« シネコン至上主義#6 | メイン | シネコン至上主義#8 »

【映画2013】シネコン至上主義#7

「フラッシュバックメモリーズ3D」、「エンド・オブ・ザ・ワールド」、「テッド」、「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」、「デッド寿司」、「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」をオススメ。

「水道橋博士のメルマ旬報」で連載中の「シネコン至上主義――DVDでは遅すぎる」のバックナンバーです。

試写会ではなく、都内のシネコンなどで普通のお客さんといっしょに
お金を払ってみた映画作品の推薦文です。
映画を映画館で見る理由となる3つの要素について
五点満点で採点しています。
星が少なくてもお金を払って見るに足ると評価した映画だけを
紹介しています。

「スクリーン必然性」3D効果や臨場感、サウンドなど、
家庭のテレビ画面でなく、映画館で見る必然性を示します。

「インストール強度」人生の一部として、自分の中に
どの程度インストールされるかの目安です。

「おっぱい指数」映画に必要な裸の女優の割合を
物理的なものだけでなく、色気も含めて評価します。

例年、正月の大作映画が一段落し、
劇場の番組が入れ替わるシーズンには傑作が多いのですが、
今年も格別の作品ばかりです。




【フラッシュバックメモリーズ3D】


スクリーン必然性 ★★★★★
インストール強度 ★★★★★
おっぱい指数   ★

■推薦文
これこそ、あらゆる映画をあとまわしにしても見るべき作品だ。

現実を記録し、それを再生するという手法から
ドキュメンタリーの時制は過去形にならざるをえないのだが、
3Dを導入することにより、その時制を現在形へと
軽やかにシフトさせた映像的事件。
3Dということの欠点はただひとつ。
大きなメガネをかけているおかげで、
流れる涙がぬぐいにくいことだけだ。

2012年秋の東京国際映画祭で、
この映画が話題になったことは知っていた。
前売りチケットは瞬殺で入手できなかった。
ツイッターのタイムラインに流れ、
ブログを彩ることばの熱気がただごとではない。
メインのスチルを見ると、
サイケデリックなイラストの中央で坊主頭の男が、
両手を高くかざしているだけ。
まるで70年代あたりの古いセンスに思える。
その人気のありかがどこにあるかがわからない。
「まったく新しい3Dの使い方」と書かれていても、
ディジュリドゥという長い楽器を振り回すのに
効果的なのかと思うばかりだ。

映画祭会場で朝から並んでも当日券は買えなかった。
映画祭で観客賞をとったと聞いて、ほぞをかんだ。
都内の先行上映もタイミングが悪かった。
やっと公開初日に劇場に駆けつけ、映画を観た。
観たということばでは足りない。
体験した。浴びた。

2Dでの公開もあるけれど、2Dで見てはいけない。
いつか、DVDも出るかもしれないが、
音のいい映画館で3Dで見るべき作品だ。

主役となるGOMAはディジュルドゥの奏者だ。
ディジュリドゥはオーストラリア先住民のアボリジニの楽器である。
もともとはシロアリに食われ、
空洞になったユーカリの木で作られており、
世界最古の管楽器ともいわれている。
この映画で楽器と音色とが初めて一致したけれど
「ライトスタッフ」でアボリジニが登場するあたりで流れていた
あの音だというのに気がついた。
映画音楽としてはほかにも使われていようだ。

GOMAは首都高を走行中に追突事故に遭い、記憶の一部が消えたり、
新しい体験を忘れてしまうという高次脳機能障害が残ることになる。
アルバムの写真を見ても、自分がなぜそこにいて、
だれと笑っているのかわからない。
この映画でさえ、撮影したときのことを覚えていないそうだ。
クリストファー・ノーランの出世作「メメント」では、
過去10分の記憶しか持てない主人公が描かれているが、
その現実版でさえある。

事故直後にはディジュリドゥが楽器であることさえわからなかった
GOMAだが、体はディジュリドゥを覚えていた。

この映画における発明は、過去から現在に通じるGOMAの記録映像を
画面の奥に2Dで流しながら、手前にはライブでディジュリドゥを
演奏するGOMAとそのバンド、The Jungle Rhythm Sectionの姿が
映しだされていることだ。
3Dだから、手が届きそうな距離感にGOMAがいる。
その距離感の生々しさが、観客に「いま」を意識させる。
この演奏の記憶さえ、いつか消えてしまうのだと思うとやるせなくなる。
しかし、鮮烈なパフォーマンスは浅薄な感傷さえ押し流していく。

そして、奥の画面で展開される「失われた記憶」の2D映像。
単身でオーストラリアに渡った。
ストリートで演奏した。
コンペティションで入賞した。
結婚した。
子供が生まれた。
世界を放浪した。
ライブに出演した。
彼の肉声はほとんどでてこない。
情報は最小限の字幕でぼくらに送られる。
そして、運命の2009年11月。

経験した本人がなくした記憶、失われた大切な過去を
ぼくらは映画館で見つめている。

"生"とは記憶の蓄積ならば、"死"とは不可逆の忘却。
きわめて"死"に近いところで、すさまじい演奏を見せてくれる
GOMAの"いま"をぼくらが見つめる。
"命"とは体験の共有にあるのかもしれない。

■採点理由
3Dでなければだめ。暗闇に浮かぶ大画面でなければだめ。
大音響でなければだめ。ひとりでなくて、ライブハウスのように大勢と
観なければだめ。だから「スクリーン必然性」は満点の★★★★★だ。
ことばは失われるが、この体験が色褪せることはないから
「インストール強度」★★★★★だ。
「おっぱい指数」はもちろん、★。


■以下ネタバレ
絵を描いたことがなかったGOMAが突然、描きだした緻密な点描画。
そうかメインに使っていたスチル画像はこれだったのか。
映画を体験したあとだとその意味がわかり、ぞくぞくする。
アウトサイダー・アートのひとつとも言えるが、
ルイス・ウェインのことを思い出した。
擬人化した猫の絵を描いていたが、統合失調症になり、
画風がまるっきり変わってしまったアーティストだ。
脳の仕組みはほんとうに不思議だ。




【エンド・オブ・ザ・ワールド】


スクリーン必然性 ★★★
インストール強度 ★★
おっぱい指数   ★★

■推薦文
やられた! 一生、忘れられない映画がもう一本。
破滅ものであり、ロードムービーであり、ラブストーリーであり、
キーラ・ナイトレイだ!

とにかくキーラ・ナイトレイが最高なのだ。
最近のキーラ・ナイトレイといえば、
「危険なメソッド」や「恋と愛の測り方」など、陰鬱な映画が多く、
とりわけ「危険なメソッド」では、CGも特殊メイクも使わず、
凄絶な顔芸まで披露していたのだが、
「エンド・オブ・ザ・ワールド」はとにかくチャーミング。
「ベッカムに恋して」や「ラブ・アクチュアリー」のときの
かわいくてたまらないキーラが帰ってきた。

ただ、話は一筋縄ではいかない。
地球に小惑星マチルダが衝突する。
破壊作戦は失敗に終わり、21日後、人類は滅亡することになった。
ここまでで冒頭3分間。そんな中で出会った男女。
せっかく人類が滅亡するのに、
悲劇でもSFでもアクションでもなく、
ロマンチック・コメディといってもいい展開となる。
キャスティングも絶妙だ。
「40歳の童貞男」、「ラブ・アゲイン」が記憶に新しい
コメディアン出身のスティーブ・カレルが枯れた中年男を演じ、
キーラ・ナイトレイがコミカルでチャーミングなドジっ子を演じている。
どれくらいドジっ子かといえば、
恋人との喧嘩のために、家族と故郷で過ごすための
最後の飛行機に乗り遅れるくらいだ。

人類滅亡の危機といえば、
大統領や総理大臣や科学者や南極越冬隊や石油採掘屋が活躍するものだが、
先述のように冒頭3分でそんな活躍は終わっている。
「アルマゲドン」というよりは「ディープインパクト」のトーンであり、
「ディープインパクト」というよりは
「渚にて」のような人としての尊厳を際立たせている。

「渚にて」は核による最終戦争で最後に生き残った
オーストラリアを舞台に、放射能汚染が広がり、
滅亡するまでの日々を美しく描いた作品だ。
ぼくが子供のころは、よくテレビで観たけれど、
モノクロのせいか、最近めっきり見なくなってしまった。
ちなみにラッセル・マルケイが演出したリメイクドラマのタイトルが
「エンド・オブ・ザ・ワールド」なのでややこしい。

小惑星の名前がマチルダというのは、「渚にて」のテーマとして
使われる「ウォルシング・マチルダ」が念頭にあるのか。
また、スティーブ・カレル演じる主人公の名前がドッジ。
トラブルを避け(dodge)して生きてきた。
犬の名前がソーリー。出会ったときからごめんなさい。

「渚にて」は静寂の中、尊厳ある死を選ぶ人の映画だったが、
「エンド・オブ・ザ・ワールド」は予定された死に抗わず、
最後まで人として生きることを選ぶ人間らしさをきちんと描いた映画だ。
暴徒の発生も描いているが、
だれひとりとして逃げることができない死を前にすると、
人はよりよき生をめざそうとするのではないだろうか。
そういう人々の悲喜劇はぬかりなく描いている。

残念ながら日本では単館系の公開で、上映期間も短い作品だが、
機会があればぜひ、御覧ください。

キーラ・ナイトレイと過ごせる数日があるなら、
世界が滅びても後悔しない。

■採点理由
とてもいい映画で、本来は最新のシネコンの映像と音響で観たいけれど、
そうもいかないので「スクリーン必然性」は★★★。
インパクトの強さよりもしみてくる味わいがポイントだから
「インストール強度」は★★。
多くの映画でおっぱいを見せているキーラ・ナイトレイだが、
今回は露出も少なく「おっぱい指数」は★★。

■以下ネタバレ
映画の中ででてくる「friendsies」というレストラン。
知らないチェーンだと思ったけど、架空の店のようだ。
もうすぐ終わるというときなら、あんなレストランにいきたいよ。

「Seeking a Friend for the End of the World」というタイトルだが、
邦題は縮めて、「エンド・オブ・ザ・ワールド」。
同名邦題はいくつもある。
せめてもうちょっと考えたタイトルをつけてほしかった。




【テッド】


スクリーン必然性 ★★★
インストール強度 ★★
おっぱい指数   ★★★

■推薦文
言わずと知れた大ヒット作品。
アメリカでは男同士が観にいって馬鹿笑いしそうな内容だが、
日本では女子高生が殺到しているというおもしろさ。
育ちすぎた中年テディベアのコメディだ。

数年前から、男同士がつるみながら、さりとてゲイというわけでもない
関係をホモソーシャルなんていうけれど、
映画でいえば「300」や「スーパーバッド 童貞ウォーズ」、
「ハングオーバー!」なんてのもあったね。
広義では「ビルとテッドの地獄旅行」や「ウェインズ・ワールド」、
さらに広げたら「ホビット」なんてのも
ホモソーシャル映画になるのかもしれない。
理屈抜きの男の絆の泣き笑い。
厳密にホモソーシャルを語ると、
ミソジニー(女性蔑視・女性嫌悪)まで入るので、そこは抜いとこう。

この映画もベースにはホモソーシャルの関係がある。
ただ主人公のパートナーとなるのが、
話すテディベアというのがスペシャルだ。

女子高生にとっては、下品なことをいうテディベアが
かわいいってことで、盛りあがる映画だけど、
40代サブカル映画好きにとっては、
ここに登場する様々な映画やドラマ要素の豊富さに泣くしかない。

「フラッシュゴードン」、「ナイト・ライダー」、「トップガン」、
「サタデー・ナイト・フィーバー」「スター・ウォーズ」、
「スーパーマン・リターンズ」、「トワイライト」、
「ボーン・スプレマシー」、「ボーン・アルティメイタム」、
「オクトパシー」、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」。
そういったネタがふんだんに出てくる。
映画好きにとっては至福のパロディ作品になっているのだ。

無邪気に笑っている女子高生に、
「あのシーンで流れる音楽は」とかウンチクをたれて
嫌われたいサブカル中年は多いだろう。
でも、忍耐が必要だ。
そういう作品が好きで語りたいのなら、
ホモソーシャルの中だけにしとけ。

テッドは悪友というだけでない、
兄であり、父親、導師的な存在でもある。
だから、最低でありながら、ずるさとか、卑しさとかは感じられない。
どん引きしそうな、下品なネタはまきちらしながら、意外と紳士なのだ。
おっさん、しょうがないなというレベルでとどめている。

そのあたりが日本でも受けているポイントなのだろう。

「 江戸っ子は五月の鯉の吹流し、口先ばかりではらわたは無し」
なんて言うけど、
「テッドは茶色のクマのぬいぐるみ 下品に言うが卑しくは無し」
って映画なのだ。

■採点理由
満員の映画館で、大笑いする楽しさがあるので
「スクリーン必然性」は★★★。
楽しく笑って、気持よく忘れられるから「インストール強度」は★★。
ちゃんとおっぱいが出てくるけど、色気はほとんどないから
「おっぱい指数」は★★★。

■以下ネタバレ
友人がツイートしていたのだが、パロディにも気合が入っている。
「サタデー・ナイト・フィーバー」のシーンなどは、
「サタデー・ナイト・フィーバー」を
パロディにした「フライングハイ」のシーン由来なのだそうだ。
すごすぎる。濃すぎる。

【マリーゴールド・ホテルで会いましょう】

スクリーン必然性 ★★★
インストール強度 ★★★★
おっぱい指数   ★

■推薦文
映画がくれるドラマとしては最上の部類。
おれは大好きだし、おれが大好きなすべての人に
無条件の推薦状とともに見てもらいたい秀作。
人生のどの時点でも人は変われるし、新しい居場所を見つけられる。

映画を観たのは10月の東京国際映画祭だったが、
3ヶ月以上たったいまでも、思い出すと胸が熱くなるのだから、
たまらない。

インドのジャイプールで人生の晩年を迎える決意をした
7人のイギリス人の物語。
役者も最高だが、上質の舞台劇を思わせるシナリオも最高。
ロケも素晴らしくて、泣き笑い、それぞれの質も高い。

この映画の主役は老人たちだけれど、枯れた映画ではなくて
画面全体、物語全体に花があるのだ。彩りに満ちているのだ。

こういう映画が生まれるイギリスというのはいいな。
かつて世界中に植民地を持っていた国だからこそ、
(後世から観た是非はともかく)
このような形で歴史が反映されるのかもしれない。

主演のジュディ・デンチはつい最近、「007 スカイフォール」で
Mを引退したばかりだが、
しかめっ面のMの顔ではなくユーモラスで上品な表情が微笑ましい。

描かれるのは、インドの全貌とはいえないだろうが、
インドの過去の遺産と未来の可能性がさりげなく描かれるので、
たまらない。

自分はすでに若い学生さんよりもこの映画に出てくる老人に近い世代だ。
老人たちに感情移入することは多い。
それでもこれから社会にでる若い人にこの映画を見せてあげたい。
いくつになってもあなたたちの人生は、
挑戦と決断と旅に満ちているのだから。

■採点理由
色彩と音にあふれるインドの臨場感を味わうために
「スクリーン必然性」は★★★。
時間がたっても、あのおじいちゃんやおばあちゃんたち、
いまインドでがんばってるのかなと身内のように思えてしまうので
「インストール強度」は★★★★。
意外とセックスネタもあるけれど、
その処理がうますぎるコメディなので「おっぱい指数」は★。


■以下ネタバレ
インドのカーストにおける不可触民(アンタッチャブル)が
登場するシーンがある。
映画祭で観たときの字幕はそこに関連して
「different community」を「違う土地」と訳していた。
ぼかしたつもりかもしれないが、
それを「土地」としてはいけないだろう。
社会構造の差別をともなうコミュニティだからこそ、
きちんとしたことばをあてなくてはいけない。




【デッド寿司】


スクリーン必然性 ★★★★
インストール強度 ★★★
おっぱい指数   ★★★★

■推薦文
2011年の日本映画ベストといえば、
だれがなんといおうと「電人ザボーガー」である。
クリストファー・ノーランの「ダークナイト」の続編といえば、
「ダークナイト・ライジング」なんかじゃない。
井口昇監督の「電人ザボーガー」だったのではないかと思えるくらい、
テーマ的にも心情的にもなにより心意気の面で、
ヒーローと正義の葛藤を描いていた。

その井口昇監督の最新作だよ。
おもしろくないわけがないじゃないか。

温泉旅館を舞台にゾンビ化する寿司!
廊下を飛び! 宙を舞い! 増殖し! 人を喰う!
恐れを知らぬゾンビ寿司に立ち向かうのは、
一子相伝、寿司職人の技と才覚を継承する少女なのだ。
その少女をサポートするのは、心に傷を負った松崎しげる。
「ゾンバイオ」とか「アタック・オブ・キラー・トマト」の究極進化形!
寿司ネタふんだんにして、映画ネタ炸裂の多幸空間だ。

くだらないものを正しく描くためには、
とことんのこだわりはもとより、
くだらないことこそ、おもしろいと信じる強さが必要だ。
こどものころから好きだった。
おとなにいったら、軽蔑されると思っていた。
信じきれなかったおれは敗者だ。
おとなの目を気にして、いつしか、
くだらないことを封印してしまった。
しかし、井口昇監督のおかげで、そのくだらなさの中にこそ、
至福があることを知った。
井口昇監督こそ、最後の勝者なのだろう。

矢継ぎ早に打ち出されるアイデアは、
酒場でだれもが口にするようなネタばかりなのだが、
作り手自身がうっかり、しらけることなく、
そのおもしろさを信じて正面突破してくれる。

最上のタイヤキのように、すみずみまであんこがつまっている。
しかもすべて人懐っこくて、温かな気持ちになるのだ。

ああもう、つべこべいってる場合じゃない。
とにかく見てください。ハリウッドよ、これが映画だ。

■採点理由
家でのんびり見てる場合じゃない。
くだらないことが好きなひとといっしょに
映画館で心から笑うべきだから「スクリーン必然性」は★★★★だ。
これから寿司を見るたびに、ネタに小さな歯がついてるんじゃないかと
想像することになりそうだから「インストール強度」は★★★だ。
おっぱいがでてくるのは1シーンだけだが、
もうそこが最高すぎるから「おっぱい指数」は
★★★★の大盤振る舞いだ。

■以下ネタバレ
こういう映画をネタバレとかなんとかで語るのは失礼ですね。




【ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日】

スクリーン必然性 ★★★★★
インストール強度 ★★★★★
おっぱい指数   ★

■推薦文
ああ、つまりこういうのが、映画の原初的な楽しさなんだろうな。

救命ボートでベンガルトラと漂流するだけの話だ。
それがこんなにエキサイティングで示唆に富み、
興奮に満ちたものになるとは思わなかった。
そして、なにかを物語ることの真剣な意志まで
問われるとは思わなかったよ。

子供のころに父と一緒にみた黒澤明の映画
「デルス・ウザーラ」を思い出した。
シベリアと太平洋の差はあるけど、
どちらもトラと人の孤独なサバイバル映画だ。
そしてトラが象徴するものはふたつの作品で共通している。

太平洋戦争末期、南太平洋の孤島に漂着した日米両国の軍人が対立し
、協力する映画「太平洋の地獄」も思い出した。
しかし、敵兵と違って、トラはことばを話さない。

観るとしたらIMAX3D の一択だ。
その画面の大きさ、その立体視でしか感じられない
ディテールと迫真がある。
最初は関東最大のIMAXスクリーンである成田HUMAXでみた。
中学一年生の甥にも見せたくなり、
109シネマ川崎のIMAXに連れていった。
すばらしく興奮していた。

二回見ると、一回目では気づかない寓意が明らかになってくる。
無駄のない構成がはっきりしてくる。
映画のラストでは、人が生きるかぎり、問いつづけていく
ある質問が投げかけられるのだが、
その質問にいたる要素が冒頭で周到に散りばめられていたことがわかる。

とはいえ、難しい映画ではない。

いっしょにいった甥はダイナミックな3D効果に
何度も何度も座席でのけぞっていた。
知恵と勇気のサバイバルだが、映像のすべてが美しい。
「グリーン・デスティニー」以来、
手放しで好きだといえるアン・リー作品だった。
どこを切りだしても、神秘的な美しさと興奮が同居している。
なにより、随所にあふれるユーモアがたまらない。

旅が終わるとき、多くの人が涙を流す。
なぜ、涙を流すのか。
凡百のメロドラマでは味わえないプリミティブで普遍的な涙だ。

映画の機能のひとつが、
知らない世界で繰り広げられる
エキサイティングな体験ということであれば、
この映画の喜びはそこにある。

■採点理由
「スクリーン必然性」というより「IMAX必然性」がきわめて高い。
ぜひIMAXでといいたいから「スクリーン必然性」は★★★★★。
エキサイティングに胸を震わせ、深い命題が心を占める。
だから「インストール強度」は★★★★★だ。
インドのきれいな女性は出てくるけど、基本的に「おっぱい指数」は★。

■以下ネタバレ
小便といわれ、いじられてしまう自分の名前を
パイとするために物語を作ること。
トラの目の中にあるのは自分の姿であること。
信仰に必要な大地のこと。
ことばのひとつ、ひとつが啓示に満ちている。

フランスの名優、ジェラール・ドパルデューが意外な役で出ているが、
彼の印象深い登場が、この映画の中で意味を持っているのが
わかったときには、すごい驚きがあった。

この映画の多くはCGで作られたものだが、
ピーター・ジャクソンが「ロード・オブ・ザ・リング」によって、
母国、ニュージーランドに映画産業を興隆させたように、
この映画のアン・リー監督はプール撮影やCG製作を母国の台湾で行い、
台湾を世界の映画産業の拠点としている。
そういうことさえ、胸が震えてしまうのだ。

★今月とりあげなかった映画
おすすめの映画をなるべく紹介したいのですが、
今回、いろんな理由で紹介しなかった映画は以下のものです。
今回はどれもかなりおもしろかったのですが、豊作すぎて困ります。

「東京家族」
「ロンドンゾンビ紀行」
「特命戦隊ゴーバスターズVS海賊戦隊ゴーカイジャー THE MOVIE」
「アルバート氏の人生」
「みなさん、さようなら」
「アウトロー」
「アルマジロ」

★近況
薄い航空機ファンなのです。
最新鋭のB787に乗りボストンを起点とした
アメリカ旅行を企画していたのですが、
ご存知の通り、同機による運行が取りやめになってしまいました。

大慌てで、目的地をニューヨークに変更。
変更手数料が無料のご厚意で変更できたのですが、
なんとも残念なかぎりです。

取材で駐機中のB787の内部を見せてもらったことはあるのですが、
やっぱり飛んでいる状態を味わいたかったですね。
事故原因が早く究明されますように。


最新映画については、「水道橋博士のメルマ旬報」で、ご紹介!

※こちらのエントリーもどうぞ。

« シネコン至上主義#6 | メイン | シネコン至上主義#8 »

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

                

最近のエントリー

カウンターetc

人気ブログランキング - ゲームの王道 atom rss2.0
total カウンタ:today カウンタ:yesterday カウンタ

Pagerank/ページランク

人気記事ランキング

Google Adsense