【日常】となりの「キスイヤ」
本とトイレットペーパー18ロールを買うために、近所へ。買いもののあと、スターバックスで「本日のコーヒー・グランデサイズ」を飲みながら、買った本を読んでいると、隣の席からこんな声が聞こえる。
「あなたがうちの娘と別れることはもう前提条件として、変わらないことだというのはいいね。当然、これから付き合うこともないし、会うこともないわけだからね」
それとなく、声のする方に目をやると、シンプルなデザインのポロシャツで痩せた身を包み、総白髪におしゃれなメガネの初老の男性が話している。その相手は、金色に髪を染めたスタイルのいい若者。20代半ばくらいだろうか。ほかに立会いをたのまれたと思しき、初老の男性がもうひとり。
「その上であなたに聞きたいんだが、別れると決めたあと、娘に金を返せというのは、どういう意味だね。私たちの世代の常識では、ちょっと考えられないんだが……」
ここではじめて、若者は口を開く。
「最初からきちんと説明させていただきますから、聞いてください」
かなりしっかりした口調である。彼自身の経済状況を前提条件で説明しつつ、パチンコ代や携帯電話料金で、彼女がどれだけの借金を作っていったか、きちんと説明していく。店内の喧騒の中、すべてが聞きとれるわけではないが、若者の話を聞いて、父親の口調が変化したことはしっかりわかる。そして……。
「……。彼女には、そのバイトをやめてほしいといったんですが……」
おそらく、彼女は、そういったサービス業に就いていたのであろう。そのことを若者から聞かされた父親のショックはいかばかりか。聞きとりにくい環境だったから、前後の文脈はわからなかったのだが、なにもそれを父親にいわなくても……とは、思った。すべてを聞き終えたと判断した父親。
「あなたの話は、きちんとわかりました。ちょっと娘の話も聞いた上でないと、どうするかという判断はできないが、かならず連絡します。それも1週間とか2週間じゃなくて、早めに連絡しますから」
最終的に父親の口調は変わり、話そのものは10分ほどでかたづいた。世の中には「よくある」話なんだろうけど、午後2時過ぎのスターバックスで、うっかり集中して聞いてしまった自分も相当にせつない。みんな、がんばろう。
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