【映画2009】真夏のオリオン
ワーナーマイカルシネマズ板橋6番スクリーンにてSRD鑑賞。
「亡国のイージス」、「終戦のローレライ」と続いた福井晴敏関連の潜水艦映画の中で、もっとも楽しめた。
ネット上では「乗組員の髪が長いのがおかしい」とか、帝国海軍の潜水艦長が30歳というのは若すぎるというツッコミが多いようだが、陸軍ではなく、海軍のサブマリナーであることや、戦争末期の人材不足を考えると、致命的欠陥としてあげつらうものではない。まあ、作戦行動中にもっとひげが伸びてもおかしくないと思うけれど、そこまで期待するのは本旨ではない。また、玉木宏のソフトでていねいな言葉づかいもキャラクターとして、受容できる。
橋本以行艦長をモデルにした作品として、よいバランスになったと思う。
みんながみんなすさまじい形相で暑苦しく戦うステレオタイプを期待する人には物足りないかもしれないが、渋面がデフォルトで、くどい戦争映画にくらべたら、はるかに上品でデリケートに考えられた作品だ。人間に対する知性、理性をきちんと信頼しているのが、すばらしい。なによりも玉木の細さは、個人的に知っている元潜水艦長に通じるものがあり、強烈なリアリティを感じさせてくれた。
映画の冒頭は「ローレライ」同様、戦争の遺物をもとに過去をひも解いていく展開だ。棒読みな北川景子、大芝居の鈴木瑞穂が言葉をかわすあたりで、「やっちまった」感が漂ってしまうのだが、そこさえ乗り越えれば、どっぷりと映画に没入できる。
全体の構成はそのまんま「眼下の敵」にならっているのだが、本家にくらべると、アメリカ駆逐艦側の設定の甘さが目立つ。駆逐艦艦長が戦域にとどまるのかという理由がわかりにくかったり、日本軍や戦争に対する思いが皮相的に見える。もう少し、立体的なエピソードを組み込むべきだったとは思う。
それでもこの作品が魅力的なのは、玉木宏演じる倉本艦長のキャラクター造形がしっかりなされているおかげだ。艦長の行動を描いたいくつかのエピソードの中でも回天乗員たちに対する肯定も否定もしない返答ぶりがみごとだ。人間魚雷「回天」キャリアとして作戦行動を行う潜水艦なのだが、いかに回天を使わないか、いかに特攻をやらせないか、生かすための工夫をめぐらす艦長の姿がこの作品のすべてなのだろう。
戦争に対する反感から、軍人の姿を野蛮な鋳型に嵌めたい人が多いことはわかる。その一方で過度に戦後の価値観を移植した戦争映画にも鼻白むものだ。が、この映画のバランスは絶妙で、わずか60年前に存在してもおかしくない男の姿を瑞々しく描いている。そして人を主軸としたドラマだから、だれかがスクリーンで泣き喚き、叫ばなくても、客席の涙を生むのだろう。
韓国であれ、中国であれ、アメリカであれ、そして、日本であれ、人が他国を憎み、嫌うのはおかしなことだ。人が人を嫌うのは自然な感情だ。だが、人が国を嫌うというのは、自然な感情とは思えない。国を嫌うと、人が見えなくなる。人が見えなくなると、悲劇が起こる。
「真夏のオリオン」のように人を見つめる戦争映画をみていると、ついそんなことを考えてしまう。
キャスト 玉木宏 北川景子 堂珍嘉邦 平岡祐太 黄川田将也 太賀 松尾光次 古秦むつとし 奥村知史 戸谷公人 三浦悠 山田幸伸 伊藤ふみお 鈴木拓 吉田栄作 鈴木瑞穂 吹越満 益岡徹 他


