女優になった同級生
以前、このサイトの日記で、ちらりとご紹介した
女優になったという同窓生だが、本日、その舞台を観にいってきた。
午後3時、ぼつぼつと雨の降るなか、
新宿からタクシーに乗り、千駄ヶ谷の日本青年館大ホールへ。
じつは3日前にもメールをもらっている。
お芝居のあと、講演会があり、彼女はそちらにもでるとのこと。
もう、なにがなにやら……。わかったような。わからないような。
ホールに上がる階段には、明らかに一般人だが、
はっきりと声に出して案内する係員が何人もいる。
これはつまり、「それ」独特な雰囲気だ。
ゲスト案内デスクにいき、彼女の名前を告げ、チケットをもらう。
封筒に入ったチケットを見て、はじめて、会のタイトルがわかった。
H原多加子元薬剤師 M田巳香医学博士
医学講演会
&
舞台演劇「それ行け!奥様仮面
〜家庭内環境汚染の恐怖〜」
はぁ? お、お、おくさまかめんですか。
まったくわけがわかりません。
開演時間まで、あまり余裕がないので、急いで客席に進む。
1200のキャパの会場がほぼ満席になっている。
会場内はまさに老若男女で埋まっている。
「怪傑ズバット」や「アクマイザー3」のテーマソングが流れている。
緞帳が開くと、舞台には12人ほどの男女。
横一列にならんでいる。
上演時間は1時間40分であるとか、
携帯電話の電源を切れとか、
携帯の電源を切らないと電磁波が怖いぞとか、
撮影や録音はご遠慮くださいとか、
上演中の注意とギャグのようなことを
ひとりワンフレーズずつ話していく。
つづいて歌手が現れ、ヒーローもの風のテーマソングを歌う。
さらに関東から来た御一行、
東北から来た御一行、九州から来た御一行が順番に登場し、
シャンプーにはいっている添加物は不凍液にも使われているとか、
テレビを消すときは、コンセントも抜きましょうだとか、
環境ホルモンだとか、地球環境問題に関する
あれこれをユーモラス(???)に語る。
これもひとりワンフレーズずつ、マイクを渡して、しゃべっていく。
なかにはせりふを度忘れする人もいる。
どうやら、ほとんどすべての役者は、この団体の方たちであり、
バトンタッチのようにマイクを渡しながら、
ワンフレーズずつせりふを話していく趣向らしい。
ストーリーは地球と子供の未来を憂える
科学者集団「近未来生活向上研究所」が開発した
「奥様仮面スーパースーツ」を着こんだ奥様が、
自給1200円、残業なしの正義のパートタイマーとして、
われわれの体を蝕む添加物をシャンプーや化粧品に入れる
「悪」と戦うというものである。
途中、きちんとしたミネラルをとった人が癌から救われただとか、
動物実験ではたくさんのウサギが殺されているだとか、
シャンプーを無添加のものにしたら、ハゲが直るときいて、
頭髪の不自由な会員たちが、ひとりワンフレーズずつ
喜びの声をあげながら、走り回ったりだとか、
川上音二郎がみたら、卒倒しそうな展開で、オッペケペ。
公平につとめてこの舞台を評してみよう。
たしかにシーンによっては客席から笑い声も出ていたし、
おそらくプロの劇団員であろう主演クラスの3人は
文字通り、体当たりの演技で、がんばっていた。
背景にある団体名は舞台中、一度も口にされなかった。
また、一部に偏った描写はあったものの
環境問題とそれに対する個々人の自覚というテーマは
どちらかといえば、穏当かつ妥当な結論を導いてはいた。
でもさぁ……。カーテンコールまでふくめて、
2時間も素人芝居を観るのは、かなりしんどいぞ。
あとで聞いたら、スタッフとキャストは総勢三百人くらいとのこと。
うーん。それを仕切る手腕は認めるし、
舞台の上の人たちは楽しいんだろうけどな。
ちなみに女優になった彼女の出演シーンだが、
M田博士役で、そのまんま、ワンフレーズだけ登場していた。
15分の休憩をはさんで、パンフレットには
「予防医学セミナー」と書かれていた
H原さんと同窓生のM田さんのトーク。
H原さんは、M田さんの姉上なのだそうだ。
OHPを使いながら、日本人の癌発生率の上昇だとか、
ハミガキ粉やシャンプー、ボディソープなどに入っている有害物質を
経皮吸収する恐ろしさだとか、
有害物質の入っていないシャンプーを使い、
ミネラルを取っているうちにアトピーが直り、
風邪も引きにくくなったとか、
子供の白内障が増えているのは、
界面活性剤の影響ではないかとか、
まぁ、そういう話を体験に基づいてあれこれと。
ここではじめて、ニューウェイズという組織名が明かされる。
つまり、アムウェイみたいなものなのだろうか。
以前、マルチ商法の説明会にのこのこと出向いた経験を
この日記にも書いたことがある。
今回はそのときに感じた臭気はほとんど、感じられなかった。
M田さんの話には、医師としての節度が感じられた。
ヒポクラテスの誓いとニューウェイズが
ことばの中で、綱引きをしている印象もあったのだが、
近所に住んでいたら、ホームドクターにしたいと感じられるほどの
医業に対する誠実さが感じられる。
講演終了後、出口の売店あたりで、
本やビデオを売る声を聞きながら、所在なく待っていると、
「うれしい! 柴尾くん来てくれたんだ!!」という明るい声。
M田さんが駆けよってきて、いきなりハグされてしまう。
ぼくの常識では、予想外の展開である。
2年前の地元での同窓会で、ちらりと会ったことはあるけれど、
ほぼ四半世紀ぶりに会った女性にハグされるなんて……。
ぼくの記憶の中で、彼女はクラスでいちばん努力をして、
きちんと結果を出す女の子だった。医師の娘で、しっかりもの。
きちんと医大にいき、医者のご主人を迎え、
家業(というのかな?)を継いだ。
何通かもらったメールから奇妙なハイテンションを感じたときは、
ほんとうに彼女と同一人物かなと、疑ったりもしたが、
こうしてハグされると、戸惑いは増すばかり。
個人的にはこの手の行為は、心から愛した人と
六本木の外人のおねぇさんとしか、したことはないんですけどね。
あれこれ話しているうちに、
彼女の知り合いが何人も話しかけてくる。
彼女はぼくを相手に紹介する。
「こちらは同級生で、今日だまして、きてもらったんですよ」
「彼、****はどうなの?」と、
先方がよくわからない用語できくと、
「ゼロゼロハチハチハチハチ」ですと答える。
「そう、Aばかりじゃない! すごいわね」
どうやら、おれのことを話しているらしいが、
まったく意味不明だ。
「いまのなに?」ときくと、あらためて、誕生日を聞かれ、
電子手帳「ザウルス」にそれを打ち込む。
なにか、占いのような画面が出て、その数値らしい。
「動物占い」に近い東洋系占星術みたいだ。
いずれにせよ、RPGのパラメータのように、
自分が計測された感じである。
「この人、うたれづよさ0なのよ」とかね。
彼女とは終わったあと、食事でもしようとメールをかわしていた。
「どうする? なに、食べたい?」
「このあと、今日出演したみんなと打ち上げをする予定なんだ。
柴尾くん、そっちにいってみない?」
まぁ、そういうことだろうな。
彼女とは話をしたかったし、
その手の打ち上げがどんなものか、興味があった。
いってみることにする。
「ああ、よかった! 柴尾くんが来てくれんやったら、
あたし、暴れよったよ」
日本青年館から、信濃町駅まで歩く。
小雨の中、ライトアップされた絵画館が歩道を照らす。
彼女がニューウェイズの活動をしなければ、
こうして、彼女とこの道を歩くことはなかったんだろうな。
あれこれ旧友の話をしながら、そんなことを考える。
真摯に生きている人とことばを重ねていくのは
とてもすてきな体験である。
彼女はほんとうに真摯だった。
いつか、ニューウェイズの活動が軌道に乗れば、
現在70人ほど来院して、患者さんひとりひとりに
きちんと心をこめた診療がやりにくい体制を変え、
一日20人ほどの予約制にしたいとか。
娘を海外のキャンプにやって、自分も旅行をしたいとか。
そんな未来をていねいに語ってくれる。
信濃町の居酒屋「ジョン万次郎」をほぼ借りきる形で、
本日の打ち上げがおこなわれる。
彼女の姉、H原さんとあいさつする。
「柴尾くん、むかしの面影、残っとぉね」
小学校のころから、クラスメートの親や兄、姉……、
年上の人がなぜか、おれのことをよく覚えていてくださる。
どういう目立ち方をしていたのだろう、おれ?
打ち上げはすさまじかった。
「ジョン万次郎」のキャパは数百人だが、そのほぼすべてが
関係者で埋まる。
なぜかここにはステージがある。
今日出演した「プロ」の歌手が劇中歌をうたったり、
ダンサーたちが踊っていたり……。
ぼくはステージ近く、結婚披露宴だと、
主賓席の隣あたりに座っていたのだが、
なんか包みこまれる感じで、なんだかすごい。
「これだけの人間が集まるんですよ。すごいと思いませんか」
同席した紳士が同意を求める。たしかにすごいですね。
リハーサルとか、練習とか、本当にたいへんだったけど、
きょうは楽しくて、テーマソングを聞くと、
胸が詰まって、涙が出たと、彼女はいう。
多くの人が彼女に話しかけ、握手をし、ハグをする。
ここには、彼女の「場所」がある。
彼女が姉上に薦められて、この「場所」を作り、
ここで、医者仲間とはちがうさまざまな人と知り合う前は、
患者さんに対しても
「なんで、この人は指示したことができないんだろう」と、
腹を立てることが多かったそうだ。
それが、いまは変わったという。
患者さんの事情が、気持ちがわかるようになった……と。
おれも挨拶をし、名刺を受けとる。
なんだか、医師、看護婦、鍼灸師、整体師、美容師など、
人の体を直接さわる職業の人が多い。6〜7割は女性だ。
慶応出身の麻酔科医もいる。
彼女はぼくのことをみなに「クリエイター」と紹介する。
テレビゲームに縁のない彼女にとって、
まぁ、そういうことなのでしょうね。
「今日の芝居みたいなのをゲームでも作ってくれないかな」
と、無邪気におっしゃる姉上。
「いま、コンシューマゲームを作ると何億円もかかりますよ」
と、牽制するおれ。
「小学校のときの柴尾くんは、本ばっかり読みよったね」
彼女はそのあと、語尾をにごしたが、
あまり外に出てみんなと遊ばず、教室で残って本を読み、
ときどき、調子はずれのことをする変なガキだったんでしょうね。
「今日のことって、おれの"ホームページ"の日記とかで
書いてもいいのかな?」
「いいよ! すごくいいものをあつかっているんだから、
みんなに知ってほしいんよ」
商品のよさについては知らないが、
彼女の表情もことばも、ニューウェイズのおかげで、
生き生きとしている。
それはまちがいない事実だ。
「おれも石鹸成分のシャンプーを使ってたり、
研磨剤のはいってないハミガキ粉で電動ブラシを使ってたり、
ドラム式洗濯機に液体石鹸を入れたりはしてるし……。
それに、仕事の上でもいろんな人に出会えるし、恵まれてて……。
たぶんね。おれ、ニューウェイズの製品を買ったり、
なんていうのかな、会員? ……になったりはしないと思うんよ」
「うん。気にせんで。わたしもきちんとビジネスとしてやってるんだから」
品川のホテルに泊まっている彼女とは、
総武線に乗り込み、代々木駅のホームで別れた。
また、会いたいな。
小学校の教室で知り合った彼女とは、
一生の友だちなのだから。