DIARY:2003 JAN.1〜10


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2003年1月1日(水)

謹賀新年 物欲羊
新年明けましておめでとうございます!
今年はおそるべきことに厄年だったりするのだが、
みなさん、いつもとかわらぬおつきあいをお願いします。

さてさて、新年早々、池袋西武百貨店と
ビックカメラ池袋本店、Bic P Kan池袋本店をハシゴする。
旅行準備の買い物だが、西武百貨店は、たいへんなにぎわい。
福袋を買うこともなく、CDやDVDを大人買い。

ビックカメラ池袋本店では、予備のコンタクトレンズを購入。
Bic P Kan池袋本店では、mp3プレイヤーを物色する。
記憶容量、操作の手間、デザイン……、
あれこれと比較検討しているうちに、
Windows用「iPod」が、いちばん使いやすいと実感。

20GBモデルの在庫があると聞いたら、買うしかない。
20GBといえば、最高音質でもCD500枚は入る容量である。
そんなに入れる意味があるのか、よくわからないが、
大きいことはよいことなので、購入。

いや、元旦から、うしろめたくなる
物欲エンジン前回だったりする。

帰宅後、20枚ほどのCDをmp3変換して、iPodに転送。


2003年1月2日(木)

妹の家へ
立川にある妹夫婦の家に、母が来ている。
せっかくだから、「桃太郎電鉄11」をもっていこうと思うのだが、
妹の家にはPS2もゲームキューブもない。
ビックカメラ新宿西口店にいって、PS2を購入。
ラチェット&クラックアクションパックだ。

「桃太郎電鉄11」は、個人的にはゲームキューブ推奨なのだが、
妹の家にはDVDプレイヤーもないので、PS2にした。
ついでに小田急百貨店で、ポチ袋を買い、
甥二人用にお年玉を入れる。

妹の家で、甥たちにお年玉を渡す。
とりあえず、開けてみるのだが、「ありがとう」といったあと、
そのへんに中身の札を置きっぱなしにする子供たち。
まだ、現金の魅力にとらわれていないお年ごろだった。

しかし、PS2の魅力は強力だった。
延々と「桃鉄11」のドラコンクエストをやっていたかと思うと、
「ラチェット&クランク」で、何度も何度も何度も……
果てしなく崖から落ちて大喜びである。

妹はいつ、ゲームを買いあたえるかという
タイミングをいろいろ考えていたようだが、
職業ゲームデザイナーの伯父があっけなく買ってきた次第で、
申し訳なかったりもする。

「ラチェット&クランク」を多少遊ばせてもらうが、
まぁ、スタンダードな3Dアクションで、好ましいクオリティ。

飲んだり食べたりして、午後10時ごろ、
帰宅しようとして、甥に引き止められる。
スラックスにしがみついて口で噛み、
「帰るんだったら、唾をつけるぞ」と脅迫される。

つ、つ、つばなのか。
それは、かなーり、いやかもしれない。

予想をしのぐ脅迫にひるむものの、
帰らなければ、ちとまずい。しみじみと帰宅。


2003年1月3日(金)

イエネコ、アンジーのお迎え
午後7時過ぎ到着の便で、海外から
帰国するイエネコ、アンジーをお迎えするために、成田空港へ。
迎えに行く途中、身分証明用のパスポートを忘れたことに気づくが、
引き返すにはもう遅かったりするので、そのまま強行。

結局、電車改札そばの検査口では、
財布にあった顔写真入りのカード類を何枚か
見せるだけで、通してもらえた。
カバンの中身を開けてもよかったんだけどね。

この時間の第一ターミナルはそれほど混雑していない。
南国から、北国から、飛行機の便によって、
乗客の顔つきと、荷物のタイプが違うのを見ていると、
いかにもフランスな方々が……。

その中に特徴ある歩き方のイエネコ、アンジーが!
無事に帰ってこれて、やれやれである。
多少、たくましいネコになってきたのだろうか。

帰りのリムジンバスで撮ってきたデジカメ写真を見せてもらう。

今回、512MBのコンパクトフラッシュを2枚持たせたのだが、
2枚ともほぼ使い切った模様。
撮影枚数は1400枚近くである。たいしたものだ。

「東京も寒いよ」と、アンジーにいったものの
かの地はかなり暖かかった模様。
大量に持っていった携帯カイロもほとんど使わず、
現地の人にあげてきたみたい。

家で、おでんをつつきながら、
録画しておいた「紅白歌合戦」をふたりで鑑賞。
気分的には、いまごろ、大晦日が来た感じ。

その後、大量の写真をパソコンで処理。
1枚3秒ずつでスライドショーにするが、
再生するだけで1時間30分もかかる。

すっかり遅くなって、就寝。


2003年1月4日(土)

ニュージーランド旅行
なぜ、ニュージーランドを旅行するのか。
この日記の賢明なる読者なら、お察しのことだろうが、
ひとえに映画「ロード・オブ・ザ・リング」のためである。

昨年、日本で公開された映画「ロード・オブ・ザ・リング」を
はじめて見たとき、主人公は数多の「旅の仲間」……ではなく、
なにより、壮大なるランドスケープであった。

氷河を山頂に抱いた山脈と緑なす沃野のコントラスト!
深い峡谷の中をとうとうと流れる大河!
人類の侵入を拒む果てしなき荒地!

そんな中つ国ミドル・アース
現実にあるのを知れば、
現地にいき、この目で見るしかないじゃないか。

しかも、日本では「ハリー・ポッター」との競合を防ぐという
愚かしい理由で、二月下旬に公開されることになった
映画の第二部「二つの塔」も、ひと足早く観られる。

ついでにいえば、今年は、未年!
羊の年に羊の国にいくのも粋というもの!
ウール製品を買って、ラムを食いまくるぜぇ!

ここ4年くらい、海外に行くときはかならず持っていった
ノートPCだが、今回は持っていかないことにもした。
最近ちょっとパソコンとインターネットの度が過ぎると感じていた。

情報的に身軽な旅もいいだろう。

そのかわり、「ZAURUS SL-C700」と
Windows用「iPod」を持参。
デジカメは「IXY DIGITAL200」、「EOS D30」と
広角と望遠、2本の交換レンズを用意。
身軽な旅を目ざしつつも、付随する充電器や
ACアダプターのため、荷物はそれなりの量になった。

「ロード・オブ・ザ・リング」公式エアライン
昨日と同じようにスカイライナーで成田空港へ。
第2ターミナルは発着便が多い。
最近、何度か訪れた第一ターミナルとは違って、大混雑。

午後4時、今回の「旅の仲間」となる
小学館「ヤングサンデー」編集部の石川亨さんと
ニュージーランド航空のチェックインカウンター前で合流。

石川さんはこちらの二倍くらいのサイズの
大きなスーツケースを持っている。

チェックイン、両替、旅行保険の加入を済ませ、
4階の「日本料理 ちよ田」で和食を食べる。
石川さんは両替の行列でもレストランでもかなり待たされる。
なぜだろう。そういう運命なのか。

午後6時過ぎ、ニュージーランド航空NZ34便に搭乗。
機内はほぼ満員である。

ニュージーランド航空のエコノミークラスは、
パシフィッククラスという名称になっている。
使っているシートが違うのだそうだ。

なるほど、シートピッチもやや広い印象。
背中にいい感じに当たる背もたれも好印象である。
うれしいのは、リクライニングした際に座面がせりあがること。
前にある足乗せもいい感じで、リラックスしやすい。

「これなら無理して、ビジネスクラスにする必要はないですなぁ」
と、石川さん。ちなみに乗客は年配の人と、若者が多い。
日本人にとって、親しみやすい国のせいなのだろうか。

これで機内食がもう少しうまければ、いうことなしなんだけど、
そのあたりはイギリス系エアラインのせいかも……ね。

「ロード・オブ・ザ・リング」公式エアラインだけのことはある。
機内誌「air new zealand」日本語版には、
「ロード・オブ・ザ・リング」の
ピーター・ジャクソン監督インタビュー。

英語版の機内誌のほうには、
「ロード・オブ・ザ・リング」塗装の機体の話題。

機内のスクリーンでは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」と
ニュージーランドとのかかわりを描いたビデオが上映される。

「スペシャルエクステンデッドエディション」の特典映像と
内容的な重複はあるけれど、気分としてはかなり盛り上がる。
10時間今日のフライト中、機内上映の映画は3本。

エリザベス・ハーレー主演の日本未公開映画「Serving Sara」は
日本語吹き替えがまったりしすぎてはいたけれど、
スタンダードなラブコメディ。

E・ハーレーはこういった上品なコメディエンヌが
似合う感じになってきた。

ほかに上映していた「トリプルX」はすでにみているし、
「メラニーは行く!」は、あまり興味がない。
iPodで中森明菜などを聞きながら、機内就寝。


2003年1月5日(日)

いなり寿司が問題だ
午前9時30分。
真夏のクライストチャーチ空港に到着。

入国検査の行列にならんでいたところ、
犬を連れた女性係員が、
乗客のバッグの匂いを犬に嗅がせていく。

ネットの情報などで、聞いてはいたが、
この犬は麻薬犬ならぬ「オレンジ犬」。
国内の農業や環境を守るため、柑橘類の匂いに
反応するように訓練されている犬だ。

背後にいた日本の老婦人のカバンに犬が反応する。
女性係員が「入国カードをみせろ」と英語で聞くが、
老婦人はおろおろするばかり。

「カードは連れが書いて持ってるんですけど、
どこかにいってしまって……」と、通じない日本語で訴える。

「カバンを開けろ」と指示される。
中からは、漬物、乾物、芋を煮たもの、果物……と、
食品がつぎつぎに出てくる。

ミカンを見つけた犬に、「Good job!」と声をかけ、なでる係員。
わけもわからず、おびえるばかりの老婦人。

カバンの中にある、いなり寿司を怪訝な顔で見る。
さすがに見かねて、「それは大豆と米でできている」と教えたところで、
老婦人の娘とおぼしき女性が登場。

「お母さん、なにしてるの!?」

お母さんをほおっておいたあなたは
なにをしていたんでしょうか。


(左)クライストチャーチのシンボル「大聖堂」
(右)クライストチャーチの街なみ

クライストチャーチ
ぼくと石川さんの入国検査は大過なく終了。
検疫では、入国者すべての荷物を
X線で検査するという念の入れようには、感心した。

空港内のカフェ「Tasty Tucker」で軽くお茶。
その後、タクシーに乗りこみ、ホテルへ向かう。

クライストチャーチは「ガーデンシティ」とか、
「英国以外で最も英国的な都市」といわれている。
広大なカンタベリー平野の中央に位置し、
31万の人口はニュージーランド第三の都市にして、
南島最大。秋田市や那覇市と同規模の人口だ。

車窓から街なみを眺める。
美しく手入れされた庭が印象的だし、
広大な公園が目に付く。

今回、インターネットで予約したホテルは
Fino Casmenti All Suite Hotel」。
午前11時30分に到着したが、
運のいいことに、チェックイン直後、部屋に入れた。

部屋に入ってびっくり! 全室スイートとは聞いていたが、
広いダイニングとツーベッドルームの素敵な部屋。
キッチンには食器や厨房用品がそろい、洗濯機もある。
これで一泊220NZドルなら、かなり安い。
ちなみに1NZドルは65〜75円だから、1万5千円程度か。

軽くシャワーを浴びて、大聖堂方面へ。

町の中心地にそびえ立つ大聖堂は、クライストチャーチのシンボル。
ホテルから歩いていく途中には、観光客向けの店がならぶ。
大橋巨泉の店「OKギフトショップ」なんかあるけど、
観光地としては、かなり寂しい感じがする。

市街地には英国風の建築物が多いし、
市の名前と同様、教会チャーチも多い。
市内をたゆたうように流れるエイヴォン川では
のどかなパンティング(小舟)が観光客を乗せて、優雅な感じ。

大聖堂前は、観光客でにぎわっている。
一通り周囲を見て回ったところで、
昼飯を食おうということになる。

「よく"地球の迷い方"なんて、いわれているけど、
"地球の歩き方"の情報って、けっこう役に立つんですよ」
……と、石川さん。

英国風の町だから、それっぽいものを食べたいところ。
「ここなんか、どうです?」と、ページを開いたのが、
大聖堂のそばの路地を入ったところにある
「Chancery Restaurant and Bar」だ。

ぼくはクラムチャウダーとラムロースト、
石川さんはトゥデイズスープとステーキサンドを頼んだ。

すみません。
ニュージーランドをなめてました。

なかなかパワフルなボリュームにアングロサクソンな味付け。
テレビ番組「食いしんぼう万歳」なら、
「好きな人にはたまらないでしょうね……と、
口を濁すようなそんなテイストでございました。

おれは完食したのだが、
石川さんはソースの味に辟易して、
かなり残していた。

さすがに腹も一杯である。しかしあれを見なければならない。
そう映画「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」を見るために
こんな南半球くんだりまで、やってきたのだ。

腹ごなしもかねて、映画館までの1キロほどの道を歩いて行く。
真夏で快晴のニュージーランドだが、
湿度は高くなく、風が心地よい。
噂に聞く、初夏の北海道は、こんな感じなのだろうか。

「Moorhouse Hoyts8」なるシネコンで2時45分の回を鑑賞。
映画館は「サイエンス・アライブ!」という科学博物館に接している。
ここは旧クライストチャーチ駅の駅舎を利用した建物らしい。
ゲームセンターもあり、全体にモダンな感じ。

映画館そのものはかなり小さい。
最新の音響設備も整っていない模様。
200席ほどのスクリーンで見たのだが、
傾斜したスクリーン設置で、
サイズそのものに不満は感じなかった。


(左)ホテルの客室 (右)ラムロースト

 映画を見た「Moorhouse Hoyts8」

映画「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」
すばらしくも堂々とした映画だった。

前作でぼくを魅了した圧倒的なランドスケープは
それほど堪能できなかったが、
原作のストーリーを考えると、仕方ないところか。

ドラマのウェイトはヘルム峡谷にある角笛城、
その攻城戦にフォーカスされている。
日本版「二つの塔」であれば、上巻と下巻の内容が
時系列順に再構成されているといったところ。

ドラマそのものはなんの前触れもなく、
いきなり、前作から続いてはじまるため、
前作を観ていなければ、わからないことも多いだろう。

もちろん前作同様、映画の尺にあわせて、
ドラマの単純化はされている。
ピーター・ジャクソン監督自身の視点による
原作からのキャラクター造形の変化もかなりある。

それどころか、
「え? こんなところで、この人たちが……」という
原作からのプロット改変もある。

ていうか、かなり驚いたぞ。

今回、いちばん気に入ったのは、
蛇の舌、セオデン王、アラゴルン、そして、ゴラム!
まぁ、これ以上はネタバレになるので、またいずれ……。

でかいところで、お買いもの
映画を見終わったあと、
「PAK'N SAVE Food Warehouse」へ。
ここは巨大な倉庫のようなスーパーマーケットである。

ガラガラと押すキャリーカートも日本のそれより4倍くらいでかい。
ニュージーランドではアメリカほど巨大なデブは見かけないが、
やはり食う量は多いんだろうね。

ビールを1ダースほどと、チーズやハム、
ナッツ類、コーヒーなどを購入。
ほかにも充電器を差し込むための二股プラグなども。

黄色いシャトルバスで、ホテル付近まで、もどる。
クライストチャーチの中心地を巡回するこのバスは、料金無料。
住民や観光客の足として、とっても便利である。

午後7時頃、いったんホテルに戻ったものの、外はまだ明るい。
日本でいえば午後3時くらいの感覚である。
腹はまだ減らないので、お出かけすることにした。

クライストチャーチゴンドラ
めざすはクライストチャーチゴンドラだ。
市の郊外にあり、市街とカンタベリー平野、そして海を見渡せる。
大聖堂前からタクシーに乗り、20分ほど。

ふもとの駅から山頂付近を見わたせば、
いかにもアラゴルンやギムリが駆け降りてきそうに思えるのは、
映画の見すぎというものでしょうか。

6人乗りの小さなゴンドラに乗り込む。
どこからともなく、メェーメェーという鳴き声が……。
ゴンドラの下、山の斜面には、羊が散らばっている。
羊またぎのゴンドラですか。

山頂のみはらし台から望む平野は非常に美しい。
夕暮れ前の魔法の時間で、心洗われる光景。

山を降りて、バスで、ホテルに戻ったのは午後10時ごろ。

まだ、外はうっすら明るい。
バスの車窓から見た夕暮れの町並みは
人数も少なく閑散としている。

なによりここは小さな田舎の観光都市なのだなぁと実感。
客室内でビールを6本開け、チーズとナッツで酒盛り。

腹ぺこだといっていた石川さんは、
さきほど買ってきたカップパスタを食べ始めるが、
かなり濃厚な味だった模様。半分くらい残していた。

 ゴンドラから見えた「LOTR」な景色。


展望台から。
(左)リトルトンハーバー (右)クライストチャーチ市街


2003年1月6日(月)

トランツアルパイン鉄道
朝6時30分に起床。客室内で簡単に朝食を済ます。
午後8時ごろ、大聖堂前からタクシーで、
トランツアルパイン鉄道のクライストチャーチ駅へ。

駅は市の中心地から、けっこう離れている。
線路は基本的に貨物優先なのだろう。
旅客列車は一日一往復のみである。

列車の予約は石川さんがインターネットで済ませている。
窓口で手続きを済ませ、午前9時発の
トランツアルパイン鉄道グレイマウス行きに乗り込む。

ほどなく検札が回ってくる。ちょっと無愛想な女性だ。
チケットを手配した石川さんがインターネットからのプリントアウトと
帰りの列車名を書いているボーディングパスを見せる。

ボーディングパスをもっていかれる。
日本と勝手が違うので、ちょっと戸惑う。
帰りの列車には、ちゃんと乗れるのかな。

車窓から外を見れば、見渡す限りの牧草地。
羊、牛、羊、牛、羊、馬、羊、羊、鹿、羊、駝鳥……。
駝鳥までいやがるのには、ちと驚いた。

峡谷地帯に入り、あたりの景色がどんどんよくなる。
車内アナウンスで、橋やトンネル、名勝地など、
由来が英語で放送されるたびに、
乗客たちが右に行ったり、左に行ったり。

「ロード・オブ・ザ・リング」の大河アンドゥインって、
こんな感じなのかな……。

ぼくらは車内の売店でブレックファーストロールを買う。
目玉焼き、ベーコン、ハッシュブラウンなどが入り、
ボリュームもそれなりにある。
名前はブレックファーストだが、ランチとしていただく。

 
(左)クライストチャーチ駅 (右)トランツアルパイン鉄道

 
(左・右)車内の風景

アーサーズパス
午前11時30分、目的地のアーサーズパス駅に到着。
アーサーズパスは国立公園内にあり、
いくつもあるトレッキングコースの出発地である。

山小屋に泊まり、数日かかるトレッキングコースもあるのだが、
ぼくらはDevil's punchbowl fallsと
Bridal vail walkの2コースを選ぶ。

「地球の歩き方」によれば、
前者は行程1時間、後者は行程1時間半ほどだ。

Devil's punchbowl fallsを目指すルートは
ほぼ全行程が登りである。
中には狭いルートもあるが、よく整備されている。
登ってみれば、なかなかの絶景。

滝の水しぶきを浴びつつ、かなたをみれば、
氷河をたたえたMt. Rolleston。
ちと切れた息を整え、山をおりる。

つづいて、bridal vail walkへ。コースの前半は美しい木立。
「こういうスポットで、女の子を撮影すると、はえるんですよね」とは、
「ヤングサンデー」グラビア担当の石川亨のことば。

石川さんは愛用のカメラ「Contax G2」で、
おれさまが、はえるように何点も撮影。
たしかにこの木立はいい感じ。
エルフがいてもおかしくないって、ほんとうか。

途中、Bridal vail walkの由来ともなった
美しいせせらぎに、中年日本人の心は洗われ、
駅のそばに降りてきたのは午後2時30分。
列車の時間までけっこうある。

「Oscar's House Cafe & Crafts」でお茶。
アットホームで、なかなか感じのいい店だった。

 
(左)Devil's punchbowl fallsからのぞむ氷河。
(右)Devil's punchbowl falls。

 
(左)Bridal vail walkの木立。(右)Bridal vailのせせらぎ。

なんだか英語に困ってる
列車の発車予定時間は午後4時30分だが、
午後4時には駅に戻るようにいわれている。

ホームに行ってみると、客車のそばに乗務員が立っている。
プリントアウトを見せると、手元のリストを確認して、
なんだか、ごにょごにょいわれる。

まだ、英語に耳が慣れていないし、
どうもニュージーランドの発音と、用法にとまどっている。

たとえば、アメリカでは、4時15分なら、
「four fifteen」といわれるところが、
「quarter past four」とかいわれる。
そうなると、脳内で翻訳するのに時間がかかる。

おまけに、「ei」の発音を「ai」といわれるなど、
発音もちがうので、ぼく程度の英語力だと混乱する。

帰りのボーディングパスは、行きの車内で取られちゃったけど、
4時15分ごろが、どうとかいってるから、
そのころ、またくればいいんだろうな。

4時10分ごろ、周囲の乗客がぞろぞろと
客車に乗っていくのにあわせて、乗車する。
行きは座席を指定されていたのだが、
帰りはみなさん、適当に座っている。

と、突然、列車が走り始めた。
ダイヤによると、4時30分、発車であるが、
いまは4時15分である。

すげぇなぁ。時刻表より早く発車する列車なんて、
はじめて乗ったよ。

車内検札もなく、どうやら、あのリストの確認だけで、
すべてが完了していたらしい。

帰りの電車は15分早く発車した列車だが、
クライストチャーチ駅には、30分遅れて午後7時ごろ、到着。

車内アナウンスによれば、
先行する貨物列車のため、遅れたらしい。
そのくらいの英語なら、わかる。

ぼちぼち腹も減った。レストランは大聖堂付近にある。
駅前に待っているタクシーで大聖堂に行ってくれと指示する。
ところが、運転手は見慣れないところに車をつける。

にこにこと「カジノに着いたぜ」みたいなことをいう。
はぁ? カジノ???

おれは大聖堂(カシードラル)にいってくれと、
いったつもりなんだけど……。
なんで、カシードラルがカジノになるんだ?

英語のヒアリングだけでなく、
発音にも自信がなくなる。まいったなぁ。
さいわい、ホテルはカジノから1〜2分の距離だ。
食事をあとにまわし、いったん、ホテルにいくことにする。

ホテルで、軽くビールを飲み、徒歩でカシードラル方面へ。

ぼくは英語に混乱し、
石川さんは英国風料理に辟易していたので、
日本食レストラン「さらさら」へ。

和風に調理したラムや刺身を食う。
一人4000円とは東京では安いんだけど、
ちょっと散財したかな。

注文を聞いてくれた女の子が
いい感じの天然ボケで、楽しかった。

一日、山道を歩いた石川さんは、なにか興奮しており、
「明日は、レンタサイクルに乗って、市内を回りたい」といっている。
なにか、健康アドレナリンが噴出している模様。

おれはそこまで、エネルギーがないので、
まったりと博物館めぐりでもやろうかな……。


(左・右)帰路の車窓から見た景色。


2003年1月7日(火)

カンタベリー博物館と植物園
午前9時30分、ホテルに荷物を預けてチェックアウト。
うん、とてもいい感じのホテルでした。

「おれは自転車に乗ってクライストチャーチの町を疾走するんだ」と、
昨夜まで豪語していた石川さんだが、
一夜明けて、すっかりへこたれてしまったらしい。

なにより、寝酒がないため、
うまく寝つけなかったこともあるみたいだ。

ほんとうは、客室で、眠り続けたいとのことだが、
ふぬけたような声で「お茶でも飲んできますよ」と別行動。
大聖堂付近で、いったん別れる。

「カンタベリー博物館」は入場無料。
入口付近に5ドル程度の寄付を呼びかける
透明の球体があったので、そこにお金を入れる。

中に入って、展示の充実ぶりに驚く。
このあたりは、きちんとイギリス風なのだなぁ。
極地探検やマオリ族関係、開拓史などがすばらしく、
ていねいに見ていくと、数時間は必要だろう。

その後、広大なクライストチャーチ植物園へ。
あたりを圧倒するかのようなセコイアとアジサイが違和感なく並ぶ。
日本では一本一本がありがたいご神木が
これだけ団体で立ちならぶと、形容の言葉に困る。


(左)カンタベリー博物館。(右)絶滅した巨大鳥モアの骨格標本。

 
(左)ニュージーランドの輸送機関の歴史。(右)アムンゼンの雪ぞり。


 
(左)雪上車。(右)アロザウルスの標本。

  
(左)アートミュージアム付近。(右)植物園のセコイア。


(左)よく手入れされた花壇。(右)クライストチャーチ空港で、搭乗を待つ。

市内散策、そして空港へ
その後、大聖堂付近に帰ってくる。
OKギフトショップ」をひやかしたり、書店で、
「The Lord of the Rings Location Guidebook」を買ったり……。

OKギフトショップは日本人の店員がたくさんいて、
「いらっしゃいませ」の大合唱。
たしかに品揃えもよく、日本人観光客には便利だが、
土産ものを買うのは最終日と決めている。

「The Lord of the Rings Location Guidebook」は
映画のロケーションパイロットが書いたもの。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」のロケーション情報が、
観光案内とともに詳細に書いてある。

旅行計画を決める前に
この本があれば、よかったのに……。

午後12時30分、石川さんとホテルで合流。
石川さんはスターバックスでお茶を飲んだあと、
公園を散策していたそうだ。
タクシーで、クライストチャーチ空港にむかう。

タクシーの運転手と「どこからきたのか」という
おさだまりの会話をしているうちに、
運転手の口から田園調布の名前が。

彼にはかつて田園調布に住むガールフレンドがおり、
二度日本を訪ねたというのだが、
3か月前に彼女は別の男と結婚してしまったらしい。

お気の毒に。

チェックインを済ませ、クイーンズタウン空港の国内線へ。
手荷物検査を受け、搭乗時間よりも1時間以上はやく、
搭乗口にきたものの、付近にはレストランもショップもない。

昼食もまだである。いったん、搭乗口を離れ、
ターミナルビル内にある「G.B.H Bar」で昼ビールとBLTサンド。
料理が出てくるまで、それなりに時間がかかったものの、
まぁ、普通においしく食べられました。

展望デッキで、飛行機をみたいという石川さんと別れ、
ふたたび、手荷物検査を受け、搭乗口へ。
さすがにビールをたっぷり飲んだせいか。尿意が襲ってきた。

たまらんなぁ。

トイレを探しているうちに空港の係員の人が、
「トイレか」ときいてくる。「そうだ」と答えると、
「いったん外に出て、ターミナルのトイレを使え」というお言葉。

用を済ませて、3度めの荷物検査を浮ける。
本日、おれの荷物は相当被爆している模様。

 クイーンズタウン
午後3時40分、NZ527便で
クイーンズタウン空港に無事到着。
クイーンズタウンはとにかく暑い。

クライストチャーチにくらべ、標高も高く、高緯度にあるのだが、
むきだしの紫外線にしっかりあぶられている感じ。
ただ、湿度はそれほどでもないので、いやな感じではない。

タクシーで宿泊先の
ROX Bed and Breakfast」へむかう。

タクシーの運転手はいい感じの人だったのだが、
やはりおれの発音が悪かったのか、
全然ちがう場所に連れていかれそうになる。

あわてて、住所を番地まで告げると、
きちんと「ROX」に連れていってくれた。

柴尾、英語の発音にとことん自信をなくす。
英語に関してはニュージーランド、苦手かもしれない。

「ROX」は瀟洒なB&Bである。
B&Bとは英国風の宿泊施設だ
日本でいえば、ペンションに相当するもの。

百年以上前の建築をリフォームした建物は美しく、
客室も和風ペンションのレベルではない。
広くて、センスのよいインテリアでまとめられている。

日本人のオーナーご夫妻もとても感じがいい。
スキーインストラクターのご出身だそうで、
冬(日本の夏)になれば、日本からのスキー強化選手で
ここは、いっぱいになるそうだ。

 
(左)「ROX」のベランダ。(右)クイーンズタウン市街。

 
(左)クイーンズタウンの繁華街「モール」。(右)ワカティプ湖を望む

 ワカティプ湖畔で憩う人たち。

まずは「スカイライン・ゴンドラ」に乗ろう!
そう決めると、市街地をつっきり、
ゴンドラの麓駅に行ってみる。

しかし、現在が電源がダウンしているとのことで、登れない。
ならばと、すぐそばにある「Kiwi & Birdlife Park」に行ってみるが、
こちらも停電。夜行性のキウイを照らすための照明が
つかないというのだから、仕方がない。

ならば、夕食でもとりましょうか。

なにしろ、日没が夜10時頃である。
夜6時前後とはいえ、まだまだ明るい。
日本でいえば午後3時くらいの気分である。

「ROX」で教えてもらった
テキサス・レストラン「Lone Star」にいってみる。

スペアリブをウォームアップに、ぼくはラムステーキ、
石川さんはビーフ・サーロイン・ステーキをオーダー。

スペアリブの甘酸っぱいソースはなかなか、おいしい。
ただ、石川さんの口には合わなかったようだ。
ラムステーキは、300グラム以上はありそうだ。
量こそすごいものの、なかなかおいしく、ペロリとたいらげちゃう。

しかし、石川さんはサーロインステーキをお気に召さない模様。

「どうして、こっちの牛肉は堅くてパサパサそてるんでしょうね」と、
お聞きになる。たぶん、こっちはグラスフェッドの牛だから、
穀物を食べる日本の牛みたいに、
脂がのっていないのではないかと、適当に答える。

食後、ダメもとでゴンドラ乗り場に行ってみると、
電源が復旧した模様。運転が再開されている。

チケットを買おうとしたぼくの横で、石川さんが突然、
「ぼく、歩いて登ります」と宣言。
名だたる斜度をきりきり登るゴンドラと競争しようというのだ。

午前中はあんなに低調だったのに、
夕方になるとエネルギーが注入されるのは、
編集稼業の習性ってやつでしょうか。

1時間後の山頂駅での再会を約束する。

標高790メートルのボブズヒルまで、5分で登る
スカイラインゴンドラの平均斜度は37度。
きつい斜面だが、ここにもクライストチャーチゴンドラ同様、
羊がうろついている。

あの羊、飼われているものとは
思えないんだけど、野良かなぁ……。

山頂のボブズヒル駅はちょっとしたアミューズメントパーク。
展望台やレストランのほかに、
バンジージャンプ、リュージュ、シアターなどがある。

石川さんより、ひと足さきに山の上に到着。
展望台から、市街地を見下ろし、撮影をすませたあと、
山頂付近をくるりと歩けるLoop Trackを歩いてみる。
美しい木立を抜けると、裏手の見晴台に出る。
よく整備されており、とてもいい感じだ。

健脚、石川さんとも無事に合流して、ゴンドラで麓に下りる。
市内にある24時間営業の食品店で、
ミネラルウォーターやビールを買い込み、9時ごろ、ROXにもどる。

 
(左)Lone Starのラムステーキ。(右)ゴンドラ山頂にあるバンジーサイト。

 
(左)山頂からクイーンズタウン市街を望む。(右)山頂付近のトレッキングコース。

 歩き終えて、帰りのゴンドラ。

「ROX」のゲストラウンジで、
札幌から親子でやってきた女性と話をする。

小学5年生の息子さんはすでに客室で就寝。
いっしょにやってきたご主人は、
本日一足先に帰国の途についたとのこと。

ミルフォード・トラックでのトレッキングをすでに終え、
長い北海道の冬休み期間中、
ずっと、こちらにいらっしゃるとのこと。

消灯の夜10時、客室にもどる。

石川さんとあれこれと話しつつ、外にでてみると、満天の星!
澄んだ空気の中で、数多の星が瞬いている。
あまりにも星が多くて、どれが南十字星なのだか、
はっきりわからないほど……。


2003年1月8日(水)

バンジージャンプ!
ニュージーランドはアトラクションとしてのバンジージャンプ発祥の地だ。
ここでバンジーを主催するAJ Hackett Bungee社は
バンジーのパイオニアとして、有名である。

おれはつまり、どんな絶叫マシンでも平気だけれど、
手すりのない高いところはおっかない。

石川さんは絶叫マシンは苦手だけれど、
なぜか、バンジーをやりたがっている。
蛮勇の持ち主というか、クレイジーというべきか。

そうですか。やりたいですか。おっかないなぁ。
でも、せっかくニュージーランドだし、つまり、まぁ、
やっちゃいましょうか。バンジージャンプってやつを。

バンジーの予約は、日本からROXにお願いしていた。
やはり「飛ぶ」と決めた以上は最高のものにしたい。

クイーンズタウン周辺には、43メートル、71メートル、
そして、134メートルの3種類のバンジーがあるが、
やる以上は、134メートルでしょう!

134メートルといえば、
東京タワーの展望台の高さである。
わはははは……。

午前8時にROXで朝食をいただき、
午前10時、クイーンズタウンの中心地にある
観光案内所「the STATION」で、チェックイン。
右手の甲にツアーの略称「NJ2」、
左手の甲に体重のキログラム数をマジックで書かれる。

クイーンズタウン中心部から、
ネヴィス・ハイワイヤー・バンジーサイトまで、
マイクロバスに乗って、45分。

バスは日本製の中古車だ。扉には「自動扉」と書いてある。
このバスだけでなく、ニュージーランドは中古の日本車が多い。
同じ右ハンドルのクルマが使いやすいのだろう。

途中、最初の商業バンジーが行われたという
カワラウブリッジで、バンジーをハシゴする客をピックアップする。

乗客たちは、妙にノリがいい。
女性も半数ちかくいる。
この中では、たぶん、おれが最年長。

途中から私道に入っていき、のろのろと斜面を登るバス。
バンジー基地にたどり着く。
これから飛び降りることになるポイントをはるかに見て、
気が遠くなる。やばいなぁ。

ネヴィス川の深い峡谷。その左右の断崖のあいだを
380メートルにおよぶワイヤーでつなぎ、
その中央にUFOのような空中バンジーサイトを設置。

本気なのか。本気でおれは飛ぶのか。

断崖上にあるロッジの脇で、
指示されるままに、ハーネスに両足をつっこみ、
両脇の部分をしっかり締めてもらう。

ロッジの中で、体重をもう一度計測される。
クロスチェックである。きちんと体重を確認しないと、
伸び縮みするバンジーロープの弾力が、合わないのだろう。

空中バンジーサイトの見える見晴台で、
実際のバンジーの際の手順の説明を受ける。
なにしろ、英語であるから、ちと不安が残る。

そんな顔をしていると、インストラクターがこちらを見て、
日本人かというので、そうだと答えると、
A4サイズの説明書を渡してくれた。

説明書は日本語で書いてある。
それが読めるかと聞かれたので、「オブコース」と答える。
なぜか、ほかの参加者たちに笑われる。

ったく。笑いごとじゃないんだぞ。

 ←バンジーサイトゆきのゴンドラ。

空中サイトまでは、ケーブル上を
水平に動くゴンドラで移動する。

ゴンドラに乗るやいなや、
係員が体のハーネスからロープを伸ばし、
先端のカラビナをゴンドラ上部のパイプにつなげる。

安全に対する配慮はすばらしい。
だが、ゴンドラの底は網のようになっており、
足元はもう、スウスウと寒い感じ。

空中サイトに到着。
とりあえず、しっかりと囲まれているのだが、
所詮ケーブル上にあるサイトだ。

ゆっくりと揺れている上に、
足元の一部がアクリル板になっている。
そこからうっかり下を覗きこんでしまう。

当然のように、ずーーーっと下までなんにもない。
理屈を超えた「いやぁ」な感じである。

参加者は体重の重い順にジャンプすることになっている。
おれは3番目である。
考えこむ時間が長くなるよりは、早く飛ぶほうが、いい。

当然、すぐに呼ばれる。
3人まとめて、窓の桟になっている高い段に座らされ、
両足に器具を装着される。
背中を倒すと、そのまま下に落ちそうな感じである。
アドレナリン急上昇。

両足を固定された仲間たちが、
つぎつぎに呼ばれ、落ちていく。
いよいよおれの番だ。

飛び降り台の脇の椅子に移動。
そこで、係員に説明を受ける。


(左)足に器具をつけてもらう。(右)飛び降りる直前、最後の説明を受ける。

かならず、頭から下に落ちること。
下に落ちきったあと、反動で上にあがるが、
2回目に上にあがったところで、
青いストラップを左に強く引っ張ること。
そうすれば、頭を下にしていた固定具が外れ、
足を下にして、安定した姿勢で巻き上げられるということ。

わかったよ。

しかし、飛び降りる直前になって、不安と恐怖心から
どくどくどくどくとアドレナリンが湧き上がってくる。
かつて味わったことのない奇妙な興奮である。

「口の中に入っているガムを捨てな」といわれる。
そうだった。ニコレットを噛んでいるんだった。
指示されるまま、口からニコレットを出し、谷底に放り投げる。

飛び降り台に移動する。
両足はゆるく固定されているから、
こっけいに歩くしかない。

空中に突き出した飛び降り台は、
靴を4つ並べられないほどの幅。長さは30センチほど。
転んだら、ぶざまに落ちるしかない。

おずおずと進んでいくと、
「もっと前にいけ」といわれる。
そんな殺生な……。

「向こうにカメラがあるから笑ってみな」といわれる。
笑えません。

あれ? 2回目に上にあがったところで、
ストラップを引くのはいいけど、
あがり始めたところで引くんだっけ?
それとも、あがりきったところで引くんだっけ?

「スリーーーー!」
そんなおれの逡巡とは関わりなく、
うしろでカウントダウンをする係員。

「ツーーー!」
え、飛ぶんですか。ほんとうに!

「ワン!」
あがり始めたところだっけ?
どっちだっけ?

「GO!」

飛びました。

飛んだ途端に、なんにもなくなっちゃいました。

恐怖さえもありません。自分さえもありません。
人生が走馬灯のように流れることもありません。
気持ちいいとか、気持ち悪いとか、それさえもありません。

134メートル。9秒足らず。
ずーーっと下まで落ち、たいした衝撃もなく、
反動で上にあがる。ああ、これが一回目の上昇だな。

また谷底に吸いこまれ、2回目の上昇。
その上昇の途中で、ストラップを引くと、体がくるりと回り、
安定した姿勢になる。

終わった。バンジーが終わった。
なにかほっとしたその瞬間、上の方で、ガチーーンと音が鳴り、
ケーブルがぶるんと震える。

もしも、おしっこをちびるとしたら、この瞬間だったろう。
助かったと思った直後であり、
自分の命がこの1本のロープに固定されている、
その事実が揺るいだ瞬間である。

たしかに事前のインストラクションでは、
ウインチが巻きとりを始めるときに、
大きな音がするけれど、驚くなとはいわれていたのだが、
こんなに大きな音とは思わなかった。

空中サイトと同じ高さまで、のぼりきった瞬間、
ふたたび、あのいやな音がする。
また、おしっこをちびりそうになる。

サイトに引きこまれると、参加者のみなさんの拍手が聞こえる。
みんな口々に「どうだった?」と、英語で聞きやがるが、
この白人どもめ! いまのおれに英語で答えさせるなぁぁぁぁ!

それでも、かろうじて「アイ アム エンプティ」とか、
わけのわからないことを口走る。

最初に到着したときは、ゆらゆら揺れて、恐かった
空中サイトだが、バンジー体験後は、
安定して天国のように感じられるのが、不思議だ。

その後、流れ作業のように人々が飛び降りていくのを眺める。
まるで飛び降りるのが、当たり前のような奇怪な空間である。

石川さんも飛び降りる。石川さんは足を固定されるまで、
恐怖を感じなかったそうだ。
地球でいちばん勇敢な編集者といってあげよう。


(左)これからジャンプする石川さん。(右)帰ってきた石川さん。

なんだか、インド系っぽい女性がひとり、
飛び降りるのを断念していたけれど、
ほかはおおむね、飛び降りていた模様。

ゴンドラで断崖にあるロッジに戻ってみると、名前を呼ばれる。
おれのジャンプを撮影したビデオがロッジ内のモニターに流れる。
すごいなぁ。まるで、なにかの物体のようだ。
物理法則に従い、ぶんと落ち、ぶらぶら揺れ、巻き上げられている。

クイーンズタウンでチェックインした際、
写真は注文していたのだが、ビデオは注文していなかった。
しかし、これを見せられたら、買うしかない。

買っちゃいました。帰路、ビデオ方式が気になるが、
ニュージーランドのPAL方式ではなく、
きちんと母国、日本に合わせたNTSC方式で記録されていた。
たいしたものである。

ほかにバンジーを飛んだという認定証もいただく。

振りかえって、あれこれ考えてみれば、おれにとって、
バンジーのいちばんの醍醐味は、落ちている最中ではなく、
そこにいたるまで、想像力、恐怖心などから生まれる
内心の葛藤そのものであったのだなぁ。

ジャンプそのものから、ことばになる表現の源となるものは
なーーんにもない。ほんとうに「アイ アム エンプティ」なのだ。
それもすごい話なんだけどね。

空前の体験を終えた一行を乗せたバスの中は
ある種の躁状態。ひたすらににぎやかである。
一生の語り草になる体験をしたのだから、無理もない。

クイーンズタウンに帰着後、
肉料理に辟易していた石川さんが和食を食べたいというので、
日本料理店「南十字星」にいく。

石川さんは、天ぷらうどんを食べ、ぼくはランチコンボ。
なにげなくオーダーしたランチコンボだが、
前菜がニュージーランドロール、
メインが素うどんと天丼という、炭水化物三点セット。

完食いたしましたが、なにか……。

その後、石川さんは、持ってくるのを忘れた靴下と
ナイトキャップがわりのウイスキーを買い、
ふたたび、観光案内所「the STATION」へ。

ショットオーバージェット
午後3時30分、「the STATION」で、
ショットオーバージェット」のチェックイン。

ショットオーバージェットは、かつてゴールドラッシュで
栄えたショットオーバー川を
高速のジェットボートでかけぬけるアクティビティだ。

せまりくる断崖絶壁ぎりぎりに、進む爽快感で、
クイーンズタウン名物となっている。

大型バスに20分ほど乗り、ショットオーバー川へ。
水に濡れるために使えないカメラや手荷物を
トレーラーに預け、ライフジャケットを身につける。

ドライバーのほか、乗員は10名。
老人を含んだ家族連れと同乗。

ほぼ6キロにわたるコースを、すごいスピードでかけぬける。
ドライバーが指をくるくると回すと360度ターンのサイン。
ボートが高速回転し、激しく水を浴びる。
ふたたび、スピードアップをすると、風速で水が乾いていく。

たしかにエキサイティングで、楽しいアクティビティだが、
あのしびれるようなバンジーを体験したあとでは、
刺激が足りない感じでもある。

順番が違ったのはちと残念だったね。

午後5時30分ごろ、クイーンズタウンにもどる。
そのまま20分ほど歩いて、「ROX」へ。

ゲストラウンジで、昨夜の札幌からの親子連れと
おたがいのバンジービデオを見せ合う。
親子はカワラウブリッジで43メートルバンジーを体験していた。

石川さんもゲストラウンジに合流したのだが、
どうにも眠たい模様。客室にもどる。

ぼくはスタッフのかなこさんといろいろ話す。
そのうち、かなこさんがノートパソコンを持ってきて、
いろいろと質問。

彼女がいま作っている
ウェブページのデザイン方法などをあれこれ伝授。

こちらも昼過ぎに食事を食べすぎたし、
石川さんはしっかり眠っているようだし……で、
ほかにやることがない。

午後9時くらいまで、そんな感じ。

凶悪なる寝起きパワー
客室にもどり、石川さんに声をかけるが、返事がない。
まるで、しかばねのようだ。
しょうがないので、風呂に入る。

客室のドアがノックされるが、
バスタブの中では動きがとれない。
……と、ものすごい怨嗟の声が上がる。石川さんだ。
石川さんは、けたたましい足音を立てて、ドアに行く。

明日の朝食の時間を聞きにきた女性の声に、
「7時45分!」と、壮絶に不機嫌な声で答えると、
ものすごい音で、ドアを閉める。

「なんか、すげぇなぁ」と
風呂の中で感じてしまった。

風呂から上がり、本を読んでいると、
石川さんが起きだしてきた。

「なんか、だれかが朝食の時間を
聞いてきたみたいなんですけど……」

どうやら、はっきり覚えていないらしい。

「オーナー夫人と、女の子(かなこさん)、どっちでした?」

「子供を連れてきた女性だったのは
覚えているんですけど……」

朝が来るたびに思っていたのだが、
午前中の石川さんは壮絶に不機嫌である。

あとでそのことをネチネチいっていると、
その不機嫌さは、社内でも有名で、
編集会議の朝、寝坊した際、家に電話をかけてきた
編集長を怒鳴りつけたという前歴があるらしい。

もちろん、途中でそれと気づき、
思いっきり謝ったらしいが……。

石川亨、午後から深夜にかけては、
最高にチャーミングな男なのだが……。

夜のレストランめぐり
さて、午後10時30分である。
さすがになにも食べていないければ、
夜も寝られないということで、
町の中心地に歩いていく。

しかし、午後11時のクイーンズタウンでは、
開いているレストランはほとんどない。
営業時間に「until late」と書かれていても
10時ごろには閉店している模様。

そんな中、なんとか見つけたのが、
インド料理店「Freiya Indian Restaurant」。

「やっぱりこのインディカ米がたまりませんなぁ」
どうやら石川さんは今回のニュージーランド旅行で、
この店のカレーがいちばん気に入った模様。

数時間前の不機嫌さはどこへやら、
ひたすらご機嫌な石川さんであった。

ROXへの帰途。昨夜ほどではないが、
空には美しい星が瞬く。

見上げた北の空、オリオン座の方向には流れ星。
中天で砕け散り、
割れた破片が箒のように軌跡を残していった。


(左)深夜11時、バンジーの夜。(右)おいしいカレー。


2003年1月9日(木)

ミルフォードサウンドオーバーナイトクルーズ
午前7時45分、朝食をとる。
今日はちと不安なことがあった。

これからむかう
「ミルフォードサウンドオーバーナイトクルーズ」には
予約のリコンファームが必要だった。

そこで、2日前、クライストチャーチのホテルから
オフィスのフリーダイアルに電話をしていたのだが、
クイーンズタウンでの宿泊先を「ROX」と伝えたところ、
「ROXにタクシーでピックアップに向かう」といわれていた。

さて、問題はおれの「ROX」の発音である。
2日前の日記を覚えておいでだろうか。
タクシーの運転手に「ROX」と伝えたところ、
ぜんぜんちがう場所に連れていかれたのだ。

口頭でダメだったのに、電話でうまく伝わっただろうか。
ニュージーランドでは、英語に自信喪失気味のおれだから、
ROXのご主人には、「もし、時間になっても来なかったら、
よろしくお願いします」と、チキンなお願いをかさねがさね……。

しかし、心配は杞憂に終わった。
タクシーは約束の午前8時20分にROXに到着。

なんだ、うまく通じてるじゃん。
じゃあ、前の運転手のヒアリング能力に問題があったんだな。
はっはっはっ……。

タクシーでWharfにあるReal Journeys社の
ビジターセンターに連れていかれ、チェックイン。

アメリカ製の大型バスに乗りこむ。
ルーフにも窓があり、後方席でも景色を見やすいように
楔形になっている独特のデザインのバスだ。
バスは途中のホテルで、何組かのゲストを迎える。

午前10時ごろ、蒸気機関車キングストンフライヤーの
発車を見届けるなど、バスは途中、
撮影ポイントや観光の要所に止まり、
ドライバーがガイドしてくれる。

車内でもいろいろ話をしてくれるのだが、
ドライバーのニュージーランドなまりは、かなりきっつい。
チャインジ、クライジー、アイト、トゥダイ、
サイル、ワイト、カイス、バイシカリー……。
これの意味がわかるだろうか。

それぞれ、チェンジ、クレイジー、エイト、トゥデー、
セール、ウェイト、ケース、ベーシカリーである。
また、エンジンはインジンとか、いっている。

日本語ネイティブが、東北弁を理解するように、
英語ネイティブなら、自然に理解できるのだろうが、
事実上、頭の中での翻訳作業が二段階になるので、
けっこうつらいものがある。

また、 ぼくの名前、Shibaoだが、
アメリカなどでは、シッベイオーと発音されることが多い。

しかし、ここ、ニュージーランドでは、
シーバイョーとかいわれてしまう。
そりゃ、いったい、だれのことなんだ!?
だいたい、aoの発音のどこに、「ョ」があるんだっつうの。

おまけに、このドライバーがすごいのは、
途中降車のたびに裸足になること。

「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督は
ハリウッドのインタビューの最中でも裸足になることで知られているが、
ニュージーランドの人間はいたるところで、裸足になるらしい。

驚くのは、舗装道路や芝生で裸足になるだけでなく、
砂利がゴロゴロあるようなところでも
平気で裸足になりやがることだ。

ニュージーランドは地形が
「ロード・オブ・ザ・リング」ってだけでなく、
住んでいる人間までが、裸足で歩くホビット族なのだ。

あれこれ書いたが、ドライバーは非常にナイスガイだった。
環境と生活に関すして独自の意見を持っているし、
われわれが日本人だと知ると、
12月中旬、このバスに皇太子夫妻がお乗りになったことを
教えてくれた上、プリンセスの英語はとてもうまかったとリップサービス。
「彼女がもと外交官だった」と、いい気になって説明するおれ。

そうか。このバスは宮内庁御用達だったのか……。

これからむかうミルフォードサウンドは
クイーンズタウンの西にあるのだが、
途中にある山脈を迂回するため、
Uの字を逆からたどるように進んでいく。

ドライバーの話によると、
このあたりの景色は、「ロード・オブ・ザ・リング」の
借景として使っているらしい。
なるほど、映画の中で見たような景色がつづく。

 
(左)キングストンフライヤー。(右)テ・アナウの店。

 
こんな景色がずっと続く。

午前11時40分、マナポウリのビジターセンターで、
ダウトフルサウンド方面のクルーズに出かける客を落とし、
正午から12時45分ごろまで、テ・アナウで食事休憩。

ぼくらは「Pop Inn Cafe」で食事をとる。
ぼくはBLTサンド、石川さんはフィッシュ&チップスをいたく気に入り、
ビネガーをたっぷりかけて食べていた。

ここで、同じバスに乗り合わせた日本人女性と同席する。
彼女もやはり札幌から来ていた。
ニュージーランドは札幌のメッカですか。

あとで、石川さんが「先生でしょ?」と聞いたのだが、
ずばり正解。冬休み中の小学校の先生だった。

「Knob's Hutt」でトイレ休憩。
「The Divide」で、バックパッカー風の
女の子たち、4人をピックアップ。
午後5時ごろ、ミルフォードに到着した。

 
つまり、氷河に近い。

 じつはこれも氷河。上にいるのは人間。

  
すさまじい空と大地。

今日はこれから、
ミルフォードサウンドオーバーナイトクルーズ。

南半球で最も壮大なフィヨルドとして知られる
ミルフォードサウンドを遊覧航海した上に、
船上で一夜を過ごすのだ。

オーバーナイトクルーズに出かける船は三種類ある。
ぼくらの船は「ミルフォードマリナー」という、
一番のクオリティの船だ。

ほかに中クラスの「ミルフォードワンダラー」、
そして最小の「フレンドシップ」は12人の定員。

バスに乗り合わせた乗客で、
「ミルフォードマリナー」に乗ったのは、ぼくと石川さんだけ。
ほかは「ミルフォードワンダラー」や「フレンドシップ」に乗った模様。

「ミルフォードマリナー」は、客室が一番広く、
各客室にはツインかダブルのベッド、シャワー付のバスルームがある。
清潔な室内は、インテリアも上品にまとめられている。

チェックインもボーディングもわれわれがいちばん最初だったが、
出航時間ぎりぎりになって、ぞろぞろと団体客がやってきた。
みんな同じツアー会社のバッグを抱えている。
 リタイアしたような年配の客ばかりである。

あとで話をしたのだが、
ヨーロッパ各地やオーストラリアからの
観光客が多い。ニュージーランド全土を
周遊するツアーの客らしい。

まずは、メインダイニングでブリーフィング。
およそのスケジュールや注意をユーモラスに話してくれる。

埠頭を出たマリナーは湾内をゆっくり進む。
ガイドをする船内放送を聴きながら、
甲板上で、景色を楽しむ。

峡谷を吹き抜ける風が恐ろしく強い。
南極からの風だろうか。油断すると、よろけてしまうほどだ。
クイーンズタウンまでは好天で油断していたのだが、
さすがにこちらはちがう。

石川さんの調べたところによると、
年間の降雨量は屋久島に匹敵するとのことで、
いま、雨が降っていないだけでも、もうけものである。

さまざまな景観はとにかく圧倒的。
水上に目を凝らすと、イルカやらアザラシやらが、
魚を追ってもぐったり、船と競争したり。

タマちゃんならぬミルちゃん(?)の団体も発見。
船内放送で、水上のアクテビティをすると案内があったので、
客室で眠っている石川さんに声をかけ、後部甲板に出る。

 
(左)ミルフォード・マリナー。(右)客室。

 
(左)フィヨルドの中に出航。(右)船上の風景。

サンドフライとカヤックで……
アクティビティには二種類ある。
20人乗りのモーターボートで、湾内を周遊するもの。
そして、一人乗りのカヤックだ。

ぼくらはカヤックをチョイス。あまり考えないまま、
カヤックに乗りこんだのだが、
パドルをこぐと、蛇行しながらもなんとなく進んでいく。

楽しいと言えば、楽しいのかな。
ただ、恐るべきはご当地名物のサンドフライだ。
ショウジョウバエよりやや大きいくらいの吸血ブヨだ。

人間の体温だか、呼気に反応するのだろう。
カヤックをこぐ、こちらをめざして、大量にたかってきやがる。
刺されると、かなり痒いという話も聞いた。

せっかく、虫よけスプレーをもってきているのに、使い忘れていた。
カヤックをこいでいるのか、目の前のサンドフライを
はらっているのか分からない。

15分ほどカヤックをこいでから、帰船。
「どうだった?」と聞くツアーディレクターに
「サンドフライが多すぎるよぉ」と泣き言をいうと、笑われた。

客室にもどり、手足を見ると、数ヶ所かまれていた。
日本に帰って一週間たっても、まだ、あとが残っている。
痒さは心配したほどではないけど……。

ディナーはスープ、オードブルにつづいて、
メインの肉料理はバフェ形式で、とり放題という
豪華なメニュー。石川さんは不満のようだが、
おれには、「まぁまぁ」の味。

同席したのは、イングランドからやってきた二組の夫婦。
とりあえず、こういうときの話題は、サッカーとなる。
だが、それほど、サッカーが詳しくないおれは、
石川さんの助けを借り、雑談。

あとは高い税金の話とか、イギリスの経済の話とか。
イングランドなまりなのか、彼らの英語も「ei」が「ai」。
わざとらしく、EIと発音したとき、それはAIだと、教えていただく。

食後、フィヨルドの中央にある水中展望台に
オプション料金で入れたのだが、
彼らとの話の中で、タイミングを逃してしまう。

食後、船室で石川さんと酒を飲みつつ、
修学旅行ノリで何時間か話す。

深夜、だれもいないデッキに上がってみると、
まさに、ぬばたまの闇……。
光も音さえも、闇の中に吸い込まれてしまう感じ。

 
(左)複雑な地層の岸壁。(右)氷河から溶け出した水は独特の色。

 
(左)氷河により侵食された峡谷。(右)太平洋。


2003年1月10日(金)

ミルフォードの朝
午前7時、メインダイニングで、
コンティネンタルブレックファースト。

朝食後、ぼくは甲板で岸壁を滴る壮大な滝を見たり、
アザラシを目で追ったり……。
風は昨夜ほどではなく、気持ちのいい朝。

石川さんは接岸するまで、客室のベッドで
ずっと眠っていた。いくら寝ても眠たいらしい。
時差ボケの一種だろうか。

接岸したときに、声をかけると、
あわてて飛びだしてくる。

午前10時、ミルフォードのビジターセンターにもどる。
昨夜、同じバスに乗り合わせ、
ちがう船に乗った、同年輩のイギリス人夫婦に
「そっちはどうだった?」ときかれる。

「料理なんかはうまかったけど、歳をとった人が多くて、
ぼくらが多分、最年少だったよ」

「そうか。こっちの船はみんな若くて、
ぼくらが最年長だったなぁ」

うまくいかないものですなぁ。

帰り道、バスは1、2ヶ所、停車し、
軽い散歩程度のトレッキングをする。

石川さんは、このたびのあいだ、ずっと禁煙を続けてきたが、
いつでもタバコを吸わずにすむとわかると、
安心して、吸いたくなったとのことで、
昼食休憩のテ・アナウで、
1000円近いマルボロを買い、吸っていた。

クイーンズタウン帰着したのは午後3時。
石川さんがコーヒーを飲みたいと言いだす。
しかもおごるという。「NAFF CAFF」なるカフェで、
エスプレッソを2杯たのみ、外の席へ。

どうしたのかなと思っていると、タバコを吸い始めた。
一度吸い出すと、もはや習慣が戻ってきたのだろう。
ニュージーランドのタバコは高く、
パッケージには恐ろしげな警告の文字が書いてある。

 
(左)朝、晴れ上がったミルフォード。(右)滝に接近。

 
(左)早朝トレッキング。(右)人間の手が触れないような川。

キウイ&バードライフパーク
一昨日、停電のために入れなかった
ゴンドラそばの「キウイ&バードライフパーク」へ。

ニュージーランドの国鳥ともいうべき、キウイは
夜行性で、神経質な鳥である。

その鳥の行動を観察させるため、鳥舎内は外光を遮断し、
照明を使って、12時間、昼夜をずらしている。
暗い中、徐々に目を慣らしていく。

なるほど、キウイが動き回っている。
鳥舎はけっこう広く、2棟あり、全部で何匹のキウイがいるのか、
よく分からないが、地面の餌を求めて、
あちらこちらを動き回るキウイを4匹観察。

このシチュエーションで見るキウイは
かなり不気味な鳥である。
あまり家で飼いたいとは思わない。

ほかにもパーク内には、キアや、オウム、フクロウ、カモなど、
ニュージーランド固有の種が数多く飼われている。
地味な鳥が多くて、ちょっと刺激に欠ける。

そんな中でも石川さんはカモの餌を買い、
手のひらからカモに餌をあたえていた。
妙に楽しそうである。

しかし、石川さんの幸せは、ここまでだった。

 
(左)キウイ&バードライフパーク入口。
(右)恐竜の生き残りといわれるムカシトカゲ「トゥアタラ」

 
(左)山の道化師、NZ原産のオウムKEA。(右)鳥となじむ石川さん。

不幸の連鎖
まず、2日前のバンジーの際、
スタッフが撮影してくれた写真を引きとるため、
観光案内所「STATION」にいってみる。
ここで石川さんがデイパックの中をがさごそとかき回し始めた。

どうやら、写真の引き換えカードがみつからないようだ。
10分ほどしてなんとか見つかり、無事にひきかえ完了。
「いちばん、わかりやすいところに入れていたのに……」とは、
石川さんのことば。

ROXをめざして歩いているうちに、雨が降り始めた。
僕は自分のデイパックの中から、レインウェアをとりだした。
ミルフォードサウンドで、不意の雨に備えていたものだ。
ミルフォードサウンドでは、雨にたたられることはなかったが、
こんなところで役に立つとは思わなかった。

石川さんも同様にデイパックの口を開け、大きく叫んだ。

「あ! 船に忘れてきちゃった」
朝、あわただしく下船しているときに、忘れてきたのだろう。

石川さんはペンションまでの20分を
雨に打たれて歩いていった。

そして、最大の悲劇が訪れる。

「ROX」で、暖かくむかえいれてもらい、
一昨日と同じ部屋に通してもらう。
預けておいたスーツケースが部屋のクローゼットに入っている。
「帰ってきた」って感じかな。

ここでも石川さんは、
デイパックや服のポケットをあらためはじめる。

「な、何をお探しですか」
おそるおそるたずねてみる。

「スーツケースのカギがないんですよ」

うひゃああああ。

石川さんのスーツケースは頑丈なハードケースである。
カギがなければ、開けるのには難儀する。ケースの中には、
着替えや撮影済みのフィルムが入っている。

「もしカギが見つからなかったら、スーツケースをこじあけます!
だって、開かないより、そうやったあとで、
ガムテープで縛って閉めたほうがいいんですもん」

念のため、もう一度、全部を探したが、
やはりカギは見つからない。

意を決して、オーナーに工具を借りる石川さん。
工作作業のため、スーツケースをテラスに持ち出す。
カギはマグネット式で、鍵穴はない。
あれこれ、いじったあげく、ハンマーを打ち下ろす。

 ぼくはその姿を撮影して、ゲストラウンジで、
のんびりとコーヒーを飲む。
「ROX」ではコーヒーやクッキーが自由に楽しめる。

 20分後、げんなりした表情で、
石川さんがラウンジにやってきた。

「すみません。無理でした」

スーツケースは、あまりにも頑丈で、
あれこれやっても手に終えなかった模様。
残るは見るも無残な工作あとのみ。

味方としては最高に頼りがいのあるスーツケースだが、
敵にまわすと恐ろしい。

「あきらめました。
カギを壊した跡はガムテープで隠して、
飛行機に乗ります」

着替えは、宿で洗濯機を借りて洗うことにするという。

「すみません。洗うと、ズボンがなくなっちゃうんで、
なにか貸してくれませんか」。

パジャマがわりに使っていたショートパンツを貸してあげる。
これで石川さんとは、パンツ兄弟である。

雨は降り続いている。
タクシーを呼んでもらい、ワーフカジノのそばにある
「Memories of Hong Kong Chinese Restaurants」へ。

店内には日本人の従業員が数人おり、
ニュージーランドのビールに辟易していた石川さんは、
「一番しぼり」を堪能。ぼくは焼酎のロックを飲む。

景気づけに時価のフカヒレスープを食べるが、
値段ほど、うまくはなかったかな。
最後に出てきた五目チャーハンは、
ミックスベジタブル入りのお袋の味って感じ。
全体に一昔前の中華料理店って感じだった。

雨の中、歩いて、ROXにもどる。
ゲストラウンジには、かなこさんのほかにふたりの女性。
おふたりは聴力がないものの、唇は読める。
いろいろとおしゃべりをする。

ふたりとも、すでにミルフォードトラックを歩き、
明日はぼくらと同様に134メートルバンジーに挑戦するとのこと。
あんたたち、ほんとにまぁ、勇敢だよ。

客室にもどり、寝る準備。

「あいたぁ!」と、石川さん。
「今度はどうしたんですか」
「目覚まし時計を船に忘れてきました!」

石川さんってば、
いったい、どうしちゃったんでしょうか。

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