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【映画2010】抱擁のかけら

 ワーナーマイカルシネマズ板橋5番スクリーンにてSRD鑑賞。

 映画に淫するペドロ・アルモドバルが、映画への愛をさらに刺激的に作った作品だ。この映画をレビューするのはほんとうに難しい。

 過去の悲劇により人生を変えられてしまった男が、過去をとりもどすという構成なのだが、うかつに語ると楽しみをそいでしまうからだ。とにかく、映画好きを自認する人なら、見て損しない映画だから、これからネタばれするレビューを読むよりも映画館に駆けつけた方がいいよ。

 ペネロペ・クルスはハリウッド映画に出るよりも、スペイン映画、アルモドバル映画に出た方が、輝きを増す。ハリウッド映画のペネロペ・クルスは美というイコンになりがちなのだが、アルモドバル映画で、デリケートかつ大胆に描かれるペネロペ・クルスは、手触りのある人であるかのように、すばらしい存在感を見せてくれる。

 なによりも、なりたての女優という役なので、さまざまなシチュエーションの中で、さまざまな表情を観せてくれる。ペネロペカタログのようだ。

 「抱擁のかけら」は、14年前の事件により、映画と愛と視力を失った映画監督が、過去と向き合い、失ったものをとりもどす作品だ。事件のあまりの大きさにマリオという自分の名前さえ封印し、ちがう名前で脚本の仕事をしている。しかし、ある男の訪問をきっかけに、彼の時計はふたたび動き始める。かれがどれをどのような形でとりもどすのかが、感動を生む。

 美術がどれもすばらしい。セットやロケーションが饒舌なのだ。さりげないシーンで息を飲むような気づきがある。逃避行の中、ランサロテ島でロケされたシーンの数々はあまりにも豊かだ。まるでそこにいるふたりの心が現れているようだ。ふと思い出せば、文脈のちがうシーンがまったく同じ構図でとられていたりする。

  

 設定、シナリオ、映像、意図的な「重ね合わせ」があり、刺激してくれる。もっとあるのかもしれない。アルモドバル作品をみるときはいつも、スペイン語がまったくわからないことを悔しく思う。

 音声のないビデオ映像の会話で読唇術を使って読み解くシーンなど、映画的な仕掛けもふんだんにあり、それが愛の形をシンボリックに伝えている。主人公を含め、だれもが利己的なのだ。そして、だれもが残酷なのだ。その残酷さが取り返しのつかない悲劇につながる。

 「LOS ABRAZOS ROTOS」=「Broken Embraces」を抱擁のかけらと訳した邦題はうまい。そのかけらは紙焼き写真であり、フィルムであり、人生なのだ。

監督脚本:ペドロ・アルモドバル 製作:アグスティン・アルモドバル/エステル・ガルシア 音楽:アルベルト・イグレシアス 編集:ホセ・サルセド 撮影監督:ロドリゴ・プリエト 
キャスト ペネロペ・クルス ルイス・オマール ブランカ・ポルティージョ ホセ・ルイス・ゴメス ルーベン・オチャンディアーノ タマル・ノバス 他
※こちらのエントリーもどうぞ。

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