【映画2009】昴-スバル-
ワーナーマイカルシネマズ板橋12番スクリーンにてSRD鑑賞。ネタバレだけどいいよね。
「どうして、こんなことをしたんだ!?」
「ははは。すべてはゲームだったのよ!」
そういえば「魔界塔士SaGa」でもこんなセリフあったっけ? 設定を消化しきれない脚本家が投げやりに書く「すべてはゲーム」パターンを21世紀になって、曽田正人の「昴」で見ようとは思わなかった。
とにかくダメ。端から端までぜんぶダメ。「SAYURI」から、「プルコギ」まで出演作品を選ばない桃井かおりが、こなれないダイアログの芝居をていねいに演じているが、水泡に帰している。
だいたい無闇な天才を描かせたら、天下一品の曽田正人の原作でありながら、黒木メイサの昴がまるっきり天才に見えない。
小学生のころ、昴は脳腫瘍で記憶障害になってしまった双子の弟のために、入院先に毎日通い、一日の報告を踊ってみせ、踊って表現する才能を開花させる。
これは原作のままなのだが、徹頭徹尾、踊りを観客に見せて納得させないこの映画では、ほんの短い猫や魚のまねをする程度の踊りしか見せない。これじゃ踊りが好きな頭の弱い子だよ。
脚本を書いた監督にはこのシーンの意味がまるでわかっていない。とりあえず、原作どおりに入れたはいいものの、あつかいかねた結果、ただの難病ものになっているだけなのだ。
母と兄弟を同じ病気で失った設定があるため、遺伝の可能性を示唆するセリフがあり、後半では、昴の記憶の一部がなくなるという部分があるのだが、そういった伏線のすべてが投げっぱなしで回収されていない。
もうそこから先は適当に原作をつまんでは、誤解して進めていくだけだ。昴はひとりで好きに踊っていたため、群舞をあわせることができない。「白鳥の湖」の群舞のオーディションで、周囲とリズムが半テンポ遅れていると指摘された昴は、なんの根拠もなしに「1週間待て」と言い放ち去る。
いい加減なことをいったはいいが、どうしていいかわからない。周囲の空気を読む能力に欠けていることを指摘された昴は、メガネのレンズをマジックで塗りつぶし、町を歩こうとしてはクルマで跳ねられそうになったりする。たまさか町にいた若者が週末のダンスバトルに招待される。
アメリカ帰りのすげえ(らしい)ダンサーに果敢に挑戦する昴。しかし、いまひとつ要領が悪い。そこに現われたのが、ものすごくていねいにたどたどしい日本語をしゃべるリズ・パークなる韓国系アメリカ人だ。もともと昴が踊りを見せる場末のキャバレーになぜか登場したり、謎めいたというより、意味不明の行動をとっている女だ。
このリズ・パークを演じるのはAra。お忘れでしょうか。「蒼き狼」に登場した韓国系女優である。AVEXが角川春樹とタイアップしたオーディションで選ばれた女の子だ。まあ、普通は忘れるよな。おれも忘れてた。しかしAVEXは忘れてなかった。思い出したように、ここで投入するのだが、彼女がたどたどしい日本語でえらそうなことをいうたびに、客席のもやもやが増えていく。
(もちろんAVEXだから東方神起とか、倖田來未とか、ぬかりなく入れている)
そういうアドバイスのおかげか、たいしたことがないアメリカ帰りの男にたいしたことがないダンスで勝利した昴。1週間後、なぜか開催してくれたオーディションで、みごとに役を射止める。白鳥の湖の群舞のひとりとして……。
そこまで迂回してプリンシパルでもソリストではなく、「コール・ド」(ワンオブ群舞)かよ。
あらゆることは、くどくどと説明してくれるのが、この作品だ。
公演当日に劇場に空席がひとつ、チケットを持っているはずの父親が来ていないのだ。舞台袖からそれを見た昴の悲しそうな顔。そこに「あら、昴さん、お父さんは来てないの?」と、たまたま通りかかった先生が追いうちをかける。
ばか。
父親は遅れて劇場にやってくるのだが、そのあと、父親と昴とのからみはいっさいない。ぼくたちはなにを見てきたのでしょうか。あの「来てないの?」の意味はなんでしょうか。
とにかくまともに練習するとか、一心不乱に踊るシーンが皆無なのだ。
原作ではローザンヌ国際バレエコンテストに出るのだが、こちらはなぜか、上海国際バレエコンテストに出ることになる。なにそれ? 有名なの? しかも当初はコンテストには出ないと公言していた昴が映画時間で5分くらいして、なぜか意味不明にもコンテストに出るとかたく決意しているのだから、昴はとことんバカだ。
桃井かおりも当初はコンテストのためのコーチを安請け合いするが、映画時間で2分くらいして、なぜか意味不明にも「コーチはやっぱりできないよ」と、断ってしまう。そこに現われたコーチが、筧利夫である。周囲に英語を話す人がいないのに、なぜか英語でしゃべったりするトンチキなコーチだ。
バレエの国際コンテストに出ようという昴に「おまえは、音楽に合わせて体を動かすことができない。音楽を聴いてないのが問題だ」と、言い放ったかと思うと、昴の目の前にCD10枚くらいをばら撒き、「これを3回ずつ聴いて来るんだ」と、宿題を出す。まるで、「1週間で背がぐんぐん伸びてくる」とか、「10日間で英語がぺらぺらになる」程度のお気楽さだ。それでバレエがうまくなるのなら、おれも聴くぜ!
原作とはまったくちがうパターンで天才を表現しているのでしょうか。イージーに練習して、上海に旅立つ昴。まぁ、「わはは。すべてはゲームだよ」とか、いろいろあったけど、あんまり意味がわからないまま、決勝にコマを進める。
決勝直前、上海の街を楽しく歩いていたとき、だれも何も言ってないのに、いきなり公衆電話に向かって話をすると、桃井かおりが死んだという知らせ。「私にあるのはバレエだけだ」という独白と、桃井かおりの喪失という、葛藤になりにくいものを強引に葛藤させ、ついでに雨の中、町を歩かせ、雨宿りができる場所はいくらでもあるのに、公園の柵の上で一晩を過ごさせて、風邪を引かせる。
そして、決勝戦。「高熱を発したものを舞台に立たせてはいけないという規定はないはずだ」という筧利夫の大雑把な強弁と、「私、踊ります」という根拠のないやる気、桃井かおりの喪失をどのように乗り越えたかの説明がいっさいないまま、舞台に行くと、「観客は私たちより、高熱の昴の踊りを待っているのよ」などと、たどたどしい日本語をしゃべる韓国系アメリカ人。
もうお願いだよ。説明はいらないよ。ぼくらにもその昴の踊りをじっくり見せてくれよという願いもむなしく、ちらほらと、黒木メイサの踊りが見えて、コンテストは終了する。
なんだか優勝したみたいだよ。だって、セリフでそういってたから。
それにしても黒木メイサ……。スタンドインも使っているとはいえ、それなりに踊っているから、かなり練習したんだろうな。ほんとにかわいそうに。
キャスト 黒木メイサ 佐野光来 Ara 平岡祐太 愛華みれ 前田健 筧利夫 桃井かおり 他


