【読書】「カジノのイカサマ師たち」
「カジノのイカサマ師たち」リチャード・マーカス著 真崎 義博訳 文春文庫
日本ではパチンコ、パチスロ、競輪、競馬……。ほとんどのギャンブルをやらないおれだが、mixiでは、「ラスベガス」コミュの管理人をやっているくらいだから、海外のカジノは好きである。
ハイローラーとはとてもいえないが、ラスベガスの巨大ホテルでブラックジャックや、クラップスを通してなされる、ある種のコミュニケーションが好きなのだ。
そして、映画といえば、「スティング」や「グリフターズ」など、だまして、だまされて、まただますコンゲームものが上映されると、万難を排して見にいっちゃうおれだ。
そんなおれにとって、「カジノのイカサマ師たち」は、期待以上に楽しいノンフィクションだった。作者=主人公が四半世紀におよぶ、カジノでのイカサマ師歴を語る、ありそうでなかった作品だ。
1976年、ニューヨークから一獲千金を夢見て、ラスベガスに乗り込んだ21歳の主人公。強運のもとに文字通りのアメリカンドリームを垣間見るものの、翌日には運に見離され、素寒貧のホームレス。
生きるために、カジノディーラー講座にもぐりこんだ主人公は運良く、ディーラーとしてカジノに就職する。ある日、彼に声をかけてきたのは、名うてのイカサマ師グループのリーダーだった……。
イカサマの手法はパストポスティングといわれるもの。ルーレットやブラックジャックで出目が確定した瞬間、自分のかけていたチップをすりかえるというものだ。
たとえば、ルーレットの赤に5ドルチップ3枚を積み重ねて、賭ける。出目が黒になれば、そのまま負けてもかまわない。しかし、当たり目の赤が出たら、3枚の5ドルチップを、5ドル、100ドル、100ドルの3枚にすりかえる。
ディーラーには一番上の5ドルが見えているだけだから、5ドル×3枚で、15ドルの賭け金と一瞬勘違いする。ところが、すでにすりかえられたチップは205ドルになっているわけだ。50%の勝率のゲームで、負けたときは15ドルのロス。勝ったときは205ドルをゲット! これがパストポスティングの基本だ。
出目が確定したあと、ディーラーの目をそらす役目の人間、全体を監視して、異常がないかどうかをチェックする人間、実際にすり変える人間、そして、自分が勝ったと主張する人間。これだけの役割を分担して仕事をする。このあたりはまさにコンゲームのおもしろさ。
さらにつぎつぎと披露され、新たに開発されるイカサマの技術は、ディーラーとイカサマ師との人間心理のひだをついた妙を見せてくれるし、カジノ側が雇った探偵社の人間との戦いの緊張感も味わえる。
シザースパレス! MGMホテル! ミラージュ! フリーモントストリート! 一度でもラスベガスを訪れた人なら、よく知っているホテル&カジノを舞台に、さまざまなイカサマの手法を繰り広げるグループの活躍。このあたり、ラスベガス好きにはたまらない。
賭博ものとして、「麻雀放浪記」のロマンティシズムや、「真剣師 小池重明」のようなドラマはないのだが、大いにイカサマをやって、高級リゾートで大いに楽しむ作者の陽性のノリは小気味よかった。この陽気さは、作者自身が一度も刑務所に入ったことがない経験から生まれるのかもしれない。
さらに第二次世界大戦後、巨大カジノとともに生まれたイカサマ師たちの技術史(!)が、カインとアベルのような兄弟のドラマとして描かれていたり、アメリカのみならず、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリアのカジノを荒らして歩くツアーは、浅田次郎の「カッシーノ1・2」に匹敵する楽しさだし、読みどころは満載である。
このつぎ、ラスベガスに行くときは、いままでと違った目でカジノテーブルを見そうだなぁ。
| カジノのイカサマ師たち | |
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