ここはどこ?
ダイエット中のおれとしては、
正午から夕方近くまで打ち合わせがあると、
食事のスケジュールが微妙に難しい。
規則正しい食事こそ、ダイエットの王道。
されど、午前10時過ぎに起床すると、
そこからすぐに、朝食(マイクロダイエットとか)をとると、
夜まで、食事はそれっきりになってしまう。
まぁ、しかたあるまい。ダイエットより仕事だ。
今日はハドソンで会議である。
ずっと前のことだが、國政修さんに、石ノ森章太郎記念館の
パンフレットを見せると約束したっけ。
バッグにパンフレットを詰めこむ。
すこし遅れ気味だ。
地下鉄を東銀座駅で降りて、早足でハドソンに向かう。
あれ?
むこうから、歩いてくるのは、
梶野竜太郎さん、石崎仁英さん、武田学さん。
桃太郎事業部の面々ではないかい?
会議が始まっているはずなのに、
昼食でもとろうかという雰囲気である。
「どうしたんですか?」と、梶野さん。
「だって、今日、会議でしょ?」と、おれ。
「え? そんなはずありませんよ。
國政もいま札幌ですから、会議のわけないですよ」
メダパニ!
一瞬にして、わけがわからなくなる。
「たしかに前回、今日が会議だと聞いたんですけど……」
「そんなことないですよ。会議室とってないし、
前回の会議の最後で、
水曜日につぎをやるっていってたじゃないですか。
現に水曜日の会議室なら、おさえてますよ」
梶野さんは自信満々である。
そのことばに合わせ、うなずく石崎さんと武田さん。
?
前回、木曜日の会議では、つぎを月曜日にやるってことだから、
ずいぶん早いなぁとか、思っていたんだけど、
そんなおれの記憶はうそなの?
その場でOutlook2000にスケジュールを
書きこんだはずなのに、ウィルスで書きかえられたの?
そういえば、昨日、あやしげなツアーで
築地本願寺に来たことだし、なにかの霊的作用ってやつか?
わけのわからない考えが、数秒のあいだに
でては消え、でては消え、でては消え……。
事情を把握するために、
さくまあきらさんのスケジュールを管理している
佐久間真理子さんに電話をかけてみる。
呼び出し音は鳴るが、でない。
「おかしいなぁ」首をひねるおれ。「まちがえたのかなぁ?」
「いやぁ、すみませんねぇ」
「そんな梶野さんが謝る必要はないですよ」
「そりゃそうですね。わっはっはっは……」
そうか。おれの「うっかり」か。
「いやぁ、柴尾さんを見かけたときに、
東劇に「エクソシスト」でも観にきたのかと思っちゃいましたよ」
「映画を観るために、こんなところまで来るはずないでしょ」
桃太郎事業部の面々は、
東劇ビルの地下に消えていく。
万年橋のたもとに、呆然と立ちすくむおれ。
なんで、こんなところにいるんだろう、おれ?
家にいれば、やることはたくさんあったのに、
往復で2時間くらい、無駄に使ってしまった。
むなしい……。
もう一度、佐久間真理子さんに電話をかけてみる。
つながった!
「あれ、今日、桃太郎の会議じゃなかったですか」
「え? 会議なら、水曜日だよ」
やっぱり、おれのミスか。でも……。
「こっちのスケジュールでは月曜日になってるんですけど」
「あ! 伝わってなかったんだ」
「へ?」
「國政さんが札幌に行くから、水曜日に変更になったんだよ」
「そんなの聞いてませんよ!」
「あら、かわいそうにね」
「聞いてないから、築地まで来ちゃったんですよ」
「かわいそうにねぇ」
なんども「かわいそうに」を聞いているうちに、
ほんとうに自分が、かわいそうなやつになった気がしてくる。
みじめな人間になった気がしてくる。
脱力して、とぼとぼと銀座方向に歩いていく。
なんだかなぁ。なんにもやる気が起きねぇなぁ。
おれなんて、どうなってもいいんだ。
どうせ、箸にも棒にもかからない人間だよ。
地上に60億の人間がいるとして、
おれの必要度は60億番目くらいだよ。
ぐれてやる。ぐれてやる。ぐれてやる。
爆弾はないか。どこかに爆弾はないか。
札幌までいって、ハドソン本社を爆破してやる!
そこに佐久間真理子さんからの着信。
いま、新宿高島屋にいる自分たちと合流しませんかとのこと。
ハドソン爆破計画を事前に察知したのか。
たしかに、いまのおれはひとりでいると危ない。
喜んで、お受けする。
新宿タカシマヤ13階「ハウスティ アルファカーメル」では
さくまさんご夫妻のほかに、
なかむら治彦さん、こむらなるなりさん、菊池晃弘さんが談笑中。
到着するやいなや、さくまさんが笑いながらいう。
「柴尾くん、今日ほんとは3時だったんだよ」
「へ?」
つまり、予定変更前のスケジュールだと、
今日は正午スタートではなく、3時スタートだったとのこと。
おれもおれとて、3時間も勘違いしていたわけだ。
あれ? じゃあ、お昼に築地までいった
おれもへっぽこじゃねぇか。
2日分……、48時間の時間変更連絡ミスなら、
ハドソン札幌本社爆破計画を企てるべきだが、
45時間なら、そこまではやらない。
あとで、ねちねち文句をいうだけにしといてやらぁ。
おれも大人になったねぇ。
と、ここで気がついたこと。
もしも自分に連絡が来ていないのならば、
土居孝幸さんにも連絡がいってない可能性がある。
さくまさんにそういって電話連絡してもらったところ、
やはり土居さんには、連絡は来ておらず、
出かける準備をしていたらしい。
つまり、おれは土居さんのために、身を挺して
スケジュール変更を伝えたわけである。
おれの築地行きは、むだではなかった。
気分がぐっとよくなる。
土居さんも交えて、新宿で打ち合わせをすることになる。
「桃太郎」の会議を結果的にやれたわけだから、
当初の目標は達成。
「いやぁ國政くんも何本も抱えて疲れているんだよ」
そんなさくまさんのことばに、素直にうなずけるようになる。
ねちねち文句をいうのもやめよう。
すっかり聖人である。
「パパスカフェ」での打ち合わせを終えるころには、
生きる元気に満ち溢れる。
新宿のビックカメラによって「Photoshop6」を購入したり、
池袋西武百貨店のLIBROで、本を2万円ほど買いこんだり、
物欲こそが、生きてる証拠。
帰宅後、イエネコ、アンジーが
一日早いお誕生会を開いてくれる。
プレゼントをもらい、シャンパンを飲んで、あれこれ食う。
メリハリにとんだ一日であった。


