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【映画2009】剱岳 点の記

 ワーナーマイカルシネマズ板橋7番スクリーンにてSRD鑑賞。

 明治時代末期、日露戦争直後の時期、陸軍参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)によって立山連峰で実際に行われた山岳測量を描いた作品だ。


 セリフやプロットなど、シナリオでいえば、甘いとしかいえない構成である。ステレオタイプな陸軍軍人がステレオタイプに功をあせる。まるでシュプレヒコールのように「民間人に負けるな」と言い立てる様子は、滑稽でさえある。また、十年一日の如く、待つ新妻を演じる宮崎あおいも、男ばかりの話に咲かせる花としてしか機能しない。

 民間人の山岳会に陸軍測量部が負けてはならないというモチーフはくどくどと展開されるが、キャラクターを浮き彫りにするような対立や葛藤はおざなりになっている。

 それでもこの映画はすばらしい。新田次郎原作で木村大作のカメラなんだから。

 1977年の「八甲田山」、1978年の「聖職の碑」と、ぼくが中学から高校にかけてつぎつぎと映画化された山岳映画。この時期、ぼくは映画を通じて、新田次郎に出会い小説を読んできた。そして、カメラマンの木村大作である。このころの自分には、撮影がだれであるかなど、まったく興味はなかったが、「日本沈没」、「八甲田山」、「聖職の碑」、「ブルークリスマス」、「復活の日」という当時の作品の数々は、映画をいちばん吸収していた時代の代表的なものばかりだ。

 そして、DVD「復活の日」の強烈なオーディオ・コメンタリーでふれた強烈なキャラクター。

すっげぇぇぇぇ! DVD特典のオーディオコメンタリーって
いろいろと聞いてきたけど、「復活の日」の
オーディオコメンタリーは、抜群におもしろかった。

「北野組の「BROTHER」が、日本映画ではじめて
ハリウッドスタッフと組んだなんていってるけど、
バカいっちゃいけないよ。20年前のこっちのほうが
はるかにすごいことやってるよ!」

もちろん、これは北野組作品への軽視ではなく、
自身の作品に対する圧倒的な誇りがいわせたものだろう。

オーディオコメンタリーは、ほんとに
「すごい」エピソードのオンパレード!

カナダ各地、アメリカ各地、中米各地、南米各地、
南極各地、日本各地で行われた壮絶な撮影の模様が
撮影監督、木村大作の口から流れると、もう……。

木村大作の口調がほんとうに小気味いい。
同席した故・深作欣二監督がかすんでしまうくらい。
プロ野球のピッチャーが何年も前の配球を覚えているように
撮影のとんでもないディテールが、つぎつぎにでてくる。

同じ原作である「さよならジュピター」との最大のちがいは
関係するスタッフがめざす「映画力」の差なのだろうね。
とにかく、木村大作、すごすぎ!

詳しく書きすぎるとネタバレになって
楽しさを奪うことになるから、あまり書けないんだけどね。
ほんとにすごいから、このDVDはマストバイといっちゃいましょう。

ちょっぴり残念なのは、角川春樹という名前が
かけらもでてこないこと。
いまの角川書店発売ということで、しょうがないんでしょうね。

 これは当時、オンライン日記に書いたことだが、その感想はいまも変わらない。

 あの時代、心に触れた数々の映像は木村大作のものだったのだ。そんな木村大作が山を撮るのだから、つまらないはずがない。

 もちろん映画という制約や雑な脚本のために、原作にあったディテールはかなり消失しているのだが、どこでもない劒岳を主役としてすえ、正面から撮影しているから、それをみているだけでたまらない感動となる。

 いくつかの伏線はひろわれないまま、映画は終わるのだが、圧倒的な山を見てしまえば、それさえもちっぽけな人間の営みに見えてしまう。かつての映画「復活の日」が、原作後半の展開を完全に消失させておきながら、草刈正雄が南北アメリカ大陸を踏破するだけで、えもいわれぬ感動を呼んだように、この映画にもそういう魅力がある。

   

 仕事として山を歩き測量という仕事をこなす浅野忠信は、その寡黙が山に対する畏敬となり、地元の案内人として誠実に測量タイを支える香川照之は、その謙虚さが山に対する姿勢となる。ライバルとして登場する日本山岳会の仲村トオルは、山に迷い込んだ明智小五郎@「K20」みたいだったが、それもまた、この映画のチャーミングさなのだろう。キャラクターそのものはかなり単純だが、若き測量士を演じる松田龍平の存在が映画をひきしめる。

 キャストを痛めつける雪崩、滑落、暴風雨もあり、見どころは多い。カモシカ、クマ、雷鳥が目を和ませる。

 森谷司郎なり、深作欣二なり、映画としてのエンジンの欠如は大きい。陸軍測量部と日本山岳会の登頂争いを中心にすえたことで、映画としては背骨がぐらついている。しかし、厳しい自然、人を拒む山の中に目的を持った男たちがいる139分は、豊穣なものだった。

監督脚本撮影:木村大作 原作:新田次郎 製作:坂上順/亀山千広 脚本:菊池淳夫/宮村敏正 美術:福澤勝広/宮村敏正 衣装:宮本まさ江 編集:板垣恵一 照明:川辺隆之 録音:斉藤禎一/石寺健一 
キャスト 浅野忠信 香川照之 松田龍平 仲村トオル 宮崎あおい 小澤征悦 井川比佐志 國村隼 役所広司 他
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