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【映画2009】ウォッチメン

 ワーナーマイカルシネマズ板橋4番スクリーンにてSRD鑑賞。

 宣伝では「歴史の闇に潜む秘密」にウォッチメンが絡むみたいなことをいっているけれど、全然ちがう。歴史の表にヒーローの存在があった上で、「Mr.インクレディブル」のようにヒーローが法律で禁じられた世界を描いた作品である。


 なにより犯人探しの推理小説であり、ポリティカルフィクションであり、SFであるグラフィックノベルをセックスとバイオレンスとユーモアを増量させて、ていねいに映画化している。原作の要素を2時間45分の尺にぎっしりと詰めこんだ濃密な構成に驚いた。原作コミックで見覚えのある構図がたて続きに登場するし、原作の独白シーンまでそっくり引用されている。

 数年前に原作を読んだときはつまりまくった文字と、アメコミ風のコマ割りになかなか慣れずに、呻吟しながら読みすすめたものだ。かなり後半になって、真相が見えてきたあたりで、読みにくかったすべてが有機的につながったとき、俄然、おもしろくなった。読了後、ただちに再読して、細部まで味わったものだ。

 映画で感動したのはオープニングロール。この映画で描かれるもうひとつのアメリカ史を追っていくのだ。ニクソンが三選され、アメリカはベトナム戦争に勝利し、スーパーヒーローの存在で冷戦のバランスがとられている。そして、マスクとタイツのヒーローが当たり前に存在しているし、有名なアーティストや政治家と彼らが絡んでいる。そうった歴史的シーンををボブ・ディランの「時代は変わる "The Times They Are A'Changin'"」にあわせて見せていくのがすばらしすぎる。音楽の使い方はいろいろ効果的で、それだけでもコミックから映画化された意味がある。

 ウォッチメンに登場するヒーローたちは、さまざまな正義の象徴である。正義とともにあるセックスの快楽、暴力の至福も含めて原作コミックが容赦なく描いたものを黒いユーモアとともに映像化したシーンのいくつかは、もう楽しくてたまらなかった。

 ヒーローものでは公然のタブーだった政治や戦争の話をこれほどバカ正直に描いた作品はない。日本型のリアルに悩むヒーローが引きこもっていくのに対して、アメリカ型のリアルに悩むヒーローは正義という信仰のもとに、破壊的行動をしていくのはおもしろい。

 ちなみに原作から一箇所だけものすごく大きな改変をしているが、これは原作が作られた1985年ころと現代の時代背景の違いから納得がいくものではある。また、「博士の異常な愛情」や「地獄の黙示録」といった映画へのオマージュもある。

 コメディアン、ロールシャッハ、ナイトオウル、DR.マンハッタン、シルクスペクターといったヒーローたちのキャラクターは過不足なく描かれている。コメディアンやロールシャッハは本当にいい。DR.マンハッタンの性器はそれ自体が最高のブラックジョークだ。

 問題はオジマンディアスの描き方だ。かれのキャラクターや行動動機がきちんと描かれていないために、作品のテーマが浅いものになってしまった。

    

 ネタがネタだけに「ダークナイト」と比較されることが多いのだが、もう圧倒的に「ダークナイト」のほうが好きではある。それはつまり、ヒーローは何人も出てくるが、ヴィラン(悪役)は事実上、一人も出てこない「ウォッチメン」に対して、ジョーカーという悪、トゥーフェイスという振り子、バットマンという正義を効果的に配した「ダークナイト」のほうに"映画"を感じるからだ。悪役の不在が「ウォッチメン」の大きなテーマであるから、仕方がないんだけどね。

 押井守は「ダークナイト」よりおもしろいといったそうだが、なるほど、押井守がこだわりそうなテーマではある。原作には仮面をつけて戦うヒーローに対するリスペクトがあったが、映画ではその空気がみごとに拭いとられている。

 苦悩してもいい、ヒーローの意味づけが代わってもいい、しかし、ヒーローを求めて劇場に来た人々は、脱ヒーローの映画を見せられて失望するのではないだろうか。

監督:ザック・スナイダー 製作総指揮:ハーブ・ゲインズ/トーマス・タル 製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/デボラ・スナ イダー 原作:アラン・ムーア/デイヴ・ギボンズ 
キャスト ジャッキー・アール・へイリー パトリック・ウィルソン ビリー・クラダップ マリン・アッカーマン マシュー・グード ジェフリー・ディーン・モーガン 他
※こちらのエントリーもどうぞ。

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