠けた「いい人」の傍若無人に
最近、憔悴することが多いので、
この番組を見て、みょうにせつなくなったりする。

悪意の有無は問題じゃない。
想像力の有無が問題だ。


2000年11月9日(木)

あたふた
資料を読みこまなければならない作業があるので、
あたふた……。

制作に参加した映画の
オールラッシュをチェックしなきゃならないので、
あたふた……。

さくまあきらさんから巨大な仕様書メールが届いたので、
あたふた……。

読んだり見たりしているだけで、
一日が終わってしまう。

デジカメ一眼レフの恐怖
デジタル一眼レフカメラ「EOS D-30」で、
静岡&京都旅行中に撮影したデジタル写真は600枚以上!
容量は700MBをこえる!

カメラには記憶メディアとして
1GBのマイクロドライブを使っているから、容量には余裕がある。
だけど、その整理がたいへん。

USBケーブルを使って、
カメラのマイクロドライブから、ノートPCのHDDに転送する。
じーーっと待つ。

ノートPC上のアプリケーション「キャノンZoomBrouserEX」で、
横になっていた縦位置写真を、縦にもどす。
かちゃかちゃ操作して、じーーーーーーーーーっと待つ。

iLINK接続している外付けHDDにフォルダを作り、
分類しながら、転送する。
これは、そんなに待たないんだけどね。

ウェブサイトの日記に貼りつける場合は、その画像を選ぶ。
数百枚の中から、選ぶ作業は面倒だぞ。

Photoshopなどで、加工する。
2160*1440ピクセルの写真を240*180にして、
「シャープ」をかえたり、階調を整えたり……。

なんだか、不毛な作業をしている気がするんだけど、
気のせいだよね。


2000年11月10日(金)

カバンがほしい。
コンピュータを運ぶときはTUMI
カメラを運ぶときはDOMKE
おおむね、おれはアメリカ製のバッグが好んで使う。

機能的で使いやすいし、なにより、丈夫である。

だが、先日の旅行のように、
ノートPCと一眼レフカメラをいっしょに運ぼうと思うと、
ちょっと困ってしまう。

B5ファイルサイズのノートPCと、
ブースターつきの一眼レフカメラを同時に格納して、
1〜2泊程度の衣類も入れられるバッグはないのだろうか。

ヤングサンデーの入稿
午後9時過ぎに小学館「ヤングサンデー」編集部にいき、
とりあえず、焼肉を食ったり、ジョナサンにいったりしつつも、
朝4時30分ごろまで、原稿を書く。

こういったライター仕事は、ひさしぶり。
めんどうだけど、楽しいなぁ。

「ジョナサン」で編集部の石川亨さんに
「雑誌「小学一年生」から「小学六年生」までのうち、
ぼくは「小学四年生」をのぞくすべてで
仕事をしたことがあるんですよ。
くやしいなぁ。
「小学四年生」だけやってないのは……」

なんてことをいう、おれ。

すると、石川さん。
以前、「少年サンデー」にもいたTさんが
「四年生」編集部にいるから、
どんなことでも、どんなギャラでも、仕事をやるといえば、
なにか、やらせてくれるかも……だって。

心がはげしく動いたりする。
37歳にして、「学年誌全制覇」……かぁ!


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