【映画2009】誰も守ってくれない
ワーナーマイカルシネマズ板橋4番スクリーンでドルビーSR鑑賞。今回はネタバレです。
凶悪犯罪加害者の家族は自殺する可能性がある。そう聞くと、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の例を思い出すが、そういった家族を守るために派遣される警察官がいるのだという。おれは知らない。でも、「踊る大捜査線」の脚本を書いた際のリサーチで君塚良一がいると聞いたそうだから、きっといるのだろう。まぁ、君塚良一がそういって監督と脚本をした映画である。
オープニングはすばらしい。捜査令状を持った刑事たちが犯人の少年宅に踏み込むシーンと、犯人の妹が学校でクラスメートと戯れるシーンを交互に撮るあたりは、かなり期待させてくれるものがあった。リベラの音楽とサイレントの映像の組み合わせは美しかったが、たぶん、ここで力尽きたのだろう。
そこからもう、だめ、だめ、だめの連続である。セミ・ドキュメンタリータッチを強調するかのように無駄に震える手持ちカメラや、役者たちの芝居の温度差、モントリオールの映画祭で賞をとったとは思えないあらい脚本にめまいがする。
震えたり、ステディカム使用で震えなかったり、固定して撮影してたり、カットごとで、震える意図、震えない意図が一貫していない。「最近、ハリウッドじゃ、こういうのが流行しているみたいね。POVとか、そういうの。深作もやってたじゃない。じゃあ、それっぽくしようよくらい」で、部分的に手持ちにしたのはいいが、なにかの病気みたいなサイクルでカメラを揺らしているから、気持ち悪くて仕方ない。
しかもそのカメラのフレームの中に、日本式大芝居役者が混在しているから、全体が悪趣味なパロディのようになっている。
混乱の中、事情聴取の前に豊島区役所の職員がやってきて、家族が何も理解しないうちに家族保護と称して、離婚届けを提出させ、その直後に婚姻届を出させる。これで旦那の姓から女房の旧姓へと家族の名前を変えるのだそうだ。そんな押し付けがましい家族保護をやっておきながら、母親は取り調べ前、何十人もの捜査員がいる自宅のトイレで首をくくって死んでしまう。全員の目は節穴でしょうか。
最初の見せ場は被害者の妹である志田未来を移送中のカーチェイスシーン。東池袋界隈で、迫力のあるシーンを展開する。もうドキュメンタリータッチはどこへやら……って感じだ。ここだけ捜査線が踊っているよ。いくら加害者の妹だからって行って、警察が護送する15歳の少女に対して、交通法規を破ってまで撮影したがるマスコミってどこだよ!
普通、加害者の母親が自殺したのなら、志田未来に万一のことがあってはならないと、警護も厳重になるはずなのに、佐藤浩市はたったひとりで彼女を守りつづける。重要な目撃証言を持っている志田未来をわびしい自分のアパートに連れ込んだり、自分がカウンセリングを受けている精神科医、木村佳乃の元に連れて行ったりする。
だいたい佐藤浩市はPTSD持ちの中年男である。以前、おとり捜査中の犯罪容疑者が、ちょっと目を話したすきに少年を刺し殺すという事件に発展して、心に深い傷を負っている。そんな男に重要な手がかりを持っている15歳の少女を預けるなんて、どこの国の警察だろう? 娘を親から切り離し、中年男のアパートに預けるなんて無法がどうして許されるのか。
それだけデリケートな状態であるにも関わらず、志田未来には自分の携帯電話を渡してしまう。その携帯電話から友人経由で、母親の自殺が伝えられるのだ。おまえらみんな、どこのバカだよ。
さらに佐藤浩市の上司の佐野司郎は、自分の昇進のために志田未来を東京から地方へ、おまえひとりで移送しろと命じる。警察もずいぶんと人手不足だなぁ。
新聞社は事件の翌日に、志田未来を護衛する警察官、佐藤浩市の過去を暴き立て、何段にもわたって糾弾する。
さらにネットが暴走する。このあたりの描写は「電車男」の裏バージョンである。さまざまなキーボードがかちゃかちゃと叩かれる演出と、AAのオーバーラップはもうやめようよ。祭りの中で、加害者の顔写真がうp(古いね)されるのはありがちな事態だけど、護送する警察官、佐藤浩市の家の住所まで上がるのはどうだよ。ネットの暴走を描きたいのなら、もっとネットを勉強してから描いてほしい。
佐藤浩市は志田未来を西伊豆の寂しい海岸に立つペンションに連れて行くのだが、ある理由で、その住所がばれてしまう。そのあげく、ペンションの前にはカメラを持った"ねらー"風な野次馬が群れなしている。だいたい加害者の妹をここまで追及するネットの暴走なんて、どこの2ちゃんねるの出来事だよ。
さらに志田未来はある計略に引っかかって、盗撮用カメラが設置されたラブホテルの一室に誘導されてしまう。ライブカメラでニコニコ動画風のコメントの洗礼をあびる志田未来。そこにやってきた佐藤浩市がカメラとデータ送出用のノートPCをひきずりだす。と、3人の男たちが部屋に乱入。佐藤浩市をぼこぼこにする。「これ高かったんだよ」と、機材を佐藤浩市から奪うという信じられないシーンが続く。
加害者の妹をライブカメラで撮影するために、刑事に暴行を働けるネット住人て、どこにいるのでしょうか。
最後に志田未来は兄の犯行を裏付ける重要な証言をするのだが、そこに至る心理的な流れが、じつはまったく描かれていないため、おれは気を失いそうになったよ。志田未来が犯人の兄との交流を回顧するのは、ここのシーンだけなんだよ。そっちの伏線はいっさいないんだよ。
「まぁ、いろいろあるけど、ひとりでがんばれ(意訳)」と、少女にいう大人はいかんでしょう。「まぁ、いろいろあるけど、お兄ちゃんが犯人です(意訳)」という少女も人間らしい思考力とは思えない。
とにかくこの映画に出てくる大人はひとりとしてきちんと仕事をしていない。ひとりとして想像力を持たない。ひとりとして相手のことを考えない。映画の歴史でいえば、「天国と地獄」や「野良犬」のころの刑事たちはほんとうによく考え、ほんとうによく仕事をしていた。
加害者家族の保護というきわめて現代的なテーマを描きながら、「誰も考えてくれない」ために、単なるメロドラマのネタにしてしまった罪は重い。まぁ、「考えさせられる映画でした」と書いて、考えるのをやめるお客さんにはちょうどいいのではないか。
インターネットは怖いなあ(棒読み)。
それにしてもいろんな映画に出ては無駄に美人な木村佳乃だが、今回も意味不明にフランス語を話すおしゃれ精神科医を演じる。その後、どういう風に脚本にからむかと思っていたら、単に美人担当なだけだった。お疲れさまです。このひとはどの映画を見ていても出ているだけなのだ。
キャスト 佐藤浩市 志田未来 松田龍平 石田ゆり子 佐々木蔵之介 佐野史郎 木村佳乃 柳葉敏郎 他


