【映画2006】サンキュー スモーキング
日比谷シャンテシネ1にてSRD鑑賞。
アメリカ・タバコ業界を代表するPRマンにして、ロビイストのニック・ネイラー。歴史上のどんな人物よりも多くの人間を殺したタバコを擁護する立場の人間だ。
テレビの討論番組で、タバコを吸って肺癌になり、余命数ヶ月を宣告された少年といっしょに登場する。
「われわれはこの少年が死ぬことを望んではいません。なぜなら、少年はわれわれの顧客だからです。逆にタバコの害を糾弾する連中はどうでしょう? 自説の正しさを証明するために、この少年の死を望んでいるのです!」
タバコがよくないことはだれだって知っている。そして、そのタバコを擁護するのが最高にチャーミングかつ頭が切れる男だというのが、このコメディのすばらしさだ。
一昔前ならブラックジョークとか、毒のあるコメディといわれるだろう内容になるのだが、この映画にはそういった笑いにつきものの、諧謔、残酷、シニカルさといった要素をみごとに排除し、その上でなお笑わせてくれる。
これ、ほんとうにすごいよ。
今回はタバコを擁護する話だけれど、銃だろうが、アルコールだろうが、ハンバーガーだろうが、未成年の性行為だろうが、進化論だろうが、毛皮だろうが、淫行だろうが、耐震偽装だろうが、なんだっていいのだ。「ことば」と「キャラクター」で大衆と情報を操作する男の活躍する場として、タバコ産業が選ばれただけである。
未成年者に対する禁煙キャンペーンのために大金をかける一方で、新作ハリウッド映画に喫煙シーンを挿入させるために、更なる大金をかける。現代のハリウッド・タイクーン役のロブ・ロウなんてもう最高だ!!
物語の構造として巧みなのは、ニックと前妻とのあいだの息子の存在だ。息子のことばにより、尊敬されるヒーローとしての父、ニックを際立たせている。なんだか「アラバマ物語」みたいだ。
さらにモッズ(Marchant of Death:死の商人の略)特攻隊といわれるロビイスト3人の集まりも楽しい。タバコ業界のニックのほかに、酒のロビイスト、銃のロビイストの三人が高級レストランで情報と愚痴を交換しあう。
酒業界、銃業界、それぞれが年間どのくらいの人間を殺したかを聞いて、「その程度か。こっちは一日1,200人。桁ちがいに多い。こっちのほうがもっとたいへんだ」と愚痴ったりもする。
情報の読解力をテーマにここまでわかりやすく笑えるように作られたコメディはめったにない。リテラシー・コメディといってもいい。
この作品が巧みに告発しているのは、政府や企業ではない。情報に踊らされやすいわれわれ大衆なのだ。ほっぺたにびんたするようなやり方ではなく、大いに笑わせて、あれっと思わせるやり方で、見たあとに自分の頭で考えることを促している。
映画の中では擁護派も含めて、だれひとりタバコを吸っていない。このあたりの巧みさにも感心した。善悪ともっともらしさはまた、別の問題なのだ。
監督のジェイソン・ライトマンはアイヴァン・ライトマンの息子なのか……。「ゲド」の人や「ロワイヤル」の人とは、くらべものにはならないうまさだね。ていうか、父親の作品よりもこっちのほうが、はるかに好ましい。
エンドロールで流れる「Greenback Dollar」のマッチングもみごとだったが、全編、音楽の使い方が気持ちよかった。
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